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閑話 ガルーダセンセーション

 土前月八日、資料を見せられた。

 これまではっきりしなかったガルーダの全容が詳細に記されていた。

「転移って…… こりゃ確かかい?」

「既に同パーティーによって三度討伐が行なわれております」

 窓口の奥のテーブルで俺たちの娘ぐらい若い担当者が言った。

「三度?」

 我がパーティーのリーダー、アブラーモが聞き返した。

「理由は存じませんが、三度行なわれております。その内一回は解体屋にてガルーダの亡骸の検分も当職員立ち会いの下行なわれております。正直、検証の必要を感じないのですが、規則で別パーティーによる再検証は必須事項になっておりますので」

「こっちはなんでもいいさ。楽して金が貰えりゃ、こんな有り難い話はねえよ」

 そんな軽い気持ちで引き受けたのだが……


 俺たちのパーティーは結成されて二十数年の中堅どころ、否、古老に片足突っ込んだS級冒険者だ。名を『イルミオソーレ』と言う。太陽が何たらって意味だったが、昔のことでよく覚えちゃいない。

 最近はエルーダ迷宮で何かが起こると、ギルドは一番に俺たちの所に話を持ってくるようになっていた。

 生まれも育ちもこの村で、メンバー全員の自宅もこの村にあって大抵迷宮にいるから見つけ易いのだろう。

 普段は四十階層手前で気楽に狩りを楽しんだり、後進の世話を焼いたりしている。

 当然、五十階層まで潜った経験もあり、四十階層より下のフロアの実入りの悪さも凶悪さも心得ている。

 こんなことでもなきゃ、四十階層以上に潜る気などさらさらないのだが。最近、イフリートやクラーケンから精霊石が出るという噂があって、その状況が変わりつつあった。


 隣りの領地のスプレコーンで国王陛下を招いての精霊石の展示会が冒険者ギルドの名で行なわれた。

 上級者連中は色めきだった。知り合いのなかにはスプレコーンに見に行った奴もいる。

 今じゃ、そいつらは狩り場の取り合いをしてるが、怪我人の話ばかりで、手に入ったという話は一向に聞こえてこない。

 余程効率のいい狩り方をしないといけないらしい。

 斯く言う俺たちもそろそろ参戦しようかと思っていたところだった。

 理屈で言えば、イフリート、クラーケンと来れば次はガルーダであるが、こいつはいろいろ曰くがあり過ぎて、上級と言えども手を出す奴はまずいなかった。

 三度も攻略したというこいつら以外にはだ。

『銀花の紋章団』……

 そう、スプレコーンは奴らの本拠地だ。

 つまり、ガルーダを攻略した連中が、イフリートやクラーケンを狩った可能性が高い。そして風の精霊石も既に……

 問題はなぜ三回もと言うことだが。


「転移か…… まさかな」

「ロック鳥の急襲が転移によるものだというのも驚きだが、まさかガルーダまでもがな」

「確かにロック鳥の急降下は捉えどころがなかった」

「よくもまあ誤った認識で犠牲が出なかったもんだ」

「犠牲は出ていたさ。ただ転移のせいだとは思っていなかっただけだ」

「幻惑される前に速攻で倒すのがセオリーだったからな。方法自体は間違っていなかった」

「どうする? ただでさえ飛行型の魔物は面倒だぞ」

 メンバー連中もさすがに今回は眉間に皺を寄せている。

 突然裏口のドアから職員のマリア嬢が飛び込んで来た。

 そしてこちらのテーブルにツカツカとやって来て言った。

「派遣部隊の数を増やします!」と。

「そりゃ、どういうことだ? 俺たちだけじゃ不足だってことか!」

 アブラーモが牽制する。頭数が増えれば一人頭の報酬が減るからだ。

 彼女は書類をテーブルに叩き付けた。

「報酬は規定通り出すわ。だけど検証期間を一週間とし、投入するパーティーを同時に三部隊とします」

 開いた口が塞がらない。

 三倍の人員を一週間も投入する? どう考えても費用の無駄だ。

「追加の報告書よ。リカルドの許可を取るのに時間がかかってしまって」

 マリア嬢は俺たちの担当にそう言った。

 彼女は傍らの水差しからコップ一杯水を注いで飲み干した。

 俺たちはテーブルの上の追加資料を覗き込んだ。

 そして絶句した。

 以前から複数出るとの噂はあった。だがそれらは検証の結果、ガルーダ単独での幻惑攻撃で処理されていた。

 少なくとも検証時、亡骸は一体しか上がらなかったからである。

 転移による認識の誤解と事実が混在していたということなのか?

 ガルーダを倒さずとも次のフロアに行けるという気安さが、情報収集を怠らせたというのか。

「危なくなったら逃げればいい」

「無理なら相手にしない」

 その程度にしか考えていなかったのだろう。真剣に倒そうなどとは誰も思っていなかったに違いない。

「先制攻撃で倒せれば儲けもの…… 無理なら撤収。俺たちのときもそうだった」

 だが、精霊石が絡んでくるとなると、確かに今のうちにしっかりした検証をやっておく必要があるだろう。

 この報告書を見た限り、下手に執着したら最後、犠牲は必至だ。

 ギルドの連中の焦りもよく分かる。

 それにしても……

「判子がないと予算が出ないものだから――」

「昨日のうちに分かってたって?」

「昨日解体屋にガルーダの亡骸が三体、持ち込まれたのよ。それで報告書の追加を出されてね。まったくあの子たちときたら」

「あの子たち?」

「こっちの話」

 解体屋って…… 精霊石が目的ではないのか?


 兎に角、増援が決まるまで検証はお預けになった。

 三パーティー合同の調査隊か。いつぞやの『闇の信徒』討伐以来だな。どうせ見知ったメンバーになることだろう。

「マリアいるですか?」

 窓口に獣人の子供が現われた。あれは『銀団』の見習いだ。

「あら、ひとり? 弟君は?」

「ナガレも一緒なのです。エルリンは裏で換金してるのです」

 ナガレというのは後ろにいる少女のことか?

「それで、ご用件は?」

「『ご苦労さん会』の招待状なのです。当日は部外者入場禁止なので特別なのです」

「助かるわ。どんな味がするのか楽しみね」

 しばらくすると少女たちは消えた。


「最近見る顔だな」

 アブラーモが言った。

「あの子たちもガルーダを狩ったパーティーの一員ですよ。マリアの話だと、ドラゴンスレイヤーだそうです」

「嘘だろ? まだ子供だぞ?」

「B級見習いだそうです」

「B級? あの歳でか?」

「なんだよ、B級で見習いって?」


 取り敢えず、俺たちは頭数が揃うのを待つことになった。

 出発が決まったのはそれから二日後のことだった。


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