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エルーダ迷宮追撃中(ウィズ・アシャン)8

「精霊石になるですか?」

 リオナが小声で聞いてきた。

「うーん。欠損なしでいけないかな」

「試してみるしかなかろう」

 アイシャさんが言った。

「事前に分かる方法ないかな」

 ロメオ君が言った。

「経験を積むしかないの」

 爺ちゃんが笑って答えた。

 ロメオ君は恐縮した。

「なるべく損傷なしで仕留めてやろう。わしも人生で一度くらいは精霊石を狩ってみたいからの」


 空を警戒しないで済むというだけで道中、随分と気が楽だった。

 リオナ以外は皆萎縮してしまっていたが、元々気さくな爺ちゃんの気性を知るにつれ、笑いも増えて打ち解けるようになっていった。心なしか爺ちゃんも若返って見える。

 爺ちゃんはロック鳥に転移をさせては『牢獄』に放り込んでいった。そして絞めた後、地面に転がして魔石に変えていった。

「凄いね」

「凄い」

「ナーナ」

 ロメオ君とチビふたりが始めから終わりまで感心しきりだった。

 僕も内心、さすが本家は違うなと羨ましく思いながら見ていた。そして、やはり『牢獄』というユニークスキルは消えてしまうのだと実感した。姉さんや僕のものはやはり亜流に過ぎないのだと思い知った。

 リオナは単純に喜んでいた。宮殿暮らしの折は数少ない味方でもあったから、本当の祖父に会ったかのように「爺ちゃん、爺ちゃん」と嬉しそうに飛び跳ねた。


 便利だからと言って爺ちゃんを引っ張り回すわけにはいかないので、洞窟内は最短距離を行くことにした。予定では調査していない一階部分の探索をするはずだったのだが、今日のところはお預けだ。

 ポイントの手前でガルーダ討伐の打ち合わせをした。

 打ち合わせと言っても攻撃は爺ちゃんに任せる手筈なので、話は専ら如何に転移させるかということに尽きた。

 攻撃を当てるにも欠損のないように痛み優先、派手さを前面に押し出していくことになった。

 腕を切り落とすより、つねる算段をしたわけだ。

 転移さえしてくれたら後は爺ちゃんが『牢獄』送りにするだけである。

 部位欠損はゼロ。目的は明白だ。

 これで精霊石にならないとなれば、今後精霊石を取得する条件として、「転移させてはいけない」という前提が付くことになる。

 片腕一本と頭一つ分がどのくらい作用するのか。結構面白い実験になりそうである。


 先制は僕とリオナだ。

 全員で仕掛けても倒すわけではないので、参加者を限ることにした。

 人選はじらすことができる相手ということで僕とリオナが選ばれた。

 僕は結界を使って、リオナはその俊敏さで敵を苛つかせるというわけだ。

 僕たちは隠遁から攻撃をし掛けた。

 驚いて転移してくれれば儲けもの!

 リオナは『雷撃』の鏃を投げる。僕は雷を落とす。奴の頭のすぐそばで派手に炸裂させるのだ!

 鼓膜が破れる程大きな音が轟いた。

 先制は意外な程楽に決まった。普段の狩りでもこいつを狩るときは隠遁から仕掛けるといいかもしれない。僕たちのレベルの隠遁には反応できないようだった。

 ガルーダは叫びながら回避行動に移った。

 僕とリオナはうるさい電撃をひたすら耳元にぶち込んでやった。

 ガルーダは半狂乱になって反撃してくるが、結界で軽くいなしてやった。そしてその影からリオナがバーンとまた炸裂させるのである。

 たまに当ててやらないと不審がられるのでたまに当ててやると痛いらしく、大きくのけ反って壁に激突した。

 そっちの方が痛いだろ?

 ようやく逃げを打った。

 上空に舞い上がり霧のなかに消えた。

「来るのです!」

 後方、魔力増大!

「来た!」

 僕とリオナは振り返った。

「…… あれ?」

 来なかった。

「よくやってくれた」

 爺ちゃんが手を叩いた。

「もう食べちゃったですか?」

「食べちゃおらんよ。ほれ」

 息の根を止められたガルーダが地面にぐったり転がった。

「どうやら面白い報告ができそうじゃ」

 そう言ってひとり笑った。

 ロメオ君たちは無言だった。

 爺ちゃんがひとりいるだけで、戦力が何倍にもなった気がした。


 そして待ちに待った時は来た!

