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閑話 ガルーダセンセーション3

 困ったことに同じ状況が四日続いた。

 契約は一週間。その間四十五階層は封印されたままになっている。入れ替わり立ち替わり、名のあるパーティーの索敵役を投入してきたが、ロック鳥の検証はままならなかった。

 ガルーダの方は何度かそれらしき兆候を確認したが、転移したかと言われると首を傾げるしかなかった。確かに幻覚の類いではないことは間違いない事実のようであった。なんらかの方法で移動したことがうかがえた。そもそも転移の兆候とはいかなる物か、ゲートが明確に開かれるのなら見ることもできるだろうが、そんな兆しなら既に誰かに見極められていたはずだ。人のそれより本能に根ざしたものと考えるべきだ。見極めは難しいだろう。

 ギルドの方でも悩んでいた。

 一向に進まない事態に調査員が同行すると言い出した。

 そして本日、決定が下りた。ギルド側の調査員と共に問題提起したパーティーから助っ人を借りることになったのである。

 異例のことではあるが、仕方がなかったようだ。

 王都から国防に関する重大案件として調査報告書の提出を求められたようで、ギルドの方も分からないでは済ませられなくなっていた。

 ギルドとしては『魔法の塔』から人員を送られることは、魔物退治の専門家として、その独立独歩の精神からしてどうしても避けたかったらしく、自前でなんとかすべく、先の決定を行なったわけである。

 そして今、目の前に先のパーティーの索敵担当がいた。

「リオナなのです」

「オクタヴィア、です」

「わたしは彼女の付き添いだから」

「いや、付き添いは困る」

「ギルドが許可しました」

 ギルド側の立会人であるマリア嬢が言った。

「これだけか? 魔法使いの少年は?」

 リーダーも困惑している。見習い少女ふたりと猫一匹だけだ。

「索敵ならリオナたちなのです。問題ないのです。それより遠距離攻撃の射程の方が問題なのです」

「それならこちらにも雷使いがいる。問題ないはずだ」

「駄目ならまた考えましょう。今日を入れてあと三日あることだし」

 ナガレ嬢が無視してそう言った。


 入って早々霧に包まれた。

「フェンリル来るのです。気を付けるのです」

「あっちから三体、向こうから三体」

 誰もフェンリルだと気付いていない段階で獣人の娘は言った。対戦してみると猫の使い魔の言う通り六体だった。

「空から来るのです。ロック鳥なのです」

「どこだ?」

 索敵役が必死に霧の嵐が吹き荒ぶ空を探す。

「転移してくるわよ! 魔力探知を張り巡らせて。空間の歪みを――」

「そこ! 後ろなのです!」

 俺たちは少女たちが指差す方向に視線を向けた。

 ロック鳥が霧のなかから突然襲いかかってきた。


「本物だぜ。あの子供たち。恐ろしく正確だ」

 参加した大人たちは驚愕した。

「で、転移の兆候は捉えられたの?」

 ナガレ嬢の言葉に大人たちは黙るしかなかった。

「普段あなたたちはどうしてるの? 弟君たちは?」

 マリア嬢が尋ねた。

「最初の頃はリオナも分からなかったのです。でも今はみんな分かるのです」

「みんな?」

「慣れで分かるようになったです。特に転移するときは魔力が大きくなるからみんなにもバレバレです」

「みんな見えてるってこと?」

「見えてるです」

 誰も信じなかった。まさか全員と言うことはあるまいと。

「じゃ、練習するわよ。あたしが合図するから見つけなさいよ。あいつらの射程距離さえ分かれば次からは山を張れるから」

 そう言ってナガレ嬢は仲間と一緒にスタスタと歩き始めた。

「しばらく敵は出ないのです。急ぐのです」


 霧が立ち込めると戦闘開始の合図である。

「ワイバーン、ドラゴンフライ! ロック鳥もいるです!」

 いきなり雷撃が放たれた。

 先行してきたワイバーンが軒並み地上に落とされた。そしてもう一撃が今度はドラゴンフライの群れに。

 残ったのはわずかに三体。その三体をこちらの魔法使いたちが迎撃する。

 殿の俺以外の前衛がとどめを刺しに向かった。

「みんな来るのです!」

 獣人の娘が叫んだ。

 三発目の雷撃が遙か彼方の空の向こうに轟いた。

 全員がその稲光を見上げた。

「リオナ!」

 追い付いた俺たちは少女が双剣を空に向けて構えているのを見た。

 それが銃だと分かったのは黒い塊が空から落ちてきたからだった。

 地面に激突するとすさまじい地響きと土煙を上げた。

「何外してんのよ!」

 五叉の槍を振り回しながらナガレ嬢がロック鳥に近付いていった。

「調子に乗りすぎたです。ちょっと遠かったです」

「でも当たった、二発目」

 ふたりと一匹は暢気な会話をしながら、落下したロック鳥の元に向かった。

 驚愕すると棒立ちになると言うがまさに今がそのときだった。いい歳した親父連中が皆根っこでも生えたかのようにその場に立ち尽くしていた。

「圧倒的じゃないか……」

「あんな距離を狙えるものなのか?」

 魔法使いたちはナガレ嬢の雷撃の射程に驚き、残った連中はリオナの銃を仕込んだ双剣に目が釘付けになっていた。よくよく見れば見たこともない材質だ。

 銃なんて力のない奴らのおもちゃだ、そう思っていた俺たちは自分たちが時代の流れにいつしか逆らっていたただのロートルだと思い知らされた。寛容であると自負しながら、学ぶ努力を怠り、新しい力を無意識に遠ざけてきた結果が、今なのだと思い知った。

 あの落雷攻撃は兎も角、獣人の少女が見せた能力は立派な力ではなかったか?

