エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略)61
建物が倒壊して中にいた三匹のミノタウロスが瓦礫の下敷きになって昇天した。
地図を作ってるロメオ君が慌てた。
「まだ記録してないのに!」
アイシャさんは豪快だった。壁の向こうは壁ごと、上にいる奴は床ごと始末した。
大きな反応が遠くに出現した。
ロメオ君と急いで屋根に飛び上がった。
敵はすぐそこまで来ていた。
「まずい!」
こちらを狙ってのことではなさそうだが、何かが突進してくる。
異形のキメラだった。
頭は獅子で上半身は羊、ここまでは当たり前だが、腕がやけに長く細い。下半身はムカデのように平たく、無数の脚が生えていた。その無数の脚で建物の屋根を押し潰しながらこちらに迫ってきている。
このまま突っ込まれたら下にいる連中が下敷きになる。
僕もロメオ君も雷撃を撃ち込んだ。
キメラは不意打ちを食らって、ひるんで立ち止まった。上半身の半分が炭になったが、健在だった。
僕は急いで銃を構えた。
キメラの身体が猛烈な勢いで再生していく。
でかいだけじゃなかったか。
突然炎を吐き出した!
闇雲に辺りを燃やし始めた。どうやら接近されまいと防壁を作っているようだ。
城壁からは遠くてバリスタも届かないのか?
僕は銃口を向け、『魔弾』を放り込んだ。
上半身を支えるために、必死にもがいていた無数の脚がピタリと止まった。
「やった」
ロメオ君と手を打ち合わせようとしたそのとき、キメラが爆発した。引火性の何かに火が点いたようだ。
「火蟻かよ」
被害甚大だ。これから進もうとする街道沿いは軒並み業火に包まれてしまった。
「まずいな」
辺りにきな臭い臭いが漂い始め、プツプツと燃え始めた。
僕たちは急いで地上に降りて状況を説明した。
「何やってんのよ」と抗議される暇がないほど、火の回りが早かった。
僕たちは一旦、迷宮の外に脱出した。そして白い糸玉を出して、最初の見張り小屋に飛んだ。
すぐさま、投石機の存在を確認した。が、復活していなかった。それだけでなく、撃ち破られた小屋の壁もそのままだった。周囲に敵の姿もなかった。
遠くにそびえる絶壁が日に照らされて輝いていた。
時間は連動している。場所縛りではないことがこれで確定した。
視線を移すと、遠くに火柱と煙が見えた。煙が青い空を覆った。
「どうする?」
「凄いことになってるのです」
「消えるまで待つしかないじゃろ」
アイシャさんも匙を投げた。
ロメオ君もメモ帳を仕舞い込んだ。
来たばかりなのに…… もう終わりか?
休憩を取るにはまだ早すぎる。
「別のルートから入場したらどうじゃ?」
アイシャさんが言った。
「だったらあっちに進まない?」
ロザリアが指差した。
それは、北ではなく南ルートだった。海に堰き止められたエリアだ。ここから南東に進むルートだ。城下町からはしばらく行ったところで入り江に阻まれ通行止めだ。
谷底に沿って進み、折り返さず入り江に向かい、途中にある脇道を行かねばならない。
どの道一周する気なら、通る道だ。
僕たちは北進を諦め、今日のところは南進することにした。
一転してのどかな景色が広がった。
谷間は既に攻略済みなのでのんびりしたものである。
海沿いには、塩害から森を守るかのように岩場が立ち並んでいる。その断崖のおかげで手前には森ができ上がっていた。森は東に向かう程深く、大きくなっていた。
入り江に向かう道の途中、細い脇道を東に折れて森の茂みのなかに入った。
森は獣人とエルフのホームグラウンドのようなものだ。
リオナとアイシャさん、ついでにオクタヴィアも前に出た。
リオナの顔も昨日と比べると随分楽しそうに見える。
木や土の香りが気分をほぐしてくれる。
とは言え、ここも迷宮。
オルトロスが涎を垂らして待ち構えている。
勝手に通り過ぎてくれればいいのにと思うのだが、駄目だ。向かってくる。
銃と魔法の餌食になった。
見返りは相変わらず何もない。糸玉もない。あるのは溜め息だけだ。
しばらく歩いたが、意外なことに敵との遭遇は二回だけだった。その内一回は遠巻きにスルーした。
「敵がいないのです」
それはそれで異様な感じがする。
マップの書きようがないよ、とロメオ君が嘆く。
どこまで行っても似たような森林地帯が続いていた。
空から何度も確かめる。が、なんとなく地形を押さえるのがやっとだった。
目立つ目印は何もない。右手に潮騒が聞こえるのみである。
海との間にある断崖に上がる道は今のところ見つからない。転移するにも向こうの方が高台で降り立つ場所が見当たらない。飛んで行けばすぐだが、高度も距離もある。チームが分断されてしまうのは余りよろしくない。
「この先に岩場が低くなるところがあるよ」
空の上でマッピングをしていたロメオ君が戻って来て言った。
吊り橋でも架かっていればいいのだが。
「うわー、海なのです」
どこまでも青い空、青い海。海鳥が飛んでいる。
「とても同じフロアだとは思えないわね」
ナガレが言った。
岩場には吊り橋どころか、石橋が架かっていた。それを渡ると、一旦マッピングするために引き返しながら景色を堪能する。
「まさか、石橋が架かっているとはね」
あんな物が架かっているということは入場ポイントがこの辺りにもある可能性がある。
だとしたら、相当ラッキーなコースなのかも、いや、ここから町を目指すとなると、迷子になる可能性も否定できない。
偵察に出ていたロメオ君とヘモジが戻ってきて、この先に小屋があると報告してきた。
僕たちは脱出ポイントにちょうどいいのではないかと勇んで向かった。
よく見ると小屋ではなく家だった。絶景を望むリゾートといった感じの建物だった。
散策すると地下室の壁にまた落書きを見つけた。また、元の絵に若干手が書き加えられていた。
相変わらず敵の姿はなかった。だが、敵が出ない保証はないので、取り敢えず近くの森に糸玉のポイントを作った。
そして一旦外に出て休憩タイムである。




