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エルーダ迷宮追撃中(タイタン攻略)25

「扉だ」

『開かずの扉』はないので一つだけだが、同じ扉だ。

「いよいよだな」

 果たして階段は上に向かっているのか、下に向かっているのか。

 ロメオ君は心臓バクバクだ。

 もし上に向かっていたらスタートからやり直しだ。

 ボス部屋の可能性もあるので僕たちは装備を整え、段取りを決めて扉に飛び込んだ。


「どこまで続くですか?」

「ドワーフの坑道じゃないんだから」

 いい加減、現われてくれないかな?

 僕たちは長い階段を下り、長い廊下を進み、また下りてはまた進みを繰り返していた。

 無限ループにでも嵌まったのかと目印を置いてみたりもした。

 どれ程深く潜ったことか。もう地下百層ぐらいまで行ってるんじゃないのか?

 ロザリアもロメオ君ももうフラフラだ。元気なのは召喚獣とリオナぐらいなもんだ。肩の上のオクタヴィアでさえ揺れに堪えきれずにぐったりしてる。

 万能薬で体力は回復しても、精神的な疲労は回復しない。忘れた頃に敵が出るというのは迷宮のセオリーだ。通路の角に出くわす度に、暗闇を見る度に細心の注意を払う。そして肩透かしを食らう。その繰り返しに参ってしまったのだ。すべては『魔力探知』が効きづらくなっていることが要因だ。

 実際のところ、敵が出て来てくれた方が緊張がほぐれるのだが。緊張は増すばかりだ。

 何度も何度も足を止めては緊張をほぐすが、段々虚ろになってくる。何も考えたくなくなってくる。

 そんなとき、鮮やかな色が目に飛び込んで来た。

 石壁ではない色だ!

 ようやく景色に変化が訪れた。

 はやる気持ちに引っ張られて足早になる。

「あれは!」

 見慣れた堅木の扉!

 左折する通路の突き当たり。さも疲れ切った僕たちを待っていたかのように姿を現わした。

「脱出部屋だ!」

「え?」

「タイタンは?」

 立ち止まった視線は左折した通路の闇をまさぐった。

「もっと先だろうな」

 ここにきて究極の選択だ。このまま脱出するか、タイタンを倒すか。

「『やり過ごすな。戦え。出口はその先にしかない』このことだったのか」

 ロメオ君も息が絶え絶えだ。緊張ここに極まれりだな。

「この扉はトラップと言うことね」

「そうね…… 出口じゃないのよ。きっと」

「うー。試したいのです」

「却下!」

「ゲートを使ったトラップは危険よ」

 ロザリアがリオナを諫めた。でもその言葉に力強さは残っていない。

 僕たちは脱出部屋の見慣れた扉を横目に通路を左折した。

 そして階段を下ること数回、ついに大扉を見つけた。

「やったーっ」

 もうここがゴールでいいや。ロメオ君はそんな感じで喜んだ。

 ロザリアも一瞬で笑顔を取り戻した。

 僕もほっーと深い溜め息をついた。

 オクタヴィアも背骨を思いっきり反らせて伸びをした。

 いよいよだ。

 スタミナ回復のために万能薬を舐めて、空いたお腹に非常食代わりに持ってきたおにぎりを放り込む。

 この際、ストレス食い大いに結構!

 

 長いようで短い休憩タイムが終わった。

 気力が戻ってきたところで僕たちは立ち上がった。

「今度こそ、勝負だ! タイタン! 二度と来ないぞ、こんなとこ!」

 僕たちは笑った。

 ほんと頼むよ。扉を開けたらまた階段が続いていたってのはなしでお願いします。


 扉は重かった。

 両扉を全員で押し開けた。

 真っ赤に燃え盛る巨大な壁掛け松明が目に飛び込んできた。

 幾つもの明かりが遙か頭上に掛けられていた。

 長い階段を下りてきた理由が分かった。

 この大空洞のせいだったのか。この床まで下りてくるために長い道のりを進んできたのだ。

「嘘でしょ?」

 この大きな部屋を基準に考えるならタイタンの大きさは…… 

 部屋の大きさはサンドゴーレムクラスが駆けずり回っても余り有るサイズだ。

 標準の四倍…… 或いは五倍か……

 部屋が大きく揺れた。

 でかく眩しい反応が近づいてくる。

 巨大なハンマーの先が見えた。

 ドロップアイテム回収無用、殲滅あるのみ!

