表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
776/1072

エルーダ迷宮追撃中44

「ナナ、ナナナナーナ? ナナナ! ナナナナナ。ナナナ? ナナ? ナナナナ!」

 えー、現在何が起こっているかと申しますと、不味いパイを食わされて激怒したヘモジに説教を食らっております。

「ナナナナナ!」

 要約すると『カボチャは採れ立てをすぐに食べてもおいしくない。水っぽいし、味も素っ気ない。本来、数ヶ月熟成を待って初めて甘く美味しく仕上がる物なのだ。なのになんで余計な買い物してくるかな。欲しけりゃ店で熟れ立てを買えばいいのに。今日の今日までそんなことも知らなかったなんて、ご主人は馬鹿ですか?』

 こんな感じである。

 勿論言葉に棘はないのだが、念話という媒体は感情が伝わり易いもので、怒りと共に、相当呆れ返っていることが忖度(そんたく)できたのである。

「大体『採れたて熟成』とか『完熟採れたて』とか言葉自体おかしくないか?」

 僕が突っ込むとヘモジはキリリと僕を睨んだ。

 お前、タイタンにだってそんな真剣な顔見せたことないだろ?

「ナナ。ナナーナ」

「何? こっちに来い?」

 オクタヴィアや子供たちに「あの主従は何やってるんだ?」と心配されつつ、地下の倉庫に案内された。

 そこはヘモジとオクタヴィアが普段から使っている倉庫だった。

 なかにはヘモジが買い溜めた厳選野菜や果物が山積みになっている。

「ナナ」

「これ全部が熟成待ち?」

「ナーナ」

 熟成が終った物から食品保管庫にちゃんと移動してる? お前そんなことまでしてたの?

「ナ、ナーナ」

 熟成前の物はお得意様でもなかなか売って貰えない?

 あのなぁ…… いくら野菜命だからって熟成具合まで自分で管理するか?

「ナ! ナーナッ」

 健康第一? まあ、それはそうなんだが。

 それにしてもだ。

「そんなことより、確かここには保管用の術式が施してあったはずだが?」

「ナーナ」

「姉さんに解除して貰った?」

「ナーナ」

「お裾分けしてお願いした?」

 なんでこっちに言わない?

「ナナーナ!」

『直接買い付け禁止!』

 誤魔化したな……

「ナ、ナナナナ」

「買ってきた物、全部置いてけって?」

 僕は袋に入ったカボチャとジャガイモの袋を『楽園』から取りだした。お試しとして貰ったものだから大した量じゃないが。

 ヘモジはカボチャの尻をポンポンと数回叩いた。そしてジャガイモを一つ取って半分に割いてなかを確認した。

「ナーナ」

 どちらもまだ熟成が足りないそうだ。

 カボチャは後二週間を要するらしい。ジャガイモは香りを楽しみたいならこのままでもいいが、美味しく食べたいならこちらも後一週間と指摘した。

「それでだな。農家の倉庫がいっぱいで、できれば余分を引き取ってやりたいんだよ」

「ナ、ナーナ!」

 そうか、明日行ってくれるか。

 さすがヘモジ。

「ナーナナー」

 ヘモジは僕が持ち込んだ野菜の袋をえっちら担いで倉庫の壁に立て掛けた。

 なるほど左回りに搬出時期の短い物から並べてるんだな。


 地上に戻ると、子供たちがパンプキンパイを頬張っていた。

「うめ、うめっ」

 口からボロボロと。

「うま、うまっ!」

「美味しい!」

「甘い!」

「甘くて美味しい!」

「これもパイなの?」

「ケーキだよ、これはもう!」

 思い思いの感想を述べながら、紅茶を啜る。

 アンジェラさんが僕を見て苦笑いする。どうやら最初からカボチャの熟れ具合に気付いていたようだ。僕に何か意図があると思って黙っていたらしい。

 気を利かせて、子供たちにちゃんとしたカボチャで作り直してくれたのだった。

「また賢くなったな」

 アイシャさんに皮肉を言われた。

「いつ以来かね。こんな大チョンボは」

 アンジェラさんまで。

「でも、いい味じゃ」

「ええ、今回は子供用に甘めにしたけど、砂糖を減らしてもいけるわね」

「ナーナ」

「そうだな。ヘモジが選んだカボチャだから美味いんだな」

「ナナーナ」

 ヘモジが偉そうだ。

 レオが僕を見る。

「変な人ですね、エルネストさんは」

「そう? いつもこんなもんだよ」

「こんなに美味しいレシピを思い付くのに、カボチャの追熟を知らないなんて」

 そう言って程よく焼けたパイをパクリと一口頬張った。

「お茶とも合うから驚きなのです」

 リオナがお茶を啜った。

 シナモンは子供には癖があったらしく却下されていた。今回はシナモン抜きの甘さ控えめのただの紅茶だ。

 それでも程よい苦みが甘いカボチャの具とよく合った。

「秋祭りの目玉にならないかな?」

「カボチャの生産地ってわけじゃないからね」

「売ればいいじゃん。おやつに最適だろ?」

 テトたち三人組が言った。

「そうだね。でも今年収穫した物じゃないと意味ないからね。後数週間待つようだね」

 確かに収穫を祝う祭りで余所で穫れた去年の食材では意味がない。



 翌日、朝も早くからユニコーンの庭で問題が起きていた。

 ユニコーンの子供たちに唯一与えられていたポポラの木の苗木が驚く速さで変貌を遂げていたのである。

 しかも初年度から大量の実を付けたから驚きだ。まさに聖獣様々、奇跡の所業である。

 普通は木に無理をさせないように摘果を行なうらしいのだが、木がこれほど恐ろしくでかくなるとその必要性を感じなくなるのである。通常の木で三百個程実を付けるそうだが、なんと摘果しなかったせいもあるが、たった一本の木から千個以上の実がなったのである。それも初年度からだ。

 問題は大きく成長したせいで、収獲が随分と難しくなったことだ。大人のユニコーンでちょうどいいぐらいの高さに育っているのだから人族にしてみれば難物だ。

 それを本日長老たちがユニコーンの子供たちからの悲痛にも似た嘆願により、収獲を行なうことになったのである。

 見せて貰ったが実の大きさも通常の三倍程あった。

「カボチャ」

 オクタヴィアがズッカと言わずにそう呼んだ。ホタテといい、異世界の言葉の響きが気に入ったようだ。

 たわわに実った巨木に特注した長い梯子を掛けて職人たちが次々登っていく。そしてすぐに籠をいっぱいにして戻ってくる。

 実がでかいせいで何をやっても手間が掛かった。重いから鋏を入れるにも苦労するし、大きいから籠にも数を入れられない。荷馬車もすぐ満杯になるので個数が出ない。

 ユニコーンの子供たちの食糧事情がこれでかなりよくなることは明らかだ。実質、朝の散歩の駄賃が三倍になるのだから。

 そこへ僕の失態をカバーして農家の倉庫を見てきたヘモジが通り掛かった。

「ナーナ?」

 何をしているのかと聞いてきたのであらましを語った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