エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略・武器屋)70
僕たちが進めるのはここから尖塔のある建物の先までになった。エリアが区切られたことでやり易くなったとも言えるが、先に進めなくなったら元の木阿弥だ。
行く先々のエリアも多少の被害を被っていたが、まだ震源が遠いせいもあり進攻にはさしたる障害にはなっていなかった。
破壊されたエリアの境界に辿り着くとそこから内側に折れた。
街道を越えるとミノタウロスのクラスや装備が変わった。と言っても余り違いは分からないのだが。まあ、一番強い王様を倒しているのだから推して知るべしである。
ただ、魔法使いと、飼い慣らしたオルトロスを連れたハンターも出現しているので要注意である。
特に飼い慣らされたオルトロスは放し飼いのオルトロスと違って、ご主人に報告しやがるので、こちらの位置がミノタウロスにばれるのである。そうなったら投石器の餌食になるから何がなんでもその前に排除しなければならない。
「オルトロスが二匹いるのです!」
「飼い主は?」
「今探すのです」
ミノタウロスはミノタウロスだから、一見遠目からだと区別できない。放し飼いにしたペットの首輪の鎖を武器代わりに持っていたらハンターなのだが。
しばらく待つとオルトロスが引き返していく。
その先の路地に一体のミノタウロスがいる。
「先に排除するぞ」
細い路地で微妙な位置取りを余儀なくされた。
「オルトロスは任せるのです」
「じゃあ、やるぞ」
ハンターを『一撃必殺』で狙撃した。
オルトロスが突然吠えだして、死体の方に駆け出した。
もしかしてハンターじゃない?
リオナが犬を一匹狙撃した。もう一匹が踵を返して路地のなかに消えた。
しまった! ハンターはあっちか!
路地の先の空き地で暢気に焚火に当たっている反応がどうやらご主人のようだった。
駄目だ、間に合わない。建物が邪魔で狙えない!
岩弾をかいくぐらなければいけなくなるのかと諦め掛けたとき、突然人の頭に飛び乗って笛を目一杯吹く猫が現われた。
ピー、ピー、ピーヒョロロロロ。最後は息が続かなかった。
オルトロスが動揺した。まるでふたりの飼い主のどちらに尻尾を振るか悩んでいるかのようだった。
タン!
リオナの一撃が命中した。オルトロスは地面に倒れて動かなくなった。
今度は飼い主が釣れた。飼い犬を心配してかこちらにノソノソとやってくる。
オルトロスの死体が見つかる前に始末しないと!
僕は銃口を向けた。
が、オクタヴィアの尻尾が邪魔をした。
こらッ!
オクタヴィアが頭から下りて肩の上を移動した。
その一瞬の隙にリオナに取られた。
「危なかった」
お前が言うな!
その尻尾、二本もあるから邪魔なんだよ。
でもこれで残りのミノタウロスを安心して片付けられる。
『武器屋見つけた』
ヘモジとロメオ君が探索から戻ってきた。
アイシャさんたちも集めて、それらしき店の店内に入った。壁も床も天井もボロボロだったが、商品の入ったケースだけはしっかりしていた。
「斧ばっかりだな」
ヘモジやナガレが使うようなミラクルな物を期待したんだが、脳筋装備ばっかりだった。それもミノタウロスサイズの物ばかり。
「ナーナ!」
ヘモジが飛んできた。
どうやら欲しい武器を見つけたらしい。
僕はヘモジに誘われるまま、その武器が飾ってある場所に向かった。
弓矢のコーナーだった。
銃があるのに今更だろ。
ヘモジが欲しいと指差したのはミノタウロスサイズの黒いボーガンだった。
大きさは兎も角、新品同様のいい品だった。付与も充実してる。ボウガンの矢になるボルトの在庫も充分ある。しかも魔法のボルトだ。
罠がないか調べて、ショーケースを外す。
鍵が掛かっていた。『迷宮の鍵』は規格外らしい。
