エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略・明日のために)76
酒蔵に突入してコモドドラゴンを出現させる。西側のバリスタがすべて潰れたところで、サッサと次の南西エリアに飛んだ。
もう何度目だ?
投石機を破壊しつつ橋の袂の詰め所の階段を下り、落書きを確認する。
キメラが織物工場を襲うところをこちらもしばし観戦。キメラが討伐されたことを確認したところで、空き地に飛ぶ。そして織物工場まで青空の下、飛空艇に乗って移動する。
馬鹿犬が空に向けて吠えてきたので大岩を落としてやる。弓矢が飛んできたらこれまた大岩を落としてやる。
「やることないのです」
「ナーナ」
「顔を出して弓で射られるなよ」
「仕方がないのでおやつにするのです」
「それが言いたかっただけか!」
「お湯が欲しいのです」
「ティーセットは使うなよ。今は警戒中だからな」
「んー」
船と一緒にリオナお気に入りのピクニックセットを積んできたのである。が、さすがに戦闘になるかも知れない場所では広げられない。いつも通りのマグカップで我慢するように。
僕はポットにお湯を沸かした。
「おー、やられておるな」
アイシャさんが織物工場の廃墟を見下ろした。
「前回ここに来たときはキメラに襲撃されてなかったんでしたっけ」
うまい具合に警戒をかいくぐってきたんだよな。キメラに町を壊されると移動が困難になるから確か出現させなかったんだよな。今回は飛空艇があるからその心配がないわけだが。
ひどいなこりゃ、投石機のあった尖塔は天井ごと剥ぎ取られていた。もぎ取った当人はどこかで魔石になってるか、それも消えているだろう。
「敵影なし」
糸玉がある場所は分かっているので、裏の勝手口から入って上の階の倉庫を目指した。
新色はなかったので目的の茶色の糸玉を探したら、すぐ予定の数が集まった。
本日はこれにて終了。
であるが、帰る前に城に戻って宝物庫漁りをしていくことに。次回来たときは回収する時間が取れないと思うので、今のうちに貰える物は貰っておくことにする。リセットしてからまた来ることになるが、次回は次回の風が吹く。
「あった!」
リオナが叫んだ。何かを引き抜いて尻餅をついた。
握っていたのは地図だった。
「どこの地図だ?」
みんな回収そっちのけで覗き込んだ。
「北かな?」
ロメオ君はそう言いながら残りの地図と照らし合わせた。
北西のエリアの地図とピタリと合った。
「へー、宝物庫からも出るんだ」
ナガレが感心した。
「宝物庫だからかもしれんぞ」
「じゃあ、次回は北を攻略して、暗くなったらリセットして東を調べる?」
「地図のある所は後回しにする手もあるぞ」
「探索してるうちに余所の地図が見つかるのなら、地図のあるエリアからってのもありじゃない?」
アイシャさんとロザリアが言った。
「どうする?」
みんな僕を見る。
僕はしばし考えた。
正直そこまで躍起にならなくてもいいと思っていた。のんびりやればいいと。でもさすがに夜が来る度にリセットを入れ、バリスタを黙らせるのは正直、面倒臭いのである。
「今後東エリアが基点になることは間違いないから東から行こうと思う。日が暮れたら、リセットして、コモドドラゴンを起こしてバリスタを殲滅、そのまま城の東門から逆走して東エリアを攻略する」
「じゃ、そう言うことで」
みんな了承してお宝回収に戻っていった。
スプレコーンの雨は上がっていた。
自宅に戻ると姉さんがいて、レオと魔法談義をしていた。紹介しようと言ってすっかり忘れていたが、レオはなんとか話を付けたようだ。
「持ってきてやったぞ」
何かと思ったらロメオ君の所に展示してあった諸々を回収して運んできてくれたのだった。
僕たちは装備をそのままに姉さんと一緒に地下に降りた。
「十六人だ」
なんのことかと思ったら、リオナが言った。
「負けたのです」
「何?」
「展示品を撤収する日に会わせて襲撃してくる盗賊がどれくらいいるか賭けたんだ。十五人以下ならリオナの勝ちだったんだがな」
ギルドからの回収自体は昨日のうちに終わっていた。ただ、行き先を悟らせないためにいろいろ偽装するのに一日を要したのだった。
どうやって運んだのか、今は宝物庫に適当に置かれていた。
「バラバラなのです」
金塊もミスリルも細切れにされていた。さすがに塊のままでは運べなかったようだ。
いつでも魔法で塊に戻せるのでどうでもいいことだが。
撤収の諸経費は展示会のうちの取り分から天引きされるので、領収書だけ貰った。
「悪いな、エルネスト。一つ頼む」
なんのことかと思ったらリオナの賭けたものが、宝物庫にある宝石のどれでも一つを僕が加工して姉さんに渡すというものだった。当然宝石自体はリオナの分配分からさっ引かれることになるのだが。
「何賭けた?」
リオナはすまなそうに耳をぺたりとたたんで上目遣いに見上げた。
「エルリンが子供の頃使ってたマグカップ」
とんだプレミアが付いたもんだ。ていうか、そんな物どこから持ってきた!
「うむ。これでよかろう。一つよろしく頼む」
姉さんは悪びれることなく、僕が仕分けしておいた最高クラスの石が並んだ棚から一つ取り出して僕の前に提示した。
「手を抜くなよ」
まったくもう! どういう価値観してるんだよ! 最高クラスの宝石とただのマグカップが同価値って!
僕はその場で『鉱物精製』を施した。
結果的にリオナ以外の残りのメンバーの分も作ることになった。
レオは興味深そうに見詰めていた。
「これでいくらになるんですか?」
「お前の標準装備が百個は買ってもまだ余る」
アイシャさんがまたレオを苛めるが、レオはそれどころではない。
価値を聞いて驚いて、できたての宝石ににじり寄った。
「宝石拾ってきたら、加工してやるよ。多少は高く売れるからさ」
「ほんとに?」
個別に設けた保管スペースに宝石を一つずつ収めていった。勿論リオナの分はなしだ。
僕はついでに今日の分をぶちまけた。
宝物庫にあったありったけだ。
「まったく、毎日毎日どこから回収してくるんだか?」
レオは目を丸くした。
「そうだ、レオの保管スペースも用意しないとな」
「チコの隣がいいか?」
「ええ、チコちゃん?」
ここには僕たちメンバー以外にも、ピノたち船員の分も収められていた。ドラゴン討伐やら何やらで得た報酬がそれなりに溜まっているのである。基本的に当座の現金と宝石に換金してあるので場所は取らないのだが、ピノの置き場だけは最近いろいろ置かれるようになってきた。
ちなみにアンジェラさんやエミリーのスペースもある。
個別のスペースには専用の鍵も一応用意してあるのだが、使っているのを見たことがない。
この部屋に入るだけでも姉さんの仕掛けたトラップを幾重にもかい潜る必要があるのだから、それに比べたら末端の鍵などは余り意味がないのである。
「名札は後で作っておいてやろう」
アイシャさんが言った。
その夜は姉さんも一緒に食事を取った。姉さんは僕たちの進捗状況を聞いて呆れた。
一方、ロメオ君が地図を広げて話す内容を、レオは目を輝かせて聞いていた。




