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エルーダ迷宮追撃中(姉の愛は倉庫より広し)32

 ギルド事務所に寄った。

 商業ギルドに担げる分の硬貨の袋を持って入金してみた。

 職員は銅貨の袋を見ていやーな顔をして、銀貨の袋を見て気を取り直して、金貨の袋を見て笑みを浮かべた。

「お預かりします」

 よろしくお願いして、気が変わらぬうちにサッサと立ち去った。何せ、同じことをする人間が後四人、後ろに控えているからだ。

「問題なかったのです」

「あの様子だと全部渡せたんじゃない?」

 リオナとナガレが戻ってきた。

「まだ余裕あるみたいだよ」

 ロメオ君も何ごともなく戻って来た。

「喜んで受け取って貰えましたわ」

 ロザリアは笑みまで浮かべた。

 最後にアイシャさんがオクタヴィアとヘモジと一緒に戻ってきた。

「問題ない」

「脅した」

「ナーナ」

 怖かった?

 あんまりからかうとげんこつ貰うぞ。

 ここまでやっても回収袋の中身はまだ半分残っているわけだが。

 次に来たときが試金石だな。一言あったら、それがギルドの限界だ。

「お客様」

「!」

 次回ではなく、早々に呼び止められてしまった。

 事務所から偉そうなちょび髭が出てきた。

「できれば次回からは一度にお持ちいただけると幸いです。チームエルリン様」

「エルリンチームなのです」

 どっちも五十歩百歩だ。

「それはすまなかった。大金故、そちらに受けとって貰えないかと思うてな。姑息なことをした」

 なんだ? アイシャさん、里帰りして人が変わったか?

「商業ギルドに基本上限はございません。幾らでもお預かりいたします。手数料は頂きますが。例え銅貨の一枚、実物大のドラゴンの金の像であったとしても喜んで」

 さっきの窓口はそうは見えなかったが。僕に対してだけか?

「それはお見それした。エルネスト、残りを出せ」

「全部?」

「迷惑を掛けたことだし、金塊もだ」

 金塊と聞いて男は飛び跳ねた。

 それも全部?

 アイシャさんがニヤリと笑った。

『楽園』からほいと出すわけにはいかないので、芝居を打たねばならなくなった。

「少々お待ちを」

 僕とロメオ君はギルドで荷馬車を借りて迷宮に戻った。

 そして誰も見ていない一階フロアで硬貨の袋と金塊が詰まった回収袋を荷台に降ろした。

「大丈夫かな?」

「大丈夫だよ。ギルドにも守秘義務あるし」

 ロメオ君が言った。

「そういや前回の金塊のときも出所までは探られなかったんだよね」

「でもそのせいで馬鹿な貴族に暴れられたけどね」

「城壁破壊した記憶が……」

「あったね、そんなことが」

「あのちょび髭親父、偉そうだから商業ギルドの上役じゃないかな?」

「ちょび髭って…… たぶんね。周りに気付かれなきゃ大丈夫だと思うよ。前回だって僕たち直接ばれたわけじゃないからね。守秘義務は商売の鉄則だよ」

「大きな塊だと言われそうだけど、このサイズなら問題ない、はず……」

「アイシャさんもああ言ってることだし」

 ロメオ君が突然、立ち止まった。

「僕たち自重してるよね?」

 ロメオ君の頬に汗がたらり……

 えー、もしかしてロメオ君も言われてるの? 「自重しろ」て?

「だ、大丈夫でしょ。アイシャさんが言い出したことだし。それにここで引き下がったらおかしなことになる」

「そうだね。ハイエルフの言うことだし。年長者の意見は尊重しないとね」

 僕たちは買取窓口に馬車で乗り付け、ちょび髭立ち会いの下、アイテムを荷台から下ろした。

 袋のなかを覗いた瞬間、手伝いに現われた職員のひとりが卒倒した。

 あーあ。

「あれは僕たちのせいじゃないから」

 お金の入った袋を覗いた職員は既に中身を知ってるせいか、手押し車に載せて飄々となかに運び始めた。

 どうやらあの量の硬貨でも受け取って貰えるらしい。よかったよかった。

 僕たちが現実逃避している間に、ちょび髭は青ざめていった。

 いくら今回金の量が少ないと言っても回収袋にして二袋はあった。

 塊を小分けにした分、隙間が増えたので嵩張ってはいるが、質量にすると見た目の七割ぐらいでしかない。

 僕の記憶がどうであろうと、この量の金をここのギルドに卸したことはない。

 ロメオ君の家で現在、展示してる物に比べれば、たったの半分だ。

 アイシャさんはちょび髭の肩を叩きながら笑っている。

「くれぐれもよろしく頼む」

 あれで幾らになるんだろうな? 

