エルーダ迷宮追撃中(ウィズ・マリア)40
「それじゃ、とどめはナガレで」
「ナガレなら障壁の一つや二つひとりで貫通できるのです」
「それをやってたら核は狙えないだろ」
「ナーナ」
「そうだな。いつも通りで行こう。今回はマリアさんもいるしな。落とし穴に落としたら全員で総攻撃。再生する前に――」
「任せなさい! わたしの雷撃で核を破壊してやるわ」
「ちょっと、核の位置がどこかも分からないのに!」
マリアさんが指摘した。
「問題ないのです。エルリンとリオナが指示するのです」
「じゃ、行こうか」
重い扉を全員でこじ開けて、開いた隙間から雪崩れ込む。
僕は部屋の奥に向けて『一撃必殺』を作動させた。
「喉なのです!」
僕も確認する。
あった。
「ヘモジ」
「ナーナ」
ヘモジがタイタンを出迎えに行く。
僕はその間に足元を掘り進めた。前回に比べて浅めに設定した。とどめはナガレの魔法なので転んで貰わなくても構わない。足止めさえできれば遠距離攻撃の手数は足りている。
「ナーナーナー」
ヘモジがタイタンを釣り上げ戻ってきた。
後ろからと言うか、上からと言うか巨体が姿を現わした。
タイタンはハンマーを大きく振りかぶって、ちょこまかと動くヘモジを潰さんとする勢いだ。
ヘモジは緩急を付けながら、蛇行しながら、うまく振り下ろすタイミングをいなしていた。
タイタンに心があったなら、きっと今頃癇癪を起こしてハンマーを投げ付けていることだろう。
ヘモジは落とし穴の上の石畳を余裕綽々で飛び跳ねてきた。
タイタンの大足がヘモジが通過したばかりの床を豪快に踏み抜いた。
重みに堪えきれずに床が大きく崩落した。
足を取られた巨人はヘモジに覆い被さるように倒れ込んでいく。が同時に奈落に沈んでいく。
勢いのまま持っていたハンマーを床に叩きつけた。
衝撃で床が更に瓦解した。落とし穴の壁が崩れた。
「なんでこうなるかな」
僕が開けた以上の大穴が開いてしまった。
タイタンは腹を打ちながらも起き上がる。
腰から上は完全に自由だ。ミンチハンマーを握り締め、振り降ろす場所を探している。
そうはさせじと一斉に攻撃が入った。
巨大なタイタンが反り返った。
ナガレがヘモジの前に立ちはだかる。
そして最大の雷撃が落ちた。
タイタンが膝から崩れた。
衝撃と共に反り返ったまま後方に倒れ込んだ。
「ナーナ?」
ヘモジが振り返った。
「ん? ミンチハンマーがなんだって?」
駆け寄るとミンチハンマーの下に砕けた硬玉があった。
「翡翠?」
「そうみたいだな…… もしかしてここも鉱脈だったりして?」
ドワーフではないので目視以外で探しようがないのだが。
皆周囲の壁を亡骸が変化するまで暇つぶしに壊し始めた。
これから回収品で嫌と言う程出るのだから要らないだろうに。
そして変化の兆しが……
まずいッ!
忘れた頃に出てきた鏡像物質!
目の前に見えそうで見えない巨大な塊が! サンドゴーレムのときの比ではない!
選りに選ってマリアさんのいるこの時に!
僕は急いで鏡像物質がある辺りに手を伸ばした。
痛ッ!
思ったより近くに物質があった。突き指した。でも今はそれどころじゃない!
「ううにゃぁああ!」
突然オクタヴィアが叫んだ!
全員の視線が逸れた!
今だ! 今の内だ!
僕は物質を精製して分離した。忽然と目の前に巨大な金塊が現われ、足元に見えない物質が転がった。
見つかってはたまらないと鏡像物質を足で探す。
踵に堅いものが当たった。
僕は咄嗟に『楽園』に放り込んだ。
マリアさんの方を見るとちょうどオクタヴィアから視線を金塊に移動するところだった。
目を大きく見開いて、こっちにやってくる。
僕はオクタヴィアに何があったのか見てみると、どうやらナガレが尻尾を踏んだらしかった。
ナガレと目が合った。
故意か。
大量のアイテムを回収すると僕たちは外に出た。
報告することが山のようにあったが、もうどうでもよくなっていた。
報告する程デメリットが大きくなりそうだし。もう勝手にしてという感じになっていた。
マリアさんもとんでもない財宝の山を見て、情報を開示すべきか大いに迷っていた。
疲れた頭で考えても答えは出なさそうだったので、落ち着いてから後日、改めて考えることになった。
翌日『新発見に伴う最重要警戒情報発令並びに発布』があった。
発見者である僕たちでさえも大々的な発表に面食らってしまった。
僕たちは目立たぬように、逃げるようにして迷宮に飛び込んだ。
昨日の今日なので、タイタン部屋はもういいだろうと思っていたのだが「最短ルートがまだだ」とリオナが言い出して「じゃあ、半ドンで」ということになった。
タイタンフロア攻略、最短時間更新だ。
墓地の下を掘り抜いて、即行で攻略してきた。
そしてまた目立たぬように食堂に。
「ところで、タイタンはなんであんなに弱いですか?」
本日を含め、通算二度目のとどめを刺したリオナが、食堂のいつもの席で不満を述べた。
もはやリオナにとってタイタンは敵ではないらしい。
鈍重な相手は攻撃手段さえあれば、スピードスターの餌食になるのは当然である。
「壺に嵌まったからじゃないか?」
検証部隊のS級冒険者が珍しく昼から酒を食らって騒いでいた。
検証を無事終えて今日の結果だからな。浮かれるのも無理からぬことである。
リオナたちの話を聞く限り、よく立て直せたものだと感服する。
「ところでフロアの情報にない地下通路は報告した方がいいのかな?」
ロメオ君が言った。
マリアさんが自分でやっては報酬が出ないだろうから、こちらで申告した方がいいかもしれない。
ただ情報にないルートというのは見取り図に記されたルートで、ギルドも大部屋に繋がっているところまでは把握していた。知っていて隠蔽していたわけで、今回の一件でそれがどうなるか。知っていたからと言って行き先は同じなわけで、長い階段を降りないで済むだけの話だ。
そこでマリアさんと話し合った結果、今回の発表の件もあり、大人しくしていた方がいいだろうという結論に達した。
苦肉の策としてマップ情報のあの文言に曖昧な文章を更に付け足すという荒技に出ることになった。
まず正攻法としてモンスターの欄にサンドゴーレムがいることを明示し、砂嵐との関連性を暗示。その後で足元の大部屋には仕掛けがあり、正解ルートの他に別ルートがあること、その解除法とヒントが付け加えられた。




