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エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略・二夜目)64

 翌朝、予定通り四七階層、黄色の糸玉に記録された北の空き地に突入、二日目の日没を迎えた。リセットされることを期待したのだが、まだ時間は繋がっていた。

「駄目だ。焼け野原のままだよ」

 真っ暗闇でとても前進できる状況ではなかった。

 現実では日を跨いでいるのに、ここはまだ焼けたばかりの臭いが充満している。このまま進んだら鼻のなかまで煤だらけになりそうだ。

 正しいマップ情報を記録できそうにないし、こっち方面の攻略は日の出の後がいいだろうということになった。

 そこで、今度は南進である。緑色の糸玉で、入り江の手前、砂の浜に出た。

 だが、こちらも入り江のなかに入る以外、東に進む道は見つからなかった。東は絶壁の上、あの大橋を渡るルートが正規ルートになるらしい。

「どうしよう」

「昨日のうちに考えておくべきじゃったな」

 まったくその通りで、朝の貴重な時間が無情にも流れていく。もっとも、こうして無駄な時間を過ごしていることも日の出を早める行為ではあるのだが。

「新しいポイントに飛ぶか?」

 でも結局、夜の間はマップ作成には向かないのだ。どこに飛んでも同じことである。

「お城を攻略するのです!」

 リオナはお城を攻略し、僕たちの制圧下に置いた後、上から周辺探索をすればいいと主張した。

 その城自体も馬鹿でかいのだが。

 でも全員がその意見に賛同した。

 城の構造を把握するのはどの道やらなければならないことだし、クリアーしてしまえば、リオナの言う通り日の出と共に広い範囲の探索が可能になる。裏口を利用したルートも見つかるかもしれない。

 そうと決まれば入り江に潜入だ。

 時間が繋がっていると楽で仕方がない。昨日倒した連中は今日はもういないのだ。補充がいたり、警備が厳重になっていることもあるが、この入り江に関しては補充員はまだ間に合っていないようだった。

「樽の向こうに一体だけなのです」

 よく狙って、僕がとどめを刺す。

「よし、前進だ」

 警戒しながら上へと続く階段を上がる。

「鍵が掛かってる」

 扉に鍵が掛かっていて中に入れなかった。

「誰かが持ってるか、どこかにあるはずだ」

 入り江のなかを探索する。まずは倒したばかりの監視兵だ。装備を検める。

「持ってない、なーい」

 オクタヴィアが言った。

「監視小屋かな?」

 階段側の小部屋に入った。全員あの世に旅立った後で留守だった。

「あったよ」

 無造作に机の上に放り投げられていた。

「金庫発見!」

 どうせ碌な物は入ってないだろう。

 カチッ。

 鍵を開けた。

「えええええええっ?」

 ロメオ君と僕はハモった。

「城内の地図を発見した」

「もう今日の仕事、終わりでいいんじゃないの?」

 ナガレが皮肉った。

 でも冗談抜きで、攻略が楽になった。

「この上が兵士たちの詰め所。騎士の館だ」

 うわ、知らずに突っ込んでいたら、城ごと吹き飛ばす羽目になっていたかも。

「こっちが王の非常脱出用の経路だね」

 長い通路が完全に独立して上階まで続いている。

「普通、この手の裏ルートは地図に載せないものじゃないのかな?」

「罠、罠」

 オクタヴィアがはしゃぐ。

「行けたとしてもここまでだね」

 ロメオ君が指差した。

「縦坑?」

 垂直に延びる穴が続いている。

「梯子あるんじゃない?」

「上階に落とし穴でもあるのかも」

 正面突破か、迂回か。

「取り敢えず行きましょうか」

『虎穴に入らずんば虎児を得ず』という異世界の言葉もあることだし、迂回路を行くことにした。

 長い通路が斜めにひたすら延びていた。たまにコウモリがいるくらいで敵の姿はなかった。

「あっさり来たね」

 垂直に延びる縦坑までやって来た。

 周囲を確認するも梯子の類いは見つからなかった。が、壁に何やら仕掛けがあった。

 この棒を倒すとどうなるのかな?

「隠し扉が開いて、敵が雪崩れ込んでくる?」

「水攻め」

「天井が落ちてくる」

「出口が塞がれる」

「ナーナ」

 毒ガス?