 今夜辺り姉さんが飛び込んでくる予感がするが、今回は『全部アイシャさんのせい』だから。

「すべての算定が終わるには数日掛かると思いますが、よろしいでしょうか?」

 勿論、全員頷いた。


「案外行けたね」

「さすが商業ギルドなのです。ビクともしないのです!」

「しないわけないでしょ!」

 何考えてるんだと姉さんが我が家で待ち受けていた。

「はやっ!」

「情報早いのです」

「なんでまたタイタンを狩りに行くのよ! こっちの処理が終わってからにしなさいよ!」

「アイシャさんがまだ狩ってなかったからね」

「金塊、売り払ったでしょ?」

「あの量を引き取ってくれるとは思わなかったよ」

「分かってるなら売るんじゃないわよ!」

「すまんな、妾がけしかけた」

「買い叩かれた上に手数料まで取られて。次からは『銀団』通しなさいよ!」

「それだけ?」

「他に何かしてきたの?」

「いや、そうじゃないけど……」

 お咎めは?

「お金全部売り払ってきたのです」

 売ったんじゃなくて、預金しただけだ。

「それはいい。硬貨の価値は変わらないからな。むしろ硬貨を鋳造しなくて済むから向こうの得意先も喜ぶ」

「そうだったんだ」

「常識内ならな」

「すいません……」

「金の相場がしばらく下がるから売るなよ。それと…… 売りたい物があるなら遠慮なく本部を通せ。分からないことがあれば聞け。皆お前たちより商人として経験を積んできてるんだ。なんでも答えてくれる」

「怒ってないの?」

「怒ってるが、同時に呆れてる。首輪も機能しないようだしな」

 ロメオ君のことか。

「それと何を言っても駄目なようなので倉庫を拡張しておいた。迷子になるなよ」

 意外な程すんなりいった。

 困ったな。あっさりされると、素直に従うしかなくなってしまう。

 それにしても何か忘れてる気が……

 あっ! マリアさん…… 今日はちゃんと出勤したのかな?


 姉さんが帰ると僕たちは拡張したという倉庫を見に下りた。

 それは今までより随分深いところにある宝物庫の扉の先にあった。

「ナー」

「尻尾ムズムズする」

「天井が高いのです」

「姉さん、やけになったな……」

「そりゃカンカンだったさ」

 アンジェラさんも下りてきた。

 アイシャさんが笑った。

「あの女らしい。馬鹿らしい」とケラケラと笑った。

 確かに笑うしかないでかさだった。魔法練習場並みの大きさだった。

「感謝せねばならんな、エルネスト」

 全く以てその通りである。この大きさを見れば怒りの程が分かる。それでいて緻密。壁も床も歪みなく平らだ。まるで宝石の断面のよう。姉さんの思いやりだ。部屋の隅には今まで僕たちが集めたガラクタがきれいに並んでいる。

「ほんによい姉じゃな」

「自重しろ」と何度も言われるよりこれはこたえる。

「取り敢えず今日の戦利品を置くのです」

「殺風景」

「ナーナ」

 これだけ広いと当分困らない?

 馬鹿言え、すぐ溜めてやるさ。

「金塊売らなきゃよかったわね」

 ロザリアが言った。

「今日のところはミスリルで我慢するのです」

 僕たちはミスリルや銀を取り敢えず木箱に収めて並べた。延べ棒にするのはまた後日暇なときに。

 部屋が手狭になる程、回収品があったはずなのに壁の一角も埋まらない。

「自重してちゃ駄目だって気になるな」

「馬鹿言うんじゃないよ。掃除する身にもなってごらんよ」

 確かに。この家の延べ床面積が一気に増えた。

「さあ、みんな着替えておいで。夕飯にしよう」


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