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エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略)58

 敵に見つかるリスクはあるが、足元が暗過ぎるんだから仕方がない。転ぶより増しである。

 そこは想像通りミノタウロスの詰め所だった。

 ワンフロアごとに小さな生活空間があった。ミノタウロスのサイズ的にはだが。

 宝箱がやたらと置いてあったが、どれも中身は空っぽだった。オルトロスに全部漁られた後か?

 壁に白ペンキで何やら書かれていた。丸に点が打ってあった。何かを示しているのか、あるいは単なる落書きか?

 僕たちは下へ下へと降りていった。

 構造的にはどの階も似たり寄ったりだった。

 さすがに安全地帯にはなりそうにない。

 谷底の出入り口に辿り着いた。

 そして少し大きめの部屋を見つけた。

「食堂なのです」

 リオナが鼻を摘まんだ。オクタヴィアも悲鳴を上げたが肉球では鼻は摘まめない。敵への反応は遅れそうだが、ここを抜けるまで消臭結界を張った。

 ミノタウロスサイズの大きな酒壺が並んでいた。ミノタウロスも酒を飲むのか? 発酵した嫌な臭いが充満していた。 

 ヘモジが床下に地下へと続く階段を見つけた。

 階段を下りるとミノタウロスが一体やっと通れる程の幅しかない通路を見つけた。

 このサイズでは敵は武器を振り回すことができないだろう。遭遇してもうちの前衛の独壇場になりそうだ。

 方角を確認するに通路は向こう岸に繋がっているようだった。

 地下通路など掘る意味がないように思えるが。

「あっちから来た場合、ここを通って、この建物を登って、安全に投石機を叩けるということなんじゃ?」

 ロメオ君も納得のいく理由を探す。

「ということはあちら側にも入場用のスタート地点があるということか?」

 山の手だし、狙いは定めにくそうだが、投石機で狙えないこともない。

「行くべし!」

 リオナが切っ先を通路の先の闇に向けた。

「べし?」

「ナ?」

 オクタヴィアとヘモジが首を捻った。

「お、番犬が来たぞ」

 誰でも気付く。興奮し過ぎて息苦しそうに息を吐くオルトロスの呼吸が闇の向こうから聞こえてくる。せわしく走る駄犬の姿が目に映る。

 だが、当然のことながら到達する前に一斉攻撃を浴びて動かなくなった。この通路は逃げ場がない。

「また来るのも面倒そうだし、行ってみるか?」

 予定変更やむなしと判断した。

「そうだね。僕は行く方に一票」

 ロメオ君が手を上げると、全員が釣られるように手を上げた。

「面倒は少ない方がいいわ」

「先は長そうですものね」

「もう一度くるのは嫌!」

 オクタヴィアは鼻を塞いだ。

「ナーナ」

 どこでも付いていく? そりゃどうも。

「あ、糸玉なのです!」

「え?」

「またオルトロスから?」

 今度は黄色い糸玉だ。

「これなら…… 取り敢えず水色はこのままでいいかな?」

 通路を進んだ先には当然の如く、上り階段があった。

 頭の上で床が軋む音がする。

「この先、結構な数の反応があるな」

 慎重に行こう。

 すぐ上のフロアにはミノタウロス一体だけだ。

 が、部屋が狭いな。

 僕たちが今いる通路を出た突き当たりにある部屋も同様だ。

 上階からの増援が来るかも知れないことを考えると、なるべく気付かれずに進みたい。

「仕留めるのです」

「気を付けろ」

 リオナは姿を消した。

 探している一瞬の間に巨体が膝を突いた。

 僕は消音結界を張ってミノタウロスが倒れ込む音と斧を落とす音を消した。が、建物に響いた振動までは消せなかった。

 上階の連中が気付いたようで急に移動を始めた。

 階段を下りて来るのが二体。階段から離れたのが一体だ。

 まず二体を黙らせ、下に引きずり落とすか。

 ミノタウロスがステップを下りて来る。ロメオ君と僕が一体ずつ足を凍らせた。あっという間にバランスを崩してミノタウロスが階段を転げ落ちた。

 リオナとヘモジに討ち取られた。

 さすがに残りの一体にも感づかれたか。

 小走りに走ってきて階段を覗き込んだ。

「ご苦労さん」

 僕は頭を凍らせた。

 ミノタウロスはそのまま頭から転がり落ちてきた。

 このまま魔石に変わるのを待つか?

