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エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略・漁夫の利)71

 昼食を取る間、作戦会議をした。

「このまま行けるところまで行っても仕方ないのではないか?」

 アイシャさんの一言が状況の変化を表わしていた。地図の発見によって周囲をくまなく散策する必然性が大幅に縮小したからだ。

 勿論、全体マップの完成はしておきたいところだが、方向性が変わったのだ。

 要するに自分の足で、という方法ではなく、地図の回収によってということである。

 どっちにしろ地図を見つけるまでは散策を続ける羽目になるのだが。

「問題はどこにあるかだよね」

 ロメオ君の言うようにそこが問題だ。

 リセットの問題と共に大きな課題ができた。

「取り敢えず今進んでいるエリアは放棄する?」

「リオナはあのおっきな建物見てみたい」

「ナーナ」

「見学」

「ここまで来てあれを見ない手はないでしょ」

 ロメオ君も見たいようだ。

「なら、このまま最短ルートを行くしかあるまい。おさらばするのはその後じゃ」

 全員賛同の元、午後の予定が決まった。目指すは尖塔のある大きな建物だ。

 でもその前に。

「リセットされたわけだから、これ」

 僕は水色の糸玉を出した。橋の袂から宝物庫手前へポイントを変更した水色の糸玉だ。

「ああ!」


 昼食後、活動再開してわずか一時間で尖塔のある建物にやって来た。

「教会?」

「いくらミノタウロスの物件でも大き過ぎない?」

「門番の類いはいないな」

「庭にもいないのです」

 周囲を警戒しながら、まず門扉に接近する。

「鍵掛かってるのです」

『迷宮の鍵』は規格外だった。

 魔法で錠の掛かった鎖を切った。

「なんだここ?」

 廃墟で間違いなさそうだが。

 建物の入口を探した。さすがに正面扉からはまずいだろう。

 裏手に回るとすぐに裏口が見つかった。

 罠はなさそうだけど念のために、慎重に。

 ヘモジを窓から侵入させて扉を開けさせた。

「ナーナ」

 僕たちは建物に雪崩れ込む。

 小部屋と通路が続いていた。

 敵の反応は……

「上にいる」

 一階にはいないようなので、小部屋を一回りする。どうやら手前が厨房と食堂、通路の先が事務部屋と資料室のようだった。役に立ちそうな物は何もなかった。台所にあの嫌な酒の臭いが充満しているだけだった。

 通路の突き当たりの奥に扉があった。

 そっと開けて先を覗き込む。

「これは!」

 そこにあったものは大量の機織り器だった。

 ここって織物工場?

 吹き抜けの上階にはミノタウロスがいた。

「何体いる?」

 三、四か? 他には…… 二階の上にもいるな。

 扉の手前、左手に二階への階段がある。

 僕たちは階段を慎重に上がり、様子を伺う。

 工場に続く扉を探すが、二階からは通じていなかった。あるのは工場内を見下ろす窓だけだった。

「四体だ」

「三階にも三体いる」

「鎖の音はしないのです」

 ハンターなしか。

「工場とは別区画になってるのかな?」

 振り返って独立しているフロアを調べる。会議室のような部屋と空き部屋だけで欲しいものは何もなかった。

 更に上の階に上がっても状況は変わらなかった。

 尖塔に上がる階段はこれでいいのか?

 こちら側の事務棟には敵はいなかったが、倉庫部屋があった。

 糸玉を大量に見つけた。色が被らないようにすると使えそうなのは四色だけだった。赤色、橙色、紫色、茶色。被る色も何色かあったが、予備も含めて二個までとした。大収穫である。

 四階まで上がると外に出られる扉を見つけた。


 扉を開けた先に目指す尖塔があった!