「変わるわよ!」

 ナガレが合図した。

 僕たちはガルーダの周りに集まった。

「さあ、どっちだ?」

 精霊石か特大か?

 緑色の輝きが見えた。若木の緑。心地よい風を思わせる黄緑色。

「や…… た」

 ロメオ君が声をかろうじて発した。

 ヘモジはつかつかと精霊石の下に行き、どうすればいいのかと、こちらを見返した。

「ナ?」

 首を捻った。

「やったーッ!」

 皆、飛び上がって喜んだ。

 特に肩の上の猫が一匹。

 こ、こら、暴れるな! 暴れるなら下りろ!

「やった! やった!」

「ナーナ」

 ヘモジが何か言った。

「あ、肉」

 オクタヴィアが止まった。

「今回は調査と精霊石が目的だって言ったろ? 肉は次回だ」

 別のところでひとりが膝を落とした。

「すっかり忘れてたです」

「そうじゃ。肉余っとらんか?」

 爺ちゃんが思い出したように聞いてきた。

「そりゃ、前回のがまだ残ってるけど」

「譲ってくれると助かる」

 どうやら王様のご機嫌を取る必要が出てきたらしい。

 爺ちゃんが精霊石狩りを成功させたと聞けば、自分もやってみたくなるのがこの国の王様だ。「次の狩りには俺を参加させろ」と言い出しかねない。

 そこで興味の矛先を変えて貰うためにガルーダの肉で釣るわけだ。

「それと、しばらくこの精霊石を借りられんかの?」

 王家の威信のために利用することを急に思い付いたらしい。


 予定より早く済んだので、まだ客も疎らな食堂で一服することにした。

 そこで爺ちゃんはさっきの話の続きを始めた。

「実はな、精霊石の展示という画期的なイベントを王都より先にスプレコーンで開いたことを問題視する動きがあってな――」

 思わずまたかという顔をしてしまった。

「これ、そんな顔するでない」とたしなめられたが、その顔は笑っていた。

 どうやらそれ程深刻な話ではなさそうだ。


 そもそもダンディー親父はそんな了見の狭い人物ではない。懐のひろーい人物だ。特に女性に対しては。

 だが、おもねることに必死な一部の新参者は取り入るのに躍起で、自分はさも王様の味方でございますと言いたくて仕方がないのである。

 むしろ「貴様の敵だ!」と名乗った方があの親父には好感が持たれそうな気がする。

 兎に角、逆効果だ。

「北の貴族の衰退の悪影響が予想外の方向から出たようじゃな」

 アイシャさんも鼻で笑った。

 新興貴族のなかには王の性格も王宮内のパワーバランスも未だ理解していない者がいるようだ。それはひとえに政を司る者として才能がないと言っているようなものである。

 その証拠に、事前に宰相殿が展示会に関わっていたことを持ち出して「宰相殿は国王を(ないがし)ろにして、遷都でも考えているのではないか」と陰でこそこそ論陣を張る気だったらしい。

 どんな恨みがあるかは知らないが、爺ちゃんで予行演習したのが運の尽きだった。

「『王が往訪するために打ち合わせに行っておったのだから、王が知らぬはずがあるまい? 師団長だって知っておったぞ』と、そう言ってやったわ」

 爺ちゃんは老獪に笑った。

 どうやったらあの親父を蔑ろにできるのか、ぜひ僕も聞きたいものである。そんな素振りを見せようものなら蹴りが飛んでくるぞ。

 その内地方に飛ばされるだろうと爺ちゃんも冷ややかだ。

 が「なぜ黙らせない」と古参が痺れを切らすのも厄介だ。

「自分では何もせん癖に鬱陶しい連中ばかりじゃ」と爺ちゃんも呆れ顔だ。

 そんな連中を少しでも黙らせるために魔法の塔、ひいては王家が風の精霊石を担ぎ出そうというのである。

「そのときのレセプションにガルーダの肉でも出せれば、連中のひがみも消えるじゃろう」とのことだ。

 要はその気になればいつでも王家は精霊石を集められるぞ、という意思表示をするわけだ。


 勿論断る理由もないので全員一致で了解した。

 その分今日の上がりは全部こちらで頂けることになった。

 爺ちゃんは「早く知らせてやらんと宰相の白髪が増えてしまうからの」と、言ってエルーダの転移ゲートから昼食も取らずに消えた。

 自分がいては昼食が喉を通らなかろうと気を使ってくれたのだ。食事が喉も通らないのは僕たちではなく、その周りにいるお客たちのことであるが。


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