「ゴンドラでも下りて来るんじゃないのかの?」

「…… え?」

 全員が上を向く。

 ロザリアが明かりを打ち上げた。

「おおおーっ」

 よし、壁に生えた棒を引き倒した。

 正解は隠し通路が開いて、敵が雪崩れ込んでくるだった。

 ミノタウロスではなく、キメラだった。

「逃げ場がないよ!」

 くそっ、キメラの奴、いきなり火を吐いてきた。

 アイシャさんが風魔法で炎が押し返した。

 吐いた本人のたてがみに火が点いた。

 もう襲撃どころではない。壁にぶつかりながら暴れまくった。

「ナーナ」

 たまたまヘモジの前に躍り出たので、ヘモジが脳天を叩いて昇天させた。

「あー、びっくりした」

「まさかロメオ君の案が採用されるとは」

「案て何!」

「またスイッチあったです」

 同じ棒のスイッチがあった。

 壁を点検してからスイッチを作動させた。そしてその場から一斉に逃げた。

「……」

 ガッシャン。頭上で音がした。

 キュルキュルキュル……

 錆びた滑車が回る音がする。

「今度こそゴンドラだ」

 全員ゴンドラに乗り込んだ。

「……」

「これって、誰かスイッチ押さないと上がっていかないんじゃないのか?」

「しょうがないわね」

 ナガレがヘモジに行くように指示を出した。

「ナ?」

 ヘモジがなんで自分がという態度でスイッチを操作しに向かった。

 身長が足りないので壁に生えているスイッチの棒をミョルニルで下から押し上げた。

 ガシャン。音がした。そしてゴンドラが上がり始めた。

 僕はヘモジを再召喚して手元に引き上げた。

「ナーナーナー」

「こら、狭いところで馬鹿やらないでよ!」

 ヘモジのお決まりのポージングにナガレが抗議した。

 ゴンドラが天井の穴を抜けて止まった。

 僕たちは急いでゴンドラを下りた。

「えーっ?」

 そんな馬鹿な。

「ちょっと、地図で確認しなかったの!」

「確認したよ!」

「どうなってんのよ!」

 全く以てどうなっているんだと言いたい!

 辿り着いたのはなんと城の大広間。王の座の真後ろの隠し部屋だった。

 消音消臭結界。

「先手必勝!」

「あ、魔法が」

 結界が使えなかった。

「避雷針なのです」

 リオナが小声で言った。

 部屋の隅に見慣れた装置が。

 全員、気合いを入れ直す。

 そして合図と共に、僕とリオナは銃を使って装置を破壊した。

 敵が物音に気付いた。が、まだ何が起こったか分かっていない。

 その隙にヘモジが隠し部屋を飛び出して目の前の敵に一撃を加えた。王座に座っていた敵は吹き飛んだ。続いてアイシャさんが飛びだし、離れた場所にいる敵を吹き飛ばした。

 ロメオ君とナガレが後に続いた。

「避雷針だ!」

 大広間にも仕掛けてあった。急いで僕とリオナは狙撃した。

 仕掛けは解除された。

 さあ、やるぞ!

 振り返ったが、やることは残っていなかった。

「普通に全部倒せた」

 オクタヴィアが瓦礫に埋もれた床の上を歩いてくる。

「スイッチが作動しておらなんだようじゃ」

 そうか、隠し通路から入ったから、正面扉に仕掛けられた避雷針のスイッチが作動していなかったのか。

 オーバーキル気味に放った一撃がすべてそのまま過剰攻撃になって敵の息の根を止めてしまったようだ。

「出番なくなったのです」

 リオナが凹んだ。正直僕もだ。

 どれだけここのボスが強いか確かめるべくもなく、ヘモジの不意打ちのクリティカルヒットで事切れてしまったのだ。

 大扉は閉まったままで、こちらの様子はまだ気付かれていない。

 今のうちにスイッチを壊しておく。内側から魔法で壁を作り扉を塞いで、アイテムの回収に備える。

 ギミックじゃなければ、周囲にある金目のアイテムは結構な稼ぎになる。

 ボスの装備も念入りに調べた。

 ボスなんだからさぞやいい装備をしているだろうと、思ったのだが。

「雑魚かよ」

 どこぞの開かずの扉みたいに王座が金でできているとかないのかな?

 金目の物はかぶるにはでかすぎる王冠だけだった。指輪もしてないし、残る楽しみは城のなかにあるはずの宝物庫だけだ。大きな卓の上に地図を広げて、位置の確認だ。

 窓の外を眺める。

「あの塔に宝物庫があるみたいだね」

 よっしゃ、次はあそこを目指すとするか。

 その内、広間にいた連中が石に変わった。期待しただけ無駄だった。

 転移が使える距離なのでベランダから飛んでしまおうということになった。

 渡り廊下を渡り切った辺りにゲートの出口を開いた。

 ヘモジの後にアイシャさん、リオナが続いてゲートを渡った。

 全員が渡り終えたときには見張りは制圧されていた。

「また鍵がないのです」

 また探さないといけないのか?

 だが、『迷宮の鍵』ですんなり開いた。

「罠に注意しろよ」

 見事な宝の山だった。城の規模に応じた立派な物であった。


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