「鎖の音!」

 傾斜のきつい煉瓦の屋根の上にオルトロスがいた。

「まずい!」

 見つかった! 三匹のオルトロスが滑る瓦に足を取られながら必死に迫ってくる。

「ナーナ」

 ヘモジがボーガンで射た。

「キャン!」

 吹っ飛んで瓦にバウンドするとそのまま下まで落ちていった。

 もう一匹をリオナが狙撃した。

 二つの頭の一方が力尽きて垂れ下がると、残った頭と胴体は引き摺られて勢いのまま斜面を転がり落ちた。

 残った一匹は途中から引き返して主に御注進である。が、この一匹もすぐ動かなくなった。

 アイシャさんの強力な風の魔法で追い風を受けてオルトロスは宙に投げ出されてそのまま塔の壁に激突。転がって落ちた。

 だが、塔の上の連中には気付かれた。

 投石機をこちらに回している。

「この角度で狙えるの?」

 ロメオ君が言った。さすがに近過ぎるだろうと。

 塔の上でミノタウロスが騒いでいる。

 手の空いてる兵に下りて戦えとか隊長が命令しているのだろう。

 ガッシャン。

 投石器の岩の載ったスプーンが留め具から解放された。巨大なスプーンの先が一瞬見えた。

「どっか行った」

 オクタヴィアがリュックから頭を出して髭をひくつかせながら空を見上げて言った。

 僕たちのいる方角の遙か後方に衝撃と共に土煙が上がった。

「撃つ前に分からないのか?」

 塔と屋根の繋ぎ目にある階段出口から、ワラワラとミノタウロスの兵隊が出てきた。

「あー、来た来た」

 ロメオ君は傾斜のきつい煉瓦屋根を凍らせた。

「グゥワァアアア」

 一体が足を取られて転がると、後続までもが巻き込まれて滑り落ちていった。

 なんとかこちらに渡り切れそうな敵は、ナガレが雷を落としてとどめを刺した。

「よし、行こう」

 氷を溶かしながら塔に向かった。上に残っている敵は後二体だけだ。スプーンに岩を置くだけでも苦労していることだろう。

 岩を運ぶ昇降機があった。さっきの連中はこれに載って下りてきたようだ。

 階段下まで来て気付いた。岩を階段から落とされたらたまらないと。

 フライングボードを使った。

 僕とロメオ君とリオナが飛んだ。

 そして上にいる二体を呆気なく倒した。

 下からアイシャさんたちも上がってくる。

「特に何もないよ」

 僕が言うと「景色はあるでしょ?」とナガレに返された。

 持ち帰りたい物は何もなかったので、予定通り、宝物庫に飛ぶことにした。


「まずいね」

「まずいわね」

 ロメオ君とロザリアが言った。

 気付かれないように選んだはずの場所だったが、なかなか厄介なことになっていた。

 当然のことながら城壁のバリスタもリセットで生き返っている。

 普通、外を向いている物なのだが、コモド戦を想定してここのは移動式の架台になっているのだ。

 バリスタでなくても城壁の兵だけで結構な数だ。一斉に狭いこの場所に攻め込まれたら面倒この上ない。

「あれだな。次からはあの落書きのある地下の酒蔵に飛ぶ方がいいな」

 コモドに援軍に来て貰って漁夫の利を狙った方がいいだろう。

「じゃ、今回は」

 アイシャさんが僕を見る。

 あ、そっか。

 酒蔵の入口まで転移すればいいのか。いや、それだったら宝物庫の……

 僕は酒蔵と宝物庫を交互に指差した。

 全員が酒蔵を躊躇なく指差す。

「見たい」

 オクタヴィアが僕の肩に身を乗り出した。

「みんな物好きだな」

 でも気持ちは分かる。

 僕は酒蔵の入口に飛んだ。この際見つかっても構わない。すぐにコモドドラゴン戦が始まるのだ。

 ゲートを出ると酒蔵に突入した。そしてヘモジを先頭に地下に降りると例の落書きを見つけた。

 衝撃が走った。

「来たのです! わくわくするのです」

 僕たちは外を目指した。

 中庭に出ると、コモドドラゴンが既に降臨していた。

 昼間だからよく見える。

 コモドは炎を撒き散らしながら、降り注ぐ弓矢を薙ぎ払っていた。

 ミノタウロスの弓兵と魔法使いたちはバリスタが向きを変えるまで果敢に応戦した。

「一瞬で泥沼だな」

 双方が最初の一合で瀕していた。

 ドラゴンは恐らく飛来したときに杭を翼に打ち込まれたのだろう。前回同様、外壁を突き破ぶって一部城壁を倒壊させていた。

 ようやく向きを変えたバリスタがドラゴンに攻撃を仕掛け始めた。

 ドラゴンもブレスを吐いて応戦するが、目を射貫かれているようで距離感が掴めていないようだった。

 互角のつぶし合いをしてやがて、双方最後のときがやってくる。

 最後に残ったバリスタから放たれた杭と最後のブレスが交錯し、戦場は静まり返った。

「肉がボロボロなのです」

 回収するか気が引ける有様だった。

 一応回収することにして、宝物庫を目指すことにした。


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