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エルーダ迷宮追撃中(四十七層攻略)57

「一回飛んでみない?」

 ロメオ君が食堂のいつもの席で全体を把握したいと言い出した。

「投石機や弓兵は粗方片づいたみたいだから、村の上空ならいけるんじゃないか」

「他のマップ情報と接合してないのは不安よね。太陽の位置で方角とか分からないのかしら?」

 ロザリアが言った。

「元の地図だと正解は真東からの侵入ルートになってるけど」

「そもそも太陽が見えないんだよな」

「断崖絶壁に影が差してたってことは東にいるってこと?」

「夕方だったら西だろ?」

「どう見ても東じゃないよ。あんな石橋載ってないもん」

「思いっきり反対側に出た可能性大だね」

「合流できるのかな?」

「その前に中央に着いちゃうわよ」

「西側の地図、ほとんどないもんね」

 ロメオ君が地図を引っ張り出して、メモ書きの整理を始めた。

「やりがいある」

「ナーナ」

 オクタヴィアとヘモジが僕の膝を足場にして身を乗り出した。

「思った以上にマップ、広そうね」

 ナガレが地図を見ながら言った。

 他のマップと接触していないので、正確なところは分からないが、城までの距離を比べるだけでもその広さは想像できた。

 狩りに持って来いの地形だが、やはり空から降ってくるあれが相当邪魔なのだろう。あれがある限り戦闘どころではないからな。

「空飛んで城内に入って攻略だけ先に済ませる?」

「投石機とか城壁に大量に並んでいる気がするんだけど」

「やっぱり秘密の潜入ルートでも探すしかないのかしらね?」

「普通に街道に沿って行けば城門までは行けそうだけど…… あの城壁は高いよ。すんなり通して貰えればいいけど」

「スプレコーンの城塞より高いのです」

「あれって元々高台か何かだろ?」

「天然の要塞って奴」

「城壁ぶち破るようにはいかなさそうだよな」

「やっぱり空からでしょ」

「あんな高い所飛ぶなんて無理!」

「ロザリアのボードじゃそもそも無理だから。僕たちのボードでもあの手前の渓谷を越えられるかどうか」

「小型の飛空艇持ち込む?」

「あれはマルサラ村の送迎用で使ってるから無理でしょ」

「やっぱり専用に一隻持とうよ」

「そうだな。あれがあればクラーケンも狩れるしな」

「いや、クラーケンはもういいから」

「そう?」

「アースドラゴン狩るですか?」

 リオナが急に目を輝かせた。

「量産体制はできてるから、材料さえ揃えばすぐできると思うよ」

「どれくらい?」

「一週間」

「出来合いはないの?」

「今は西方向けに『ビアンコ商会』の運搬部隊に優先的に配備されていってるみたいだけど」

 湖が工事中だったから別荘にも行ってなかったし、アースドラゴンも狩ってなかったからな。恐らく外部からの持ち込みだけだろうから、数は出ていないと思うけど。

「でも一週間か。ここの攻略、一週間かかると思う?」

「あの城壁を越えるのは後にしてさ、城下町をぐるっと一周してれば、ちょうどいいんじゃないかな?」

「案外抜け道が見つかったりするかも知れないしね」

 ナガレが言った。

「そうすると午後からは下じゃなくて橋の向こうを調べた方がいいのかな?」

「僕の勘なんだけどさ、たぶん谷間を進むルートはショートカットのような気がするんだよね」

「そうなの?」

「どう考えても町中の方が入り組んでて進みづらそうだから」

「でも投石機が狙ってるわよ」

 ロザリアの言う通り、困難さで言ったら変わらない。投石機を破壊しながら進むのなら結局地上に出ないとならないのだ。

「あのさ、明日になればあの投石機復活してるのよね?」

「そうだけど?」

「あそこから始めようと思ったら今日と同じことをする必要があるんじゃないの?」

 ナガレが言った。

「あッ!」

 そうだよ。明日も同じ場所から入場した場合、同じことの繰り返しになるんだ。水色の糸玉の位置だと敵のど真ん中に出ることになるんだ!

