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エルーダ迷宮追撃中41

「秋祭りの目玉イベントのはずなのに……」

 既に空に無数の凧が泳いでいた。

 半ドンなので食事を済ませて帰ってきたら、祭りを数日後に控えて空に無数の糸が伸びていた。

 たぶん昨日からそうだったのだろう。

 村のフットベースのグラウンドや中央公園、ユニコーンの庭の柵前の直線通りの方で揚がっていた。うちの敷地以外だと学校の校庭や祭り当日の会場予定地である西の畑が盛況だ。

 まったく、祭り当日の目真新しさがなくなってしまう。

 僕とアイシャさん以外は全員ゴーレム倉庫でナガレが手に入れた『巨人殺し』の検証に立ち会っている。

 僕はこれから倉庫整理である。

 アイシャさんはレオの件で知らせが今日来るはずなので、北のポータルから出て郵便屋に顔を出しているはずだ。


 僕は本日の成果を宝物庫のなかにぶちまけた。なんだかモグラの巣穴のように宝の山があちこちに点在している。

 倉庫を作ってまだ数日でこの有様とは。

 まず金塊を一箇所に集めるか。

 今までの倉庫なら既にパンクしている量の金塊の山もここではまだまだ余裕があった。

 延べ棒を収めておく木箱が足りないな…… 倉庫の大きさに合わせて買い足しておかないと。

「ちょっと出かけてきます」

 僕はアンジェラさんに言付けて『ビアンコ商会』に向かった。


「なんだこりゃ?」

 長い行列ができていた。

 僕は行列の横を素通りして店舗を目指した。

『凧組み立てセット売り切れ中。次の入荷は夕方三時』

「まさかね」

 店内に入るとなかも人でいっぱいだった。

「ええと木箱はどこかな?」

 店員が僕を見つけると飛んできた。

「凄いですね、若様。またまた大ヒットですよ。もうきのうから行列ができちゃって大変なんです!」

「冗談じゃなかったんだ……」

「竹籤と布と接着剤のセットがいい値段で売れるんですからこっちが驚きですよ。今までてんで見向きもされなかったのに。凧の作り方の解説メモを付けただけなんですよ」

「木箱が欲しいんだけど」

「いつもの規格品で?」

「それを取り敢えず二十箱。後、重い物が運べる台車が欲しいな」

「台車はこちらになります。何をお運びで?」

「木箱いっぱいの金塊が五箱分ぐらいの重さかな」

「それはまた重いですね」

 想像以上に大きな荷車を一つ購入した。

 あの広い宝物庫では僕は兎も角、他の連中には必要だろう。

「まとめて運んでおいてください」

「かしこまりました」

「ああ、そうだ。凧は素手で揚げさせないように。糸で指切りますから」

 店員の顔が急に輝いた。

「なるほど! そうですね。急いで手袋も手配します」

 いや、そう言うことではなくて…… 注意してくれるだけで。

「割引しておきますね」

 そりゃどうも……

 そう言うつもりではなかったのだが……


 箱が来るまで金塊その他鉱石の面倒は放置して、結局宝石磨きを始める。

 売却用の化粧箱も足りなくなってきた。ギルド本部に発注掛けておこう。


 突然扉が開いてびっくりした。

 アイシャさんを除く全員が飛び込んできた。

「重いッ」

「重かったのです」

「死ぬ……」

 満杯のリュックと手荷物を抱えて皆戻ってきた。ジュエルゴーレムからの回収品だ。

「エルリンに頼り過ぎていたのです」

「ご苦労様。分けておいて」

 僕はテーブルの上のメモを取って『エルネストとアイシャを除く。ヘモジ、オクタヴィアは参加』と書いた。

 主人が参加しないとオクタヴィアや召喚獣には報酬が入らない取り決めなのだが、それでは優しくない。勿論、等分とまではいかないが、多少は出してやらないと労働意欲が削がれるというものだ。だからメモを回収袋に貼り付けると言った。

「何がいい?」と。

 ナガレはリオナが参加してるので報酬は等分配されたなかからリオナの裁量で出される。

 残るヘモジとオクタヴィアだが、ヘモジは夕飯に野菜サラダ大盛りを、オクタヴィアはホタテを要求してきた。いつものことだが安上がりな連中である。それとは別にポケットからふたりの賽銭箱紛いの共同貯金箱に銀貨を二枚入れておくことにする。

 夕飯で約束が果たされれば、名前の上に抹消線を引くことになる。

 みんなが着替えている間に僕も手を休めて上に戻る。


「それでどうだった?」

 居間でナガレに尋ねた。

 するとナガレは即答した。

「実感なかったわ。普通にやっても倒せちゃうんだから。今度タイタンやりに行くときにでも試させて貰うわ」

 だそうだ。

 タイタンはここの整理が終わるまでしばらく待ってほしい。

「凧揚げ凄いことになってるね。本番さながらじゃない?」

 荷物運びに付き合わされたロメオ君が言った。

「『ビアンコ商会』に行列ができてたよ」

「ほんとに?」

「子供はみんな欲しがるのです」

「親は大変ね」

 ロザリアが言った。

「何してきた?」

 オクタヴィアが僕の椅子の背もたれに乗ってきた。

「金塊やら仕舞うのに木箱が足りなくなりそうだからね。買いに行ってたんだ」

「ご主人は?」

「ん? まだ帰ってないのか?」

 そう言えばアイシャさんの姿がない。とっくに帰ってきているはずだけれど……

 帰ってないとすると、まだ手紙が届いていないのかもしれない。

「お茶入りましたよ」

 エミリーが全員分のお茶を用意した。

 リオナが盆を取りに食堂のカウンターに向かった。


 アイシャさんが帰ってきたのは宵の口であった。

「お帰り」

「遅かったのです」

「手紙、無事届いたんですか?」

 ロメオ君も帰宅して、皆夕飯を食べている真っ最中だった。

「一通目はすぐに届いたんだが、続けて送られてくるはずの二通目が来なくてな。店じまいまで粘らせて貰ったんだが」

「二通目は来なかった?」

「そうなるの。こんなことなら狩りを続ければよかった」

 取り敢えず一通目の手紙にはレオが来られることになったことが記されていた。その際魔法の教師はアイシャさんが務めることになるらしい。

 それ以外のことは他の案件も含めてもう一通の方で知らせるとあった。

「他の案件?」

 さっぱり分からないという顔をした。

「手紙より先に森の散策など始めねばよいが……」

 確かにまた迷子になって悪い人について行かれても困るな。

 明日手紙が届いたら飛空艇の準備をさせよう。


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