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エルーダ迷宮追撃中(ヘモジと余暇を)34

「放せ!」

 領主館の庭を端から端まで必死に駆ける。風を捉まえるまで向かい風に向かってただ走る。捉まえられなかったらやり直し。端に戻ってもう一回。

 幸い一度で風を捉まえることに成功した。

 四角凧に比べて三角凧は扱いやすい。

 ここから格闘開始である。つんつんと糸を引きながら凧を上空に送る。落ちてきたら風をはらむように糸を引く。引いて駄目なら後退る。風を捉えたら糸を延ばしながら、今度はたわまぬ程度にゆっくり前に出る。たわんだときに後退るための距離を稼ぐためだ。広い野原ならこんなことせず、ひたすら後退ればいい。

 風をはらんでいる間に糸をどんどん送って凧をより高いところに運んでやる。

 じりじりと自分の立ち位置も調整していく。

 僕は庭の中央に移動していく。風向きが変わっても対処できるように。

 僕が走り回ることをやめたのでヴァレンティーナ様とヘモジ、それと護衛がふたり近付いてきて、僕の背中越しに凧を見上げる。

 凧は風を捉えてどんどん高く舞い上がっていく。たまに無風になるからそのときは後退りながら糸をひたすら手繰り寄せ、浮力をなんとか保つのだ。駄目なら走る。庭の隅に追いやられるか、疲れて動けなくなったらそこで終了だ。

 風が戻れば目が覚めたかのように凧は跳ね上がり、高度を取り戻してくれる。つんつんと糸を引きながら、凧を落とさぬように無心でいれば、凧はどんどん高く舞い上がってくれる。

 高い場所には風がある。それさえ捉まえればこっちのものだ。

 幸い今日は風に恵まれていた。無風状態の間隔もそう長くはなかった。

 凧揚げ当日もこんな風に吹いていたら最高だろう。

「ナーナ!」

 自分にもやらせろって?

