エルーダ迷宮追撃中(ヘモジと余暇を)35
タイタン部屋の前まで来ると僕は魔力を補充して、剣をヘモジに預けた。
ヘモジは軽々、二本の武器を携えた。ミョルニルは兎も角、僕の剣まで小さくなっていた。
僕は大扉を押し開けようとした。が、重かった。
忘れてた。苦労したんだった。
ヘモジとふたり、ようやく人ひとりが通れる隙間を作った。
隙間を潜るといつもの演出が始まる。
ドスン、ドスンと部屋の奥から足音が響いてくる。
「はいはい、落とし穴の準備ね」
でもその前に急所の位置の確認を。
「ヘモジ、右肩だ!」
タイタンの肩は結構ごつい。が、上半身なら問題ない。穴に落せる。
僕は接近される前に急いで床の下の砂をよけた。破壊ではなく、なるべく丁寧に別の場所に移動して貰った。このだだっ広い部屋の一角に。
そしてタイタンが、仁王立ちして待ち構えているヘモジの前に姿を現わす。
小人の姿を確認したタイタンは雄叫びを上げながら一気に距離を詰めた。
格好付けていたヘモジは一転、反転してこちらに戻ってくる。
タイタンはヘモジのいた床を踏み込んで、小さな獲物の上にハンマーを振り下ろす!
床が豪快に沈んだ。でかい身体が前のめりに落ちた。
ハンマーが床を叩いて、あらぬ方向に飛んでいった。
ヘモジの軽い体重ではビクともしない石の床もタイタンが踏み込んではたまらない。
前回より更に深い腰まで沈み込ませることに成功した。
タイタンの身体の構造ではこの高さを乗り越えることはできない。
もはや前進も後退もできまい。
遠距離攻撃ならやりたい放題だが、ヘモジは近接型だ。
タイタンの自重による沈降はまだ続いている。どんどん沈み込んでいく。
「結構深く掘っても大丈夫みたいだな」
あっという間に胸まで沈む。
僕はあそこまで沈めて平気なんだと感心する。
タイタンは必死に床を叩いた。
叩いて叩いて床を沈めることで這い上がろうともがく。が、逆効果だ。瓦礫と砂はどんどんタイタンの下半身を締め上げていく。まるで蟻地獄に嵌まったかのようだ。
僕は沈降の手伝いをすべく、足元をどんどん掘り進めた。
結界がある分完全に身体を締め上げることはなかったが、これは結界に常時ダメージを与え続けることと同じだ。
タイタンは肘を振り下ろせなくなったせいで床すら満足に叩けなくなった。
ヘモジが機を見て遂に駆け出した。
「ナァアアア!」
よし、援護してやる!
『魔弾』で障壁を剥がしてやる。二発続け様に顔面に撃ち込んだ。
やはりこいつの障壁は頑丈だ。
三発目を撃ち込んだ。
顔面の一部が吹き飛んだ。
貫通した!
だが、あっという間に回復が始まった。障壁も再生…… おや?
再生が遅れている。
どうやら下半身を締め上げられているせいで障壁が展開できずにいるようだ。大量の砂と身体との間の隙間をこじ開けるのに時間を要しているようだった。。
「ナァアアア!」
ヘモジが剣を振り下ろした!
再生途中の障壁ごと肩口をざっくり切り裂いた。
ゴーレムが悶えた。
そして切り返して空に僕の剣を放り投げると、深い亀裂にミョルニルを容赦なく叩き込んだ!
おい!
