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エルーダ迷宮追撃中(ご苦労さん会のその後で)10

「おーい、肉まだかー?」

 ガルーダの肉の在庫が切れそうになったときだ。

「なんでお前ら帰ってこねぇえんだよ!」

 ふたりの兄貴分が追加の肉を持ってやって来た。

「す、すいません。余りに美味しかったもんで、ついご相伴に与りまして」

「まあ、まあ、まあ、まあ、まあ、お兄さんも一休みしていったらどうだい?」

「いえ、そうは参りません! こいつらを連れて帰りませんと。まだ仕事が残っておりますので」

「そうかい? 真面目だね。真面目すぎると人生損するよ。でもまあ無理を言っちゃいけないね。じゃあ、これだけでも摘まんでおいきなさいよ」

 兄貴分は真面目すぎると言われたものだから、そんなことはないと融通を利かせて出された肉を言われるままに口に運んだ。

「う、うま! うま? え? 何これ?」

「あんたが今運んできた肉だよ。やだねー。うま過ぎて記憶が飛んじまったのかい? それとも酒の臭いに酔っちまったのかい?」

「まあ、あれだな。迎え酒が必要だな。酔ってねえのに酔ったってことは何かがおかしいんだ。そういうときは、ほら、ぐいっといきねえ。酒で酔ったら正常だ」

 酔っぱらいの正論は中身がないのに妙に説得力がある。

 このままじゃエルーダの解体屋で羽根むきしてくれる従業員がいなくなるんじゃないかと心配になる。


 そうこうしているうちにようやく肉が来賓全員に行き渡った。

 いよいよ残るは給仕を頑張った子供たちの番である。

「お待たせしました」

 最初の使用人たちが帰ってからというもの、解体屋連中が肉を運んでくるサイクルがどんどん短くなってきて、向こうも一回りしたのかなと思っていたら「こちらもこれで打ち止めでございます」と声が掛かった。

 肉が打ち止めになったのか? 従業員が一巡したのか? 一瞬考えあぐねた。

 早速、子供たちのために肉が焼かれた。

 子供たちは「危なかったねー」と肩をすぼませて笑った。内心食べられないんじゃないかと不安だったようだ。

 宴も終わりに差し掛かり、お開きの挨拶が隊長補佐からなされていた。

 突然、ボンという音がして、中央広場の方が光った。

 全員の視線が集中した。

 盗賊ホイホイが作動したようだった。

 笑いが巻き起こった。

 今夜当直に回された気の毒な同僚に「がんばれよー」と声が掛けられた。

 まあ、彼らのために『ご苦労さん会パート二』も開く予定だが。

「うま、うまっ」

「働いた後だとすっげーうめーな」

「ジュースもうめー」

「これどこのジュース?」

「わたし知ってる。売店で売ってるよ。値段高いけどすぐ売り切れちゃうんだよ」

「ヘモジの作ったジュースだよ」

「ヘモジかー」

「じゃあ、うまくて当然だな」

 販売ルートに乗らないヘモジの自家製だから心して飲むがいい。

「今回も大成功だったのです」

 リオナもテーブルに着いた。

 ピノたちも他の肉をどっさり盛りつけた皿を別にテーブルに並べた。

「いやー、今日は楽しかった。あと一回すまんが、よろしく頼むぞ」

 普段余り酔わないサリーさんも顔を赤らめていた。珍しいこともあるもんだ。ルチア嬢に支えられて会場を後にした。

 それにしてもガルーダ一体食い切ったか。

 食えないところが大量に残ったが、肥料にでもして貰うか。

 帰宅して、寝る前にミルクでも飲んで上の階に上がろうとしたところに、ノッカーを叩く音が聞こえた。

「夜分、申し訳ございません!」

 来客だった。

「わたくし、王都で御用商人を務めさせていただいております『肉屋サダキチ』の店主でサダタロウと申します。肉屋を生業にしております」

 まあ、肉屋が野菜売ってたらどうかなって思うよな。

「実はお願いがあって参りました。本日、王宮にて私共が知らない貴重な肉がテーブルに並んだのでございます。聞けばガルーダの肉と言うではありませんか。しかも皮だけを食すという、珍しい食べ方を致します。にも関わらず、これがまた舌にトロけるうまさでございまして。なるほど陛下直々にご用意なされただけのことはあるなと誠に感服いたしました。しかしながら私共も御用商人の看板を背負う身。知らぬままでは通りません。つきましてはガルーダの肉、キロ銀貨二十枚でお譲り願えませんでしょうか? あるだけで結構でございます。何とぞ、何とぞー」

 ええー?

 なんで今来るかなぁ。全部食べちゃったよ、ついさっき。子供たちのお腹のなかにまだ消化されずに残ってるって。

 町中が一瞬でシーンとなった。

 遠くの酒場の喧噪までパタリとやんで、森の虫や獣たちまで鳴くのをやめた。

 この町に来て以来、こんなに静かな夜はない。さっきまで馬鹿騒ぎしてたんだから。

 キロ銀貨二十枚で驚いたのか?

 それともこの商人のどうしようもないタイミングの悪さに呆然としたのか?

「ええと…… ですね。もう在庫は残ってないんですよ。食べ切っちゃったというか、なんというか……」

「なんと! 我々より早く買い付けに来た者がおると申されますか?」

 いや、そう言うわけじゃなくてですね。

「でしたら、キロ三十枚でぜひ、こちらにお譲り願えないでしょうか?」

 キロというのはまずい部分も入れちゃっての…… ですかね? いや、やっぱりそれは駄目ですよね。食える部分だけの値段を言ってるんですよ…… ね?

 キロ三十か…… 高いんだか、安いんだか。手間賃入れたらどうなんだろう?

 解体だけ勝手にやってくれないかなと考えを巡らしていたら、「ならば丸々ガルーダ一体でどうじゃ?」とアイシャさんが口を挟んだ。 

「見ての通り当家は肉屋ではない。正直解体まで面倒見きれんのじゃ。今回は筆頭殿の手前無理をしたが、それもエルーダの解体屋で解体させたものじゃ。そちら様は肉屋と申された。ならば自前で解体できるであろう? その方が費用も手間も掛からんし、我らも助かるががどうじゃ?」

「当方ガルーダなるものを見たことがございません。いかほどの値を付ければよいのか見当も付きません。肉の質だけ見れば、大概の値段は付けられますが、そのものの値段というのは」

「だから実物を見てから値を決めればよい」

「ですが、それでは?」

「構わぬ。御用商人の看板を背負っている以上、そなたにも誇りがあろう。そなたの言い値がガルーダ一体の値段じゃ。どうじゃ?」

 誇りだ、言い値だと言われたら、店主も意気に感じずにはいられない。

「分かりました。値段は解体した上で当方で責任を持って付けさせていただきます!」

 町中がほーっと息を吐いた。


 そんなわけで取り敢えずやってみましょうということになった。

 一度試して、輸送や解体などの段取りやコストのチェックをして、問題なければその後のことは依頼書を出すなり何なりとして貰うことにした。

 こちらもガルーダばかり狩ってはいられないし。

 今夜のところは退散願って、詳しい話はまた日を改めてということにした。


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