 報酬はサンドゴーレムの金だけで充分だ。

「ナーナーッ!」

 ヘモジが闘志を燃やして雄叫びを上げた。なぜか相手が同じ鎚持ちだと燃えるようである。

 ヘモジが飛び込んでいった。

 肉叩きのようなギザギザの大きなハンマーが振り上げられた。

「でかい……」

 ハンマーだけでゴーレム一体分だ。

「何も部屋いっぱい、でかくなくたっていいのに!」

 振り上げたハンマーが天井に当たって、天井が崩れた。

 瓦礫が落ちてくる。

「嘘だろッ!」

 あれが当たっただけであの世行きだ。

 ヘモジに向かって振り下ろされたハンマーはちょこまかしているヘモジには当たらなかった。が、地面を陥没させた。

 あっという間に下りられない深い谷間ができあがった。

 不味いな。動ける足場がこのままじゃなくなってしまう。

 ヘモジのお返しの一撃がタイタンの踵辺りにヒットした。が、弾かれた。

「結界だ!」

 障壁が見えた。

 すかさずロメオ君たちが魔法攻撃でヘモジを援護する。

 それも弾かれた。

「魔法も弾いた!」

 障壁の数は…… 恐ろしく回復が早い。三枚までは確認したが、すぐ一枚目が復活してしまって、それ以上確認できなかった。

 三枚同時抜きで行くしかないな。

「全員攻撃を合わせろ! 障壁は三枚以上だ! 同時攻撃!」

 タイタンのハンマーが振り下ろされる。

 またヘモジ狙いだ。

 タイタンも同じ槌持ちが気に入らないのか?

 ヘモジは股を潜り抜けてタイタンの後ろを取った。

 タイタンは後ろ目掛けてハンマーを横に薙いだ。

 が、ヘモジは踏ん張った軸足のすぐ下にいた。

「ナーナッ!」

 渾身の一撃を足首目掛けて放った。

 ナガレがブリューナクを構えた。魔力吸い放題の環境での最大出力。本人の頬が高揚している。リオナは新型鏃を放り込むために身構えた。ロメオ君もまだ赤い杖を構えた。

 僕は『魔弾』をセットしたライフルを構える。

『千変万化』に『一撃必殺』を。

『一撃必殺』は反応しない。リオナもまだ核の位置を掴めていないようだ。

 取り敢えず、魔力の削り合いだ。

 ヘモジの一撃がヒットした。同時にナガレの五本の雷がタイタンの天頂に落ちる。ロメオ君の氷結魔法もヒットした。

 障壁が五枚もあった。

「ドラゴンかよ」

 だが、そのすべてが破壊された。

 核はどこだッ!

 一枚目がもう再生しかけている。

『一撃必殺』が発動した。急所を見つけた!

「鳩尾だッ!」

 だが一枚目の障壁が。

 爆発した。

 リオナが鏃を投げ込んだのだ。完全に障壁が消えた。

 リオナも無双を仕掛けるべく剣に手を掛ける。

 でも、こっちの方が早い。

「『魔弾』ッ!」

 僕も遠慮無く周囲の魔素を取り込んで最大の一撃をピンポイントに撃ち込んだ。

 一瞬、ここが地下の深部だということが頭をよぎった。威力は最大、でも周囲への影響は最小にという相反する心理が咄嗟に働いた。

 タイタンはハンマーを盾に僕の攻撃を防いだ。

 が、タイタンの両腕がハンマーごと吹き飛んで消滅した。

 飛び散る破片から身を守るべく、結界に注意を移した。

 ヘモジが障壁のなかに頭から飛び込んできた。

 一瞬のできごとだった。

 タイタンが崩れた拍子に壁に激突し、陥没、崩壊させた。その衝撃で、部屋の奥で何かが崩れた。

 とどめを……

「終わったのです。リオナがとどめを刺すまでもなかったのです」

 リオナが僕の目の前で剣を鞘に収めた。

 どうやら僕の攻撃は核まで届いていたようだ。

「投擲のタイミング、ピッタリだったな」

「褒められると照れるのです」

 そう言うと恥ずかしそうにタイタンの亡骸の方に飛んでいった。

 仕留めた獲物に視線をやると、壁に寄り掛かった巨大な石の像の腹に風穴が空いていた。

「障壁だけで、脆かったわね」

 ナガレが槍の柄尻で残骸をつついている。

「装甲自体は普通のゴーレムと変わらなかったんじゃない?」

 ロメオ君も暢気だ。

「ナナーナ、ナナナーナ」

「『それなりの回復力もあったはずだ』だって」

 埃を被ってオクタヴィアの鼻先が白くなっていた。

「普通、あの分厚い装甲を一撃で貫通できないでしょ? きっと無限ループを繰り返すことになってたわよ」

 ロザリアの言う通りだ。

 五枚の障壁だけでなく身体も再生するんだからドラゴン並みである。いやもう羽が生えたらドラゴンだ。

「あの変な金属はいらないのです」

「何が出るのかしらね?」

「未知の金属とか、どうにもできないから」

 僕がそう言うと、ロメオ君に笑われた。

「加工できなきゃ、ほんと邪魔にしかなんないもんね。いつか役に立つときが来るにしてもさ」

「もういいよ、あっても売り捌けないんだから。普通に宝石だけで」

 部屋のなかの魔素が急激に減っていった。

 そしてタイタンの亡骸も砂のように崩れ去るとそこに残った物は……


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