エルーダ迷宮追撃中(ガルーダ戦再び)12
リオナがガルーダの頭目掛けて銃を乱射した。
ふたつの小さな身体が飛び跳ねてくる。
ヘモジがミョルニルを振りかぶり振り下ろす。
僕は結界を張り『無刃剣』を放り込もうと身構えた。
頭がぐしゃりと潰れ、僕の足元に転がった。
後ろではロメオ君たちがあらぬ方向に魔法の集中攻撃を浴びせ掛けていた。
巨大な塊が、ロメオ君たちのいる出入り口の頭上に激突した。
ドオーン。
大穴を穿ってズルズルと落ちていく。壁一面飛沫した血で真っ赤に染まった。
天井の霧のなかから別の塊が落ちてきた。
ズズーン。墜落して砂塵が舞い上がった。
「え?」
僕は周囲を見渡した。
僕が『魔弾』で仕留めたのが一体。リオナとヘモジが頭を吹き飛ばしたのが一体。最後に落ちてきたのが転移してきた首の残りだ。そしてロメオ君たちの頭上に突っ込んだのが……
「嘘だろ?」
ガルーダが三体…… 何が原因かは分からない。敵との遭遇を転移でやり過ごして来たからか? まさかヒドラのように当たりの日と外れの日があるとか?
「肉ゲットなのです!」
「ナーナー!」
「やった」
チビ共ははしゃいでいるが、僕やロメオ君たちは呆然と立ち尽くした。
「エルリン! 心臓!」
リオナが叫ぶ。
そうだった。コアを分離しないと魔石になってしまう。
首なしは頭もないし、転移しているので魔石には期待できないから肉に。ロメオ君たちに突っ込んできた一体も集中砲火を受けたのでこれも肉に。そしてほぼ無傷だった一体も契約で肉だ。
「三体仕留めて精霊石ゼロとはね」
「『ご苦労さん会パート二』の獲物は手に入れたのです」
三体の心臓をくり抜き、解体屋に転送する。
さぞ、解体屋連中も驚くことだろう。マリアさんに報告することも増えた。
「どういうことなのかしらね?」
ロザリアも自問する。
いくら考えたところで答えなど出やしない。そういうものだとしか言えないだろう。ただ、大当たりにあたったと言うことだけは確かだ。
先人の情報もあながち勘違いではなかったらしい。
慣れが隙を生むと言うが、探索を怠ったか?
そんなはずはない。戦闘前に探索はしたんだ。
転移持ちか…… 探索エリア外から…… 本当に厄介だ。
マリアさんは何も言わなかった。さすがに僕たちを嘘つき呼ばわりはしなかったが、その目には猜疑心が溢れていた。
一緒に解体屋に出向くことになった。
解体屋でも、作業員たちが棒立ちしていた。
「おい、若様! どうなってる?」
昨日の宴会ですっかり打ち解けた職員たちに呼び止められた。
「それが、三体出てきちゃって」
「『きちゃって』じゃないだろ? お前らだけで倒したのか? これ全部?」
「危なかったのです。丸呑みされるところだったのです」
全員が転がっている巨大な亡骸を見上げた。
マリアさんも納得するしかなかった。
「検証部隊、増員しないとまずいわね」
そう言った。
「こっちとあっちの肉は昨日と同じで、うちに送って欲しいのです。また宴会するのです。次は明後日なのです」
コソコソと何話してるんだ?
「兄貴、明後日、夜は休みにしませんか?」
「しょうがねえな。立て込んでなきゃ早仕舞いするか」
おい、仕事しろよ。
「なんの話してるの?」
マリアさんが聞いてきたのでリオナやオクタヴィアがガルーダ最大の秘密、御用商人まで出張ってくる肉のうまさを語って聞かせた。
「なんで言わないのよ!」
「だって狩り場が取り合いになると困るし。そこまでの報告義務は――」
「わたしとエルネスト君の仲でしょ! なんで宴会に誘ってくれないのよ! わたしもその日有給とるから!」
まあ、日頃お世話になってますから。好きにしてください。
もう僕は分からない。何をどうすればいいのか、ごちゃごちゃだ。
なるようになれ! である。
御用商人への搬送もうまくいったと、翌日知らせがあった。
普段外部の者が見ることはできないのだが、部位ごとに仕分けされた卸値の表を見せて貰った。大体キロ銀貨二、三十枚と当初言っていたが、恐らく大きさに驚いたのだろう。平均して倍の五十枚ほどに跳ね上がっていた。末端でこの値段だと食べるときは金貨が必要になるだろう。
ドラゴンの肉のような天文学的なプレミアが付かないのは迷宮でいつでも獲れるからだそうだ。
しかしながらこの値段は皮のある表面のある部位の値段なので、ない場所は買取不可になっている。一方買取部位は皮からの肉の厚さの指定までしてあった。
「妥当じゃないか?」
解体屋のみんなも妥当な値段だろうと太鼓判を押してくれた。
「それもついさっきまではな」と黙り込んだ。
三体が同時に出てくる狩り場となると、どれだけの冒険者が報酬に目を眩ませてくれるか、甚だ疑問である。
「三倍ぐらいにはなりそうだな」
需要に供給が追い付かなくなるのは目に見えている。幾つものパーティーが手を組んで攻略することになるかも知れない。
僕たちも易々と行けなくなってしまった。事前予測ができないとなると甚だ問題だ。ヒドラは少なくとも戦う前に首の数は数えられたからな。
飛び入り参加された挙げ句、転移を繰り返されたらどんなパーティーだって嫌になるだろう。
ギルドの正式な検証作業が始まるので、僕たちがガルーダを狩るのもしばらくお預けになる。祭り用の肉が手に入ったのは幸いであった。
御用商人からもう一つ朗報がある。それは買取不可扱いの捨てるしかない肉の調理法である。
肉に対して一割の水、一分の塩と砂糖で揉み込んで一時間放置。それを唐揚げにすればあら不思議。ジューシーな唐揚げの完成らしい。
砂糖と塩代と手間を考えたら普通に売ってる鶏肉を買って来た方が利口だが、一応の解決策を提示してくる辺り、さすが肉のプロと言ったところだ。
リオナは帰ったら早速試す気でいるようだが、そうだな、たまには唐揚げもいいかもしれない。廃油の処理が面倒だけれど。