核は肩の部位ごと粉々に打ち砕かれた。
回復し掛けていた頭部も再生をやめ、障壁も消えた。
ヘモジがひとり破壊した肩の上で勝利の雄叫びを上げる。
「ナー、ナー、ナーァアアアッ!」
「こら、ヘモジ! 早く剣取ってこい! 何投げてんだ!」
「ナーナ!」
飛び跳ねていった。
その間にこっちはタイタンを穴から引き摺り出さないといけない。
このまま穴のなかで回収品に変わられてしまっては、引き上げ作業が大変だ。
すべてが砂のなかに置き去りにされてしまう前に急がねば。
土魔法で足元を固めながら押し上げていく。周囲の砂を隙間に敷き詰めながら少しずつ少しずつ持ち上げる。
普段余りやらない作業なのでなかなか難しい。普段ならロメオ君とアイシャさんがやってくれる。
穴からの露出が腰の位置を越えた辺りでバランスを失い、亡骸は仰向けに倒れた。
穴に潜っていた下半身は折れることなく大量の砂をかき出し、巻き上げた。
満足のいく結果になった。特にヘモジには。
「ナーナ」
「スキル手に入れた?」
「ナ」
「カード見ろって?」
僕は懐から召喚カードを取り出した。
するとスキル欄に『巨人殺し』の称号が。
『巨大な敵程与えるダメージが増加するスーパーでグレイトなスキル』
「……」
解説がヘモジ寄りだな。
「お前これが欲しかったの?」
「ナーナ」
まあ、ヘモジが強くなってくれるのは主人として嬉しいけれど、前もって言ってくれれば。
「でも、自分でとどめ刺さないと駄目だったのか?」
「ナ?」
固まった。
「……」
考え込むなよ。
手をポンと叩いた。
「ナナーナ!」
なぁにが今日は運がよかっただよ!
デタラメな奴だな。
「ナーナーナー」
誰が似た者同士だ!
亡骸が変化したので、回収を始めた。
「ナーナ」
「そうだな。時間が足りないな」
ふたりだけで仕分けしながら回収するのは無理があった。
仕方ないので全部まとめて『楽園』に放り込んだ。
「本日の狩り終了」
「ナーナ?」
「サンドゴーレム? やりたい?」
「ナーナ」
「あ、そ」
目的は達成したからどっちでもいいか。
「じゃ、帰るとするか」
「ナーナ」
僕たちは部屋の奥にできた大きな亀裂を潜って脱出部屋を目指した。
地上に出ればリオナたちがいるかなと思ったが、どうやら地上にはいないみたいだった。
帰宅するとオクタヴィアが出迎えた。
どうやら先に戻っていたらしい。
ヘモジと一緒に居間に消えた。
僕は装備と回収品を置きに地下に潜った。装備品置き場に行くとリオナがいた。
「お帰りなのです。どこ行ってたですか?」
「ただいま。ちょっとタイタン部屋にね」
「はう! 誰と行ったですか?」
「ヘモジとサンドゴーレムをやりに行ったんだけど、予定が変わっちゃって」
「リオナも行きたかったのです」
「明日は?」
「明日もお手伝いなのです。みんなダメダメなのです」
「どこかのパーティーのサポート依頼か何かか?」
「鋭いのです! 検証チームのサポートなのです」
「何調べてる?」
「ガルーダフロアなのです」
「なんか問題あった? 報告したの結構前だと思うんだけど? マップの追加だけだろ?」
「転移する魔物の検証に手間取っているのです」
「なんで?」
「ロック鳥とガルーダが苦手みたいなのです」
なんとなく分かった、ふたりが指名された理由が。
発見者のパーティーメンバーを同行させるってことは、検証チームに敵を捉えきれる者がいないということだろう。つまりそういうことだ。
もしかしてマリアさんが留守だったのはこのためか?
「マリアさんいたか?」
「生きてたのです。ピンピンしてたです」
「依頼はいつまでだ?」
「明後日までなのです」
「学校は?」
「一回休みなのです」
双六かよ。
「凧揚げの授業は?」
「補習受けるのです」
「補修はないよ。次は秋祭りでぶっつけ本番だ」
「むー。明日までにおっさんたちを仕上げるてくるのです! 教育的指導なのです!」
「ガルーダの肉貰ってきたか?」
「みんなにこにこ現金払いなのです。リオナは肉の方がにこにこなのです!」
なんだ、みんなで分けなかったのか。勿体ない。
僕は宝物庫に荷物を降ろしに向かった。
取り敢えず、この辺に放置しておこう。ほとんど回収したときのまま袋にも入れず放置する。
「広いって素晴らしい」
翌日はロメオ君とロザリアとアイシャさん、ヘモジと一緒にタイタンとサンドゴーレム狩りをした。
そして更に次の日……