「まずい!」

「お客さん!」

 料理を運んできた店員が覆い被さるようにこちらを睨んだ。

「いや、料理のことじゃないよ。こっちの話」

 女性陣に一斉に「馬鹿」と言われた。

「そうじゃなくて、水色の糸玉のことだよ。あの場所を記録しておいても、明日になったら敵が沸くだろ? そうなったら使えないって話だよ。そうだよな、ナガレ」

「まあ、そう言うことよ」

「ああ、なるほど」

「言われてみれば、あの場所は不味いわね」

「場所変える?」

「ナーナ」

「安全な場所を確保しないといけないな」

「じゃあ、午後の予定変更する?」

「そうだね。橋の向こうに安全な場所を先に確保しないと一日が無駄になるかもしれないからね」

「下の廃墟じゃ駄目ですか?」

「投石機も復活するんだ。あれの影響下にない場所で記録を取らないと」

「町中まで撃ち込んでくるかな?」

「村だって平気で破壊してたじゃないの」

「味方も巻き込んでたです」

「期待できないか……」

「理想を言えば、頑丈で敵がすぐには寄ってこれない、それでいて見晴らしのいい場所ね」

「なるべく高い位置となると中央寄りになるんだよな」

「ガードがきつそうだよな」

「そう言う意味じゃ、あの見張り小屋は秀逸だったわね」

「すぐ壊されたです」

「スタート地点が壊されるって前代未聞だね」

 確かに。糸玉があることを前提にしての構成なんだろうけど、下手したら詰むんじゃないか?

「あの弓兵のいた絶壁に張り付いた物件なんか、敵さえいなければいい物件なのにね。あの投石機も足元は狙えないんだからさ」

 ナガレが言った。

「探索してみる?」

「あそこ、どう見ても敵の詰め所か何かだよ?」

「調べてから昼にすればよかったかな」

「敵はもういないのです。下まで行ったらもう一度水玉使えばいいのです」

 面倒だけどそうするか。


 水色の糸玉で橋の袂まで戻ると、まずは空の上から観察することにした。ロメオ君が中心になって入れ替わり立ち替わり空に舞い上がって周囲の景色を観賞した。

 そもそも西側のエリアはほぼ手付かずだ。目印を探したところで他のマップと連絡できるかどうか。

 取り敢えず地形だけは掌握できた。

 僕たちは一番近い攻略済みのエリアを目指して北回りに進むことにした。城に架かる橋は東西南北に一本ずつあるが、北側の橋は落ちていた。

 ここからなら町を横断しさえすれば、渓谷に渡された西側の巨大大橋の袂に辿り着くだろう。

 南側は土地が更に低くなっていて、海のような物が見えた。

 もしかすると船で城内に侵入できるルートがあるかも知れない。

 浸食されなかった固い岩盤は険しく、深い渓谷に賽の目に分断され、巨大な墓標のように海に面して、乱立していた。岩場と岩場の間を無数の朽ちた吊り橋がレイのようにぶら下がっていた。

 思った以上に視界は悪く、遠くを見通すことはできなかった。

 だが、進むべきルートは粗方掌握した。この城下町は街道が環状に幾重にも走っている。障害物で遮られ、途切れたりはしているが、基本的な構造は同心円状の街道に沿っている。

 こうして見ると僕たちがいるこの場所はこれでも起伏のない部類に入るエリアのようだった。

 情報収集を終えると、僕たちは絶壁に張り付いた建物の入口を探した。

 橋の欄干横にある、崖からせり出した朽ち掛けの掘っ立て小屋がその出入り口だった。

 さすがにミノタウロスが上り下りするので階段は太い木材で頑丈にできていた。

 これなら落ちる心配はなさそうだ。

 僕たちは明かりを灯しながら階下を目指した。


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