店のどこかにあるはずだ。
「すまない。みんなショーケースの鍵を探してくれ」
鍵探しが始まった。
すぐロメオ君が小さな鍵が束になった輪っかを見つけてきた。
「これだと思うんだけど」
思わず束になっている鍵を見て「どれ?」と聞き返しそうになった。
一個一個試すしかない。ヘモジ本人にやらせることにした。
その間に僕も店の散策だ。
やはりサイズが問題だ。どれも大き過ぎる。オズロー辺りのでかい獣人連中ならここの小さな装備ぐらい持てそうだが。
剣、斧、槍、鎚…… うわ、尻尾用の打撃装備だ。尖った鋲が付いた尻尾用のバンドである。
頑丈な盾を見つけた。さすがに重くて持てない代物である。こんなの持たれたら接近戦できないだろ。付与はないみたいだけど。オズローでも力負けしそうだ。
ヘモジが騒ぎ始めた。
どうやら鍵が開いたようだ。
余程開かなくていらついたのか、ショーケースが床にぶん投げられていた。
「ナーナ!」
呪い装備じゃないだろうな。ただでさえでかいボーガンを頑張って抱えている。
「ナーナーナー」
勝手に再召喚した。
「ナー」
力尽きて肩を落としている。再召喚したんだから疲れてないだろ!
その手には手頃なサイズになったボーガンが握られていた。
「ヘモジ」
僕はボルトの入った矢筒をちらつかせた。
これも一緒にサイズを変えるべきだったな。
「ナーナー」
肩を落とした。
何が『がーん』だよ。サッサともう一回召喚し直せ。
威力あるんだろうか? 思わず心配になるくらい小さな、おもちゃのようなボルトが入った矢筒を背中に背負ったヘモジが、自慢げに踏ん反り返った。
矢筒が重そうだな。どう見ても入れ過ぎだ。半分抜いてやった。
抜いたボルトは別の魔法のボルトの矢筒と一緒に『楽園』に放り込んだ。
無料で貰えるならそれに越したことはない。
ヘモジは気合いを入れるためか何故か鉢巻きをした。
ボルトを装填すると、もうここには用がないと店を飛び出した。
勝手な奴だなぁ。
お前の好きそうな角の生えた兜もあるのに。
オクタヴィアは自分が使えそうな物はないからと、僕の頭に顎を置いて完全にだらけてる。
「あったああああああ!」
ロメオ君が叫んだ!
全員びっくりして、ロメオ君のいる控え室に飛び込んだ。
「見てよ! これ!」
巻物を広げて見せた。
それはこの辺りの地図だった。見る限り今日の攻略範囲はすべてカバーされている。
「存在したのね……」
みんなで手分けして探した。
が、見つかったのは結局この一枚だった。
だが、結構詳細が記されている。有り難いのはミノタウロスが使う地図のようで、裏のルートなんかもしっかり記されている点だ。わざわざ建物のなかを右往左往しなくて済むというわけだ。おまけに投石機の攻撃を受けないルートもこれなら一目瞭然だ。
「他のエリアにもあるのよね」
ロザリアが言った。
「新しい目標ができたな」
そう言えば落書きポイントも何気に記されていた。まんま『落書き・その三』である。
これは大きな収穫だ。マップ作成担当のロメオ君じゃなくても胸躍る発見だ。
宝箱だけは記されてないな。固定の宝箱はないと言うことか。
そこからは一気に攻略が進んだ。マッピングの必要がなくなったせいもあるが、先のルートを読めるようになったことが大きい。
そしてもう一つ。
「ナナナナナ、ナーナンナーナ」
『この山じゃ、俺が法律だ』
何言ってるんだ、お前は?
見た目チビだが、巨人の能力を遺憾なく発揮できるヘモジはボーガンを見事に操った。銃の射程にも負けてはいなかった。
そして魔法の矢ならぬボルトはミノタウロスの頭を一撃で粉砕した。
ドーン!
投石機が吹き飛んだのはリオナのお腹がきゅーっと鳴ったときだった。
「よし、昼だ。一旦脱出だ」
 




