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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第三章 ユニコーン・シティー
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閑話 入道雲とライオン

久しぶりの閑話です。

 親父宛に『銀花の紋章団』から知らせが届いた。

 今から十日ほど前のことだ。

 ギルドが念願の拠点を作るという。

 だが待ち望んでいた親父はもういない。


 ヤコバ村からさらに一日、新都市に向かう途中、人族の砦に俺はようやく辿り着いた。

 そこから延びる石畳のまっさらな街道をまっすぐ進めば目的地があると招待状には記されていた。

 街道はまっさらな石畳で領主の意気込みが感じられた。

 飲み過ぎて火照った顔を愛馬の背に跨がり風に当てる。

 半日ほど酔いを覚ましながら道を進むと、昨夜砦で見かけた奇妙な一行と再会する。

 人族の女と、子供と赤子が四人。うちひとりは見たこともない獣人だ。一見、猫族に見えるが、手足は俺たち虎族に近い。身体は小さいが骨格は強靱だ。猫族にここまでの強さはない。

 少女は俺を「トラ」と呼んだ。

 

 俺は用心棒だという少年と戦った。

 そしてあっけなく負けた。

 完敗だった。

 それなりに強くなったつもりでいたから正直驚いた。

 人族に負けるなどと考えたこともなかったのだ。

 あれが人族が使う魔法というやつなのか。

 あとで彼がヴィオネッティーだと聞かされて尚更驚いた。

 ヴィオネッティーの一族は災害認定されるほど危ない奴らだと聞かされていたし、最近デビューした末っ子は早々に南の国の元将軍を撃ち倒したというじゃないか。

 まさか目の前にいる大人しそうなこの少年が……


 赤子の母親は父、オズールを知っていた。

「昔何度か一緒に組んだことがあるよ。わたしはギルドの人間じゃなかったから親しくはなかったけどね。言われてみれば、少し面影があるかもね……」

 面影があると言われて思わずうれしくなった。

 幼い頃はよく言われたものだが、最近俺を親父と重ねるやつはいない。俺が親父よりでかくなったからだ。もう親父の鎧を何度も手直ししている。


 エルネストとリオナが『銀花の紋章団』の団員だと知って俺は驚いた。世の中、狭いものだと思った。

 聞けば今町を目指す者、開発に携わる者は大概関係者だと言うから、『銀花の紋章団』という組織のでかさにあきれかえるばかりだった。にも関わらず現役の冒険者が目の前のふたりだけというのにも驚きだ。残りは親父の様な引退したロートルばかりだそうだから形骸化するにも程があるというものだ。

 でも、町が機能し始めれば俺の様な二世の冒険者が現れ、活気を取り戻すだろうと女は確信を持って言い切った。それが時の流れだと。

 俺も仲間に誘われたが、その場では決心が付かなかった。

 俺には故郷に残してきた家族がいる。それに懸念もあった。

「オズロー、初動の一太刀を縦にばかり振らずに、たまには横に払いなよ。それだけで僕は死ぬよ」

「オズローは強いよ。保証する」

「元気出すのです。これからご飯なのです! 食べれば悩みは解決なのです」

 失敗して落ち込む俺をエルネストもリオナも慰めてくれる。

 本当に気のいい奴らだ。一緒に冒険できたら、きっと楽しいに違いない。



 到着した新しい都市の城壁のでかさに俺は驚いた。しかもこれが仮だと言う。

 領主に挨拶に行くという彼らに付いていくと、呆れるほどの容易さで姫様に会えてしまった。

 親父の言う姫様ではなかったが、本物の王女様だった。

 リオナとこの領主は似ていると俺は感じた。まさか…… な。

 彼女は言いがかりに過ぎないこちらの言い分に耳を傾けてくれただけでなく、謝罪までしてくれた。申し訳なさで一杯になった。

 このことを家族に早く教えてやりたい。親父の墓前にも。でも……



 ユニコーンの子供を狙って、魔物たちが襲撃してきた。

 凄い戦いだったが俺たちは勝った。

 バジリスクが召喚されたときはどうなるかと思ったが、俺たちは人族やユニコーンといっしょにこの町を守り切ったのだ。何人もの同胞が傷ついたが、エルネストがくれた薬は恐ろしく効果のあるものだったらしく、死地を彷徨う者は出なかった。

 後で姐さんに尋ねたら、俺の鞄のなかだけで金貨百枚は下らないと教えられた。

 エルネスト、お前なんてモノを他人に預けやがるんだ。


 翌日、勝利記念の祭りが森の広場で行われた。

 リオナと長老たちが発起人である。なぜかどうでもいい俺の名前まであった。

 獣人も人族もユニコーンの子供たちも皆、大騒ぎだった。

 戦士たちは各の武勇伝を競うように語り合い、戦に出なかった者は「それでどうなった?」と煽るような顔をして相槌を打つ。内心呆れているであろうに。

 子供たちは親の監視を逃れてユニコーンと戯れている。ユニコーンも楽しそうに親父たちの頭をかじってからかっている。

 会場が喜びに沸き立つなか、リオナがたまに遠くを見つめていることに気が付いた。館の方角だった。

「何を見ている?」

 俺がエールの入ったジョッキを片手に尋ねると「エルリンの分、食べていいか考えていたです」

とリオナは答えた。

 相変わらずである。

 でもその顔は恋しい誰かの帰りを待ちわびる顔だった。

 死んじまった親父を知らずにずっと待っていた、かつての俺の顔だ。

 あいつと一緒に喜びを分かち合いたいのだろう。

 冷たい風が森のなかを吹き抜ける。

 見上げると入道雲。

「雨…… 降るですか?」

「多分な。雷も来るぞ」

「大変なのです!」

 リオナは飛び跳ねると長老の元に走った。

「会場を変更するのです!」

 叫びながら髪を鬣のようになびかせ、見事な跳躍で森を駆け抜ける。

 ユニコーンの子供、二頭も慌ててその後を追いかけて行く。

「獅子が馬に追いかけられてどうする」

 俺は笑った。

 ああ、そうか。あいつは…… 

 今は亡き獅子族の生き残り。獣人族すべてのためにドラゴンと戦って滅びた勇猛果敢な伝説の末裔。


 俺は入道雲を見上げる。


「親父、俺、この町に住むことに決めたよ」

 献杯。俺はジョッキを空に掲げた。


 この町には借りばかりが増えやがる。



「トラー、会場変更するのです! 急ぐのです!」

 小さい身体が飛び跳ねながら俺を呼ぶ。

「お、おう。任せとけ」

 俺は答える。

  

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