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エルーダ迷宮追撃中7

 マリアさんは提出された書類に釘付けになって動かない。

 うーん。何か言ってくれないと気まずい。

 僕たちの後ろには、忍耐強くは見えないが腕っ節だけはやたらと強そうな、マリアさん目的のむさい冒険者たちが順番待ちをしてるのだ。

 せめて別のテーブルに僕たちを誘導してくれないか?

 かと言って話すことは余りないのだが。先日話したことのおまけみたいなものだし。

「あの……」

 ロメオ君が声を掛ける。

「このスケッチは本物?」

 やっとマリアさんが動いた。

「倒した後にスケッチした物だから、うまいかは兎も角間違いないです。あ、でも吹き飛ばした頭は記憶を頼りに描いたんで…… でもみんなの同意は取りました。似てるって」

「助かるわ。ガルーダに関してはみな言葉ばかりで具体性がなくて。斯く言うわたしも昔狩った口なんだけど、よく覚えてないのよね。冒険者に絵の才能を求めるのもおかしいんだけど、よく描けてる」

 ロメオ君は赤くなった。

「ガルーダ戦は短期決戦が必須事項だから、どうしても総力戦になってしまってね。だから大抵、跡形もなく吹き飛ばしてしまって、誰の記憶にも詳細が残らないのよ」

「なんで短期決戦?」

「知らなかった」

「聞きに来なかったでしょ? 分からないことがあったら普通真っ先に来るものよ。もしかしたら依頼書の案内だってあるかも知れないのに」

 普通の冒険者は『魔獣図鑑』とか持ってないからね。

「ガルーダはずっと精神攻撃をしてくると思われていたのよ。突然別の場所から現われただの、知らない間に仲間が食われただの、二体現われただの、荒唐無稽な証言ばかり。あんな巨体を見失うこと自体普通じゃないでしょ? それにあの霧、怪しいったらないわ。だから精神操作系だと誰もが思い込んでいたの。そのせいで『仕掛けられる前に討て!』というのがガルーダ戦の唯一の戦術になっていたのよ」

 僕たちの視線が『転移』の文字に貼り付いた。

 そりゃ、突然別の場所から出現されたらパニックにもなるよな。ロック鳥が転移することに気付かなければ、リオナの発想もなかったわけだし。僕たちも敵が二体いるような錯覚に襲われていたかもしれない。

 マリアさんが判子をポンと押した。

 僕たちの用は済んだ。

 いつも通り報酬は検証後ということで、僕たちは席を立った。

 リオナたちが魔石(大)以下の石を売り払って戻ってきた。手には包装されたブロック肉が大事そうに抱えられていた。

 今回、ガルーダの肉は『楽園』ではなく、解体屋送りにした。

 正直我が家の保管庫には様々な肉の在庫が肉屋以上に溜まっている。兎や牛の肉に始まり、各種ドラゴン、イフリート、クラーケン。さすがにもう保管スペースがないのである。町から借りている保管庫も先日の領主自らのイフリート狩りでほぼ満杯。秋にかけて収穫物の貯蔵のためにも倉庫に空きを作っておかなければならないのである。

 そんなわけでうまいかどうか分からない肉に割くスペースはないのである。ヘモジが畑を作るとなると尚更だ。

 近いうちに地下の空き倉庫を一つ改造して、畑の収穫物用の保管庫にしないといけない。


「売れたのか?」

 僕は肉がどうなったのか尋ねた。

「量もあれくらいなら、物珍しさだけで売り切れるだろうって」

 ロザリアが言った。

「高く買い取って貰えたのです」

「鳥肉にしてはな」とアイシャさんが付け加えた。

 例えガルーダと言えど、味が悪けりゃ誰も食わない。

 今日のところはポイント稼ぎだ。依頼書はそもそもないので売値での評価でしかないが。

 うまかったら依頼書もその内出てくるだろう。イフリートやクラーケンに比べると採りに行き易くはあるので、美味しいことを祈ろう。


 家に帰ると早速アンジェラさんに笑われた。

 案の定、ガルーダの肉を持ち帰ってきたからだが、リオナが不自然に遠慮したのが笑いの壺に嵌まったようだ。

 夕飯とは別に焼き肉の準備がなされた。

 タレを幾つか用意して、万が一のために万能薬も置かれた。

 焼ける様子を見る限り何の変哲もないただの肉のようだった。


 全員が一口頬張った。ロメオ君も帰らず参加している。

「……微妙だ」

 そのロメオ君が呟いた。

「ほんとに微妙だ」

 僕も追従する。

 鶏のささみの様な口当たりで味も淡泊。料理方法で化けたりする要素はないように思えた。

「出されりゃ食べるけど、求めてまで食べるものじゃないわね」

 アンジェラさんもそう言った。

 売却して正解だったか。

 程よく焦がしてみたが、脂も少なめで口当たりが悪くなるばかりだ。

 普通に鳥食ってる方が安いしうまい。

 こりゃ、はずれだと思い始めたとき、別の感想が返ってきた。

「おいしいのです」

 リオナとヘモジ、どちらが先に始めたのか分からないが、分厚い皮だけを焼いて食べていたのである。

「これは絶品なのです!」

「ナーナ!」

 皮の厚さだけでも、普通のステーキ肉程の厚みがあった。

 確かに焦げ目の付いた琥珀色のそれを口に頬張ると、ジューシーな肉の甘さが口のなかに広がった。

 身の方は別の何かに利用するとして、皮だけを食べる変わった料理の誕生である。


 数日後、宮中晩餐会でなんの肉か当てさせる催しがあって、ダンディー親父は食通たちを唸らせ大いに楽しんだらしい。

 それが