 驚きと、悔しさと、まだ強くなれる余地があるという希望、何もかも綯い交ぜにした感情が胸の奥を熱くさせた。

「おい、今スキルを使ったろ?」

 弓使いの男が少女ににじり寄った。

「ふふん、リオナの必殺技なのです。『ソニックショット』と『チャージショット』なのです。銃の弾だけじゃ、ロック鳥は倒せないのです」

「弓のスキルが使えるのか?」

「使えるです。それにもし遠くが見えなくても望遠鏡という魔導具が銃には付けられるのです。エルリンの発明なのです。人族でもあの距離は狙えるのです」

「それよりオプションの『必中』のコアを付けた方が早い」

 猫が口を挟んだ。

 恐れ入った。エルリンが誰かは知らないが、俺たちにとって一つの懸念だった遠距離攻撃の手段をこんな幼い少女に教えられるとは。

 残る問題は索敵だが。

「慣れるしかないのよ。奴らの現われる高度。空気の乱れ。見えなくても分かることはあるわ。奴が頭上に現われたら空気が重くなる。魔力探知が使えるなら、特定できなくても霧の向こうに太陽が出た気がする。降下してくる方角はいつもより多くの獲物を一網打尽にできる方角から。見つからない自信があるからいつも真っ直ぐ突っ込んでくる」

 呆れたもんだ。見えない敵を状況から察しろと言う。

「慣れるということはレベルが上がると言うことなのです。無駄じゃないのです」

 問題は期限が後三日だと言うことだ。

「もっと早くにこうすべきだった」

 アブラーモは言った。

「諦めるのは早いわよ。転移したかは発動したときだけが判断材料じゃないんだから」

「そうなのです。入ったら出てくるのです」

「なるほど、空間から出てくる瞬間を捉えられれば」

「そのためにも予測は重要なんだからね」

 とんだチビ教官だ。だが皆いい歳した親父たちが珍しくやる気になっている。

「さあ、そろそろまた来るぞ。風が出てきた。今度こそ尻尾を捕まえろ!」



『すべての冒険者は以下の事項を確認し、厳しく注意を喚起するものである』

 事務所や迷宮の転移広場にいつ以来か真新しい看板が立てられた。


『某年土前月二十日、新発見に伴う最重要警戒情報発令並びに発布。


 新たな発見を以て、ここに冒険者ギルドマスターは以下のように宣言する。

 以下の魔物に関して、新たに転移能力を有するを特定せり。冒険者、並びに一般市民はこれに対し、警戒を怠らぬよう喚起するものである。

 対象:ガルーダ並びにロック鳥。


 発見に至る経緯。エルーダ迷宮内地下四十五層において土前月――』


 新たな発見は、冒険者たちだけでなく、世界に衝撃を与えた。

 ガルーダに関しては迷宮以外での発見事例はなく、既にこの世に存在しない絶滅種か、未開の地の奥地に棲息する希少種ではないかと噂される程縁遠い存在だったが、ロック鳥は王国内はおろか、世界中で生存が確認されている。

 王国もギルドの発令と同時に注意喚起を促す発表を行ない、各都市に対して町の障壁を最新バージョンにアップするよう求める勅令を出した。


「世界は大騒ぎだな」

 うちのリーダーが看板に群がる冒険者の群れを見ながら満更でもない顔をして言った。検証チームの欄に自分たちのパーティーの名が刻まれていたからだ。

 斯く言う俺も、今までいろんな検証に立ち会ったが、こんなに誇り高い気分になったのは初めてだった。

 発見パーティーである『銀花の紋章団』の名は当然のことながら世に広まることになった。古豪復活。忘れられていた伝説のギルドの復活。エルーダ迷宮では既に何度か新たな発見をして有名な彼らだったが、噂はとうとう村を越え、国境をも越えた。

 冒険者ギルドは『魔獣図鑑』並びに『エルーダ迷宮洞窟マップ』の改訂を予定より早めると宣言した。


「四十五階層は人でいっぱいなのです!」

「まあ、当分は無理じゃないか?」

「ナーナ」

「はいよ。すいませーん、サラダ一つ追加!」

「ホタテ、ホタテ」

「シーフードも」

「肉を取りに行けないのです」

「『サダキチ』には諦めるように事情は説明してあるから。『どうしても欲しけりゃ依頼書を出せ』て言っといたから」

「ところで、タイタンはなんであんなに弱いですか?」

「壺に嵌まったからじゃないか?」

「壺というより落とし穴じゃがな」

「あんなでかい穴を掘る方も掘る方よね」

「足元を緩めただけだろ!」

「お待たせしました」

「肉が来たのです!」

「ちょっとリオナ、他に言い方あるでしょ?」

「肉がいらっしゃった?」

「そっちじゃない!」

「そう言えばロメオ君の杖の色」

「少し薄くなったかな?」

「まだまだ赤いの」

「ところでフロアの情報にない地下通路は報告した方がいいのかな?」

「特に大した敵もいないしね」

「闇蠍だけなのです」

「あんなに大群で何してるのかしらね?」

「ゴーレムフロアに余計だよ」

「でも闇蠍は危ないから報告しておくのです」

「また検証か……」

 おいおい……

 今度は闇蠍かよ……

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