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エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略・早じまい)63

『海猫亭』経由でファーレーン新島に渡ろうとシルバーランドまで来たら、トビアたちが仕事に精を出していた。どうやらこの港で水揚げされた魚の加工を手伝っているらしい。

「島で働くよりここの方が稼ぎになるんです」とトビアたちは言う。

 話を聞いたところ、トビアの言う物資輸送というのは、ここと島との間の人と物の輸送のことだった。

 大掛かりなものではなく、三角帆一枚の小舟で事足りる仕事だった。と言うより大きな船では腹を擦ってしまって、都合が悪い。気軽に浜を往復できるサイズを希望していたのだった。

 要するリオナが提示した金額が大き過ぎたのだ。

「何度も言ったんですけど」

 トビアの方が耳を垂れる始末だ。

 リオナの想像力が旺盛だったのだろう。船楼があるような船を想像したのではあるまいか。例の入り江の船をちょうどいいと言う辺り、恐らくそうに違いない。

 僕はシルバーランドの船大工のとこまで行くと今彼らが使っているこの島のお古の小舟に替わる、一回り大きい船倉にスペースのある船を発注した。

 代金の半分はリオナが無償で寄付するとし、残りの半分をトビアとその仲間たちが支払うことになった。仲間も皆幼かったが素直で働き者だったので島の人たちにも愛されていた。毎月お給金から困らない程度に船大工に支払うことで話が付いた。人族なら誰の所有かで揉めそうだが、獣人族は仲間内で有意義に使う分には揉めることはないらしい。

『海猫亭』の女将さんに聞いたところ、島からの出稼ぎのおかげで慢性的な人手不足も解消され、島の商売は繁盛しているらしかった。子供たちがこの先支払いで窮するということはないそうだ。

「ところで、冒険者たちから何か聞いてないか?」とトビアにそれとなく尋ねた。今も例の開拓地で狩りをしている冒険者たちのなかに地面に亀裂を見つけた者はいないかと。

 すると噂話だけど聞いたことがあると言う。でも調査したらそんな亀裂はなくて、見間違いだったという話であった。

 話しているトビア自身、信じていない様子だった。

 取り敢えず、これで朗報をリオナに持っていってやれる。

 僕としてはもう一回り大きな船を買ってあげたかったのだが…… ここは我慢である。兄貴分として。


 トビアの顔も見れたし、それなりに喜びを噛みしめて帰宅したら、リオナが怒って出迎えた。

 置いて行かれたことに、ほっぺたを大きく膨らませて抗議してきた。

「だって、お前、メルセゲルの村で買い物して帰るって言ったろ?」

「トビア君たちに冬用の毛布とか持っていってあげようと思ったのです! むーッ」

 怒ってるんだか拗ねてるんだか分からないが、それでも結果を聞いてどこか嬉しそうに見えた。

「船の代金幾らだったですか?」

「リオナの分は金貨五枚だな。島の人たちも少しカンパしてくれるそうだし。トビアたちも全員で金貨五枚だ」

 きょとんとしている。

 余りの安さにショックで言葉も出ないか?


 実はこの安さには裏がある。つまり、詰まるところ、もう一隻作ってしまったのである。『楽園』に放り込んでおいて、いつでも使えるしっかりした帆船をこの際作ってしまえと。とは言っても船楼があるような船ではなく、迷宮でも使えるぐらいの、以前僕が自作したぐらいの大きさの船だ。

 要するにこちらの船を高めの値段に設定して帳尻を合わせたのである。

「ひどいですよ! なんで僕をおいて行くんですか!」

 別の場所で、アイシャさんとレオのバトルが勃発していた。

「駄目に決まっておるじゃろ! 四七階層じゃぞ! お前はまず初級からじゃ」

 すっかり忘れてた。レオがいたんだった。

 今朝はどこにいたんだ?


 レオは爺さんのところで剣の修行をすると共に、初級迷宮を行けるところまで、まずクリアーすることになった。エルーダに連れて行くかはその後の話だそうだ。

 アイシャさん的にはピノのチームに合流させたいらしい。あそこは魔法使いがいないからレオが合流すると形になるのである。

 それまでに魔法が使えるようにというのが当座の使命であるようだ。初級迷宮に行くのは週末らしいので、それまではひたすら剣と魔法の修行である。

 当人は面白くはないだろうが、その内面白くなるさ。

 そのためにはまず修行である。

 アイシャさんは「今日はまだじゃろ?」と道場の地下にレオを引き摺り込んでいく。

 ちなみに本日、レオは寝坊した罰でアンジェラさんに庭の草むしりを命じられていたらしい。

「レオにも目覚まし時計を用意してやらないといけないな」

 厳しい修行で爆睡している君に、家主からの心ばかりの思いやりである。


 日暮れまでまだ少しあったので、僕はもう一仕事しに別荘に向かった。アースドラゴンを一体倒しに行くのである。アイシャさんに同行して貰おうと思っていたのだが、ヘモジで我慢することにした。一撃離脱のいつもの方法なので、大勢いても仕方がない。速攻で倒して、回収するだけだ。

 これで小型の飛空艇を新調して『楽園』に放り込んでおける。肺とコアユニットがあれば、数日でできあがるらしいので、四七階層の探索に間に合うかも知れない。だが、そのためには投石機にもバリスタにも対応しなければならない。

 複合障壁に回避重視で制空権を支配して見せよう。かっかっかぅ、ゴホゴホ……


 別荘まで振り子列車で一時間、アースドラゴン討伐に十分。鉱山都市アビークからミコーレへ移動して商品を納め、別荘に戻るまで一時間半、そこから再び列車で一時間。

 疲れた…… 移動しんどい。

 姉さんや魔法の塔のアルバイトたちが列車に持ち込んでいた書籍はほぼ全て読み尽くした。どれもこれも気軽に放置していい代物じゃないぞ。

 湖も完成して、現在は湖畔に宿泊施設等の町作りが始まっていた。釣り船も随分浮かんでいた。注文した船ができたら、ぜひ浮かべてみたいものである。


 帰宅したときには全員夕飯が済んでいて、居間でくつろいでいた。

 レオは練習に疲れてソファーに沈み込んでいるが、リオナたちと双六をする元気は残っているようだった。

 レオの部屋はアイシャさんの部屋といっしょでもよかったのだが、レオの疲弊した心体を回復させるためには鬼教官とは別室の方がよいと結論付け、取り敢えず客間を宛がった。

 建設中の離れが完成したら、客間はすべてあちらに移す予定であるから、専用にしてしまってもいいだろう。

「あ、そうだ」

 お土産にいろいろ買ってきたのだった。海の魚や海老、ホタテ、乾物等々。

 ナガレが潮の香りに真っ先に飛びついた。チョビとイチゴも中庭からやってきて、ナガレの身体をよじ登った。オクタヴィアも参戦したが、ピンポイントなので独占状態だ。

「ありがとう」

 目をうるうるされて感謝されても、それはお前だけの分じゃないからな……

『ご主人、この海老キープしていいですか?』

『じゃあ、わたしはこの蛸を』

「わたしはこのヒラメを頂こう」

 アンジェラさんが呆れながら、土産をすべて厨房に持っていった。

 ゾロゾロとナガレたちが後に続いて、厨房で明日のレシピの催促を始めた。

「明日は肉料理がいいのです」

 リオナがポツリと呟いた。

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