 ナガレたちが持ち物を漁っている。

「碌な物持ってないわね」

 そう言ってしわくちゃに丸められた紙切れを放り投げた。

「待て! 今のはなんだ? 何が書かれてたんだ?」

「ごみじゃないの?」

 確認しろよ! 何かのヒントかも知れないだろ?

 紙を広げると、書かれていたのはさっきの落書きと同じ印だった。

 なんだ? 何か意味があるのか?

 一応キープしておくことにした。

 ギイィ…… 

 足音だ!

 上の階に新手だ。

 騒ぎ始めた。

 仲間がいないことに気付いたようだ。

 見つかったか。

 と思ったら、外に出て行った。消えた連中がどこかでサボっているとでも思ったのか?

 でもここにいては不味いな。

 僕たちは回収を諦めて上階に上がった。

「弓兵だ!」

 窓の外を警戒している弓兵を見つけた。

 窓から差す明かりに照らされていた顔がズルズルと闇のなかに引き込まれた。

 またリオナのポイントだ。

 窓から下を覗くと、既に建物の二階分の高さにいることが分かった。

 どうやら渓谷の断崖を一枚貫通した反対側にいるようだ。高台の地面を掘って傾斜を作り、そこに多層構造の箱庭を作り上げているようだった。

「地上は上か?」

「四十階層の迷宮を思い出すね」

 ほんと迷宮を造るのが好きな連中だ。

「出口を探そう」

 このまま穴のなかじゃ埒が明かない。

「外にも敵が一杯いるのです」

 僕たちの脱出ポイントになりそうな場所は見つかりそうにない。

 更に細い通路を奥に進むと庭が見えてきた。

 回廊の隅に見張りが立っている。

 光が差し込んでくるところを見るとあの階段状に連なる屋根の向こうが出口らしい。

 周囲に徘徊する反応が幾つもある。

「ああ!」

 地下通路を伝って敵の部隊がこちらに向かって来ていた。

 さっき外に出て行った連中が回り込んできたのか?

 このままでは挟撃されるな。

「階段を落とそう」

 通路を戻って『無刃剣』で階段をぶった切った。

 これで登っては来られまい。

 僕たちは前進を再開した。

 回廊にいる連中はこちらにまだ気付いていない。

 庭に出てしまえば場所はある。が、庭は段差のある構造物に取り囲まれているので、あっという間に包囲されてしまうだろう。

 オルトロス!

 今回は番犬が大活躍である。

 庭からこちらに向かって吠え始めた。

 見張りが訝しんで動き出したが、暗がりにいるこちらを捉えることはできなかった。

 状況をもう少し見たかったが止むを得まい。

 見張りにとどめを刺した。

 外にいるオルトロスもリオナたちが窓越しに始末した。

 ワラワラとオルトロスの反応が動き出した。反応は二つの方向に分かれた。

 中庭を経由して下りてくる連中と建物のなかの階段を下りてくる者とである。

「庭から片付けよう」

 部屋の廊下を土の壁で塞いだ。

 今のうちに庭に下りてくる連中を排除する。

 ナガレの雷が落ちた。無防備に接近してくる数体をまとめて葬った。

 長物の武器を抱えて飛び降りてくる一回り大きな指揮官クラスのミノタウロスに、ロメオ君が氷の槍を見舞った。

 着地と同時にミノタウロスの脚が衝撃で砕けた。

 リオナがとどめを刺した。が、兜がリオナの弾丸を弾いた。

「お?」

 ナガレがとどめを刺した。

「お宝?」

「消える前に回収するのです」

 でかすぎてかぶれないので鋳つぶすだけだが。運がよければ宝石が嵌まっているだろう。

 敵はわんさかやってくる。

 壁に阻まれた連中も引き返し始めた。

「弓兵だ!」

「魔法使いもいる!」

 上からこちらを狙っている。

 障壁が一枚射貫かれた。

「あの弓兵、『結界砕き』だ!」

 ヘモジの盾の障壁も剥がされた。

「少しはやるみたいだね」

 ロメオ君が燃やした。苦しんでもがいているところを追撃して仕留めた。

 お返しとばかりに火の玉が飛んできた。あれは『魔石モドキ』が装着された杖だった。

 あっという間に蜂の巣になった。


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