「ヘモジじゃ、一緒に飛んで行っちゃうかもしれないから端を持っていてやるからな」

「ナーナ」

 僕が張り詰めた糸を地面まで下げると、ヘモジが糸の途中を取った。しっかり自分の手袋を用意している。

 僕は糸を徐々に緩めてやってヘモジに手綱を委ねた。

「ナァアアアアア」

 身体が持っていかれるのをヘモジが必死にこらえた。踵が一瞬浮き上がった。

 今にも一緒に飛んでいきそうだ。

「踏ん張れヘモジ!」

「ナーナ!」

 ようし、安定した。

 こりゃ、凧が少し大き過ぎたかも知れないな。子供用なら一回り小さくてもよかったか。

 ヘモジは上手に糸を手繰っていった。

「この高さまで来ると余程のことがないかぎり落ちては来ないぞ」

 もう凧が小さくなって見えにくくなっている。

 上空の風をしっかり捉えて、まだまだ揚がりたそうにしているが、糸はもう限界だった。

「ギリギリみたいね」

「もっと揚がりそうなんですけど」

「そうね。でもこれ以上揚がったら接触するわよ。灰にしたくないでしょ。今回はこの高さで我慢したら? この高さでも充分面白いわ。当日わたしも参加しようかしら?」

「みんな喜びますよ」

「じゃ、少し練習させて貰えるかしら?」

「素手じゃ指切りますよ」

 護衛のひとりの手袋を借りて、僕と交替して木に巻いただけの糸巻きを受け取った。

「放しますよ。いいですね」

「ナーナ」

 僕とヘモジは手を放した。

 するとヴァレンティーナ様も身体を凧に持っていかれた。護衛も飛び出し掛けた。が、さすがにすぐにバランスを取り戻した。

「強いわね。風がこんなに強いとは思わなかったわ」

「ナーナ!」

 頑張れと励ましている。

 重い剣を振り回している人にはこの程度問題なかろう。

「あんたたちもやってみる?」

 ヴァレンティーナ様は護衛に声を掛けた。

 護衛たちはガントレットを外して糸巻きを受け取った。

「面白いものね。ただ揚げているだけなのに無心になれるなんて。こんなにすっきりした気分は久しぶりよ」

 それから遠慮していた使用人たちまで出てきて中庭は大騒ぎになった。

「イベントは成功間違いなさそうね」

「天気だけですね。心配は」


 凧はそのままに、姉さんに言伝を残して僕たちは領主館を後にした。

 そして装備を整えエルーダに向かう準備を始めた。

 タイタンは無理でもふたりでサンドゴーレムはいけるだろう。

 やはり寂れた宝物庫というのは余りいい気分はしない。満杯にしようとは思わないが、少しぐらい埋めておかないと訓練場と変わらない。何より今はレベルの高い宝石が欲しい。大きいのもいいが、できれば数が欲しい。

 売れ線ではあるがゴーレム倉庫の宝石はもはやスキル上げには貢献してくれそうにない。

『細工』スキルまで考えるとタイタンをぜひ攻略したいのだけれど。

 表面を加工するだけで一気に成長してくれるのだ。できの悪いカメオ作りを始めるにしても、せめて成長が頭打ちになるまでの間、タイタン戦をなんとか日課にできないものか。

 ヘモジとふたり、ルーティーンにできればと思考を巡らす。

 同じ五枚障壁のドラゴンは倒せた。ただゴーレム相手の特化スキルがない。これだけ相手にしていれば何か手に入りそうなものだが。

 何を置いても障壁と回復力が厄介だ。核の位置によっては装甲を剥がしている間に障壁を再生され兼ねない。

『魔弾』がある以上、堂々巡りにはならないだろうが、対峙する時間は短く済ませたい。何せ敵のミートハンマーを一撃食らったらこちらも終わりなのだから。結界があるとはいえダメージコントロールはしっかりしておきたい。

「ナーナ」

 ミョルニルに障壁貫通能力が欲しい?

「気持ちは分かるけど」

 破壊する能力は充分あるだろうが。

 そうだ!

 ヘモジに僕の剣を使わせればいいんだ!

「ヘモジ、僕の剣使ってタイタンとやるか?」

「ナ?」

「障壁貫通できるぞ」

「ナ!」

 一瞬笑みを浮かべたがすぐに考え込んだ。

「ナ……」

 何を思案しているのやら。

「ナ、ナーナ」

 ミョルニルでなければ意味がない? どう考えてもトロールとタイタンの間に接点は見当たらないのだが。鎚使い同士の矜持でもあるのか?

「ナァアアアア!」

 変な声を上げた。

 両方持てば問題ない?

 それ悪手だろ? ミョルニルは兎も角、あ、そうか、大きさ変えられるんだ。

「ナーナーナー」

 嬉しそうに腰振りダンスを始めた。

 こりゃ、中止したら恨まれるな。


 そんなわけでタイタンフロア、最短ルートの墓地に来ている。

 僕の良心が面倒臭くなったようで敷地の外から斜めに『魔弾』を放り込んだ。

 巨大な砂のクレーターができあがった。

 巻き上がった砂は容赦なく墓地に降り注いだ。

 どうせ砂漠だし、いつかは砂の下だ。

 クレーターを見下ろす。

「やはり浅かったか」

 二発目を撃ち込んだ。

 更に大きなクレーターができた。そして破壊された通路がすり鉢状の斜面に姿を現わした。

 断絶された通路の両端から黒いものが沸き始めた。

 雷を落としてやった。闇は消失して蠍の亡骸が残った。

「ナー」

 ヘモジが唖然としている。

「行くぞ、ヘモジ。長い階段が待ってるぞ」

 別ルートの通路はまだ下を走ってるのだな。

 僕たちは通路に入った。

 明かりを点けるとすぐ目の前に扉があった。


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