エルーダ迷宮追撃中30
そして午後の部の開始である。
見取り図を確認しながら方角を決める。
出口があの位置で大部屋があの位置だから……
ボードに乗って高さを変えながら縮尺の調整をする。
ロックゴーレムが徘徊していて目障りだが、まだ射程外だ。
「よし、この角度だ!」
見下ろして扉の位置を確定する。
するとそこには砂に埋もれかけた墓所があった。なんでこんな所にと思える場違いさだが、 ああ迷宮側もやるものだなと感心した。
さすがに墓地を掘り返そうなどと思う不届き者はそうそういないだろう。
立派な目印があったわけだ。
だが、それだけのことで穴が掘れなくなってしまった。頭では理解しているのだが、ここを掘り進んで潜りたいとはどうしても思えなかった。
仕方がないので敷地の囲いの外に穴を掘った。それでも嫌な気分だったが、良心の外側からとなるとこの距離が必要だった。
斜めに掘って、墓地の中央を目指せば結果は同じことだ。僕の安っぽい良心はそれで取り敢えずの安寧を得るのである。
折角深さを測ったロープがあるのに垂らせないから、感覚に頼るしかなくなった。
段々面倒になってきて穴の断面も大きくなってくる。人が通れるギリギリの大きさだった物が最後には三列に並んで肩車しながら通れる大きさになっていた。
蠍の反応発見!
よくよく考えたら、近場にいる闇蠍とは戦闘が必須だった。
「そろそろあるはずだ」
ガツン! シャベルを持っていたわけではないが、そんな手応えがあった。
探していた石の壁を見つけた。
「闇蠍がいるからな。注意していこう」
ヘモジは兎も角、オクタヴィアはイチコロだ。黒いし、暑いけど、対毒装備をさせる。
こういうときロザリアがいてくれると浄化も働くので助かるんだが。いないものはしょうがない。
天井をぶち抜いた。
明かりを放り込むと、なかからワラワラと闇蠍が出てきた。
「ちょっと! なんで出てくる!」
暗いところにいればいいものを!
穴から這い出してくるところを徹底的に燃やした。万が一にでも生きていられたらこっちの命が危ない。
一掃したようなので、なかに入る。闇蠍の階段ができあがっていた。
明かりをかざすと、先日見た景色が広がっていた。
「当たりだ」
僕たちはゴールに辿り着いた。
あの長い階段と通路を下りるのはくたびれるが、タイタン狩りにはこれからいつでも来ることができる。デザートゴーレムを狩りに行くにも砂嵐が回避できるし。闇蠍とどっちの相手がいいかという選択にはなるだろうが。
さすがにこの面子でタイタンに挑もうとは思わないので、ここで本日の冒険は終了である。
また金が溜まってしまったが、これくらいならまあいいだろう。サンドゴーレムが宝石をもっと落としてくれれば楽できるのにな。
ギルドで金の一部を換金して当座の資金を確保すると、事務所に寄った。
聞けばマリアさんはまだ休んでいるという。
「体調を崩したのか?」と尋ねたらそうではないと言われた。
聞きたいことが山程あったような気がするが、なんだったか。サリーさんのおかげで解決したんだったか?
タイタンまで辿り着けたし、もうどうでもよくなったのかもしれない。
それよりマリアさんが休んでいることの方が心配だ。別の窓口嬢は否定していたが、風邪をこじらせてなどいなければいいのだが。
「心配」
「ナーナ」
ポリポリ言わせながら言われてもね。
家に戻ると本日唯一の宝石を取り出した。
「でかいね」
「でかすぎ」
「ナーナ」
飾りとして食堂辺りに置くとなれば、そうだな。僕は汚れの掃除を考えて平らな面を基調にした幾何学的なデザインに仕上げようと考えた。
まずは精製、そして圧縮。
「光った!」
「ナーナ!」
光りはしないが艶が出た。そしてこれを長細い多角形のオブジェに変えた。ひねりが入ったらいい感じなんだけどなぁと思ったら。
「できた! 何だこれ?」
まるで水飴のようだった。一瞬石が飴のようになった気がした。
これは初めての体験だ。これも『鉱石精製』の一部なのか? 再構成ができるのだからできないことはないだろうが、確実に進化してる。もしかして『細工』スキルが影響してるのかもしれない。
このオブジェの土台を作らないとな。そうだピオトの師匠とやらに…… いや、ピオトに頼もうか。
「ピオト、仕事があるんだが、やらないか?」と僕は中庭に出て空に叫んだ。
すると数分もしないうちにピオトが中庭に現われた。
「なーに? 仕事って?」
「これの土台を作って欲しいんだが」
「うわーっ、でかい。これ宝石?」
「そうだよ。なんとかの瞳だったかな?」
「名前知らないの?」
「珍しい石だから覚えてないだけだ。それで頼みというのは…… 土台を付けて欲しい」
「師匠に頼めばいいの?」
「ピオトにやって欲しい。食堂に置きたいんだ。勿論代金は払う」
「でも僕修行の身だよ」
「自分の家に飾る物ぐらい自分で加工するだろ? 師匠はそれもさせないのか? この石は僕が遊びで作ったんだ。売り物じゃない。だからピオトも練習だと思って気楽に受けてくれないかな?」
「師匠と相談する」
「それでいいよ。これも持っていくか?」
「やだよ! そんな高価な物、運びたくない!」
しばらくすると道具を抱えて戻ってきた。
「やってもいいって。でも材料費以外は頂くなだって」
「なら茶菓子でも持って行くか? 工房の人たちと食べるといいよ」
「分かった。作業はどこで?」
「木屑は後で魔法で掃除するから好きなところでいいよ」と言ったら、廊下の縁にちょこんと座って作業を始めた。
ニスを何度も塗ったりするからすぐには完成しないらしいが、チョビとイチゴが遠巻きに何ごとかと眺めている。
ナガレも椅子を持ってきて見学を始めた。
ピオトは宝石を収める溝を掘るだけ掘ったら、道具を仕舞い始めた。
「もう終わりか?」
「暗くなってきたから続きは明日」
いつの間にか日が暮れ始めていた。
僕は急いで母屋に走って、用意しておいたクッキーとマフィンの包みを手に取った。
「これ、少ないけどみんなで」
「ありがと。師匠喜ぶよ。師匠、おっかないくせに甘党なんだ」
魔法で後できれいに掃除するからと言ったのだが、ピオトは自分の手箒で周りをきれいにしていった。
「若様、みんな今度の凧揚げ楽しみにしてるからー」
「転ぶなよ」
「食い物を持ったら僕の脚は転ばないようにできてんだ!」
そう言って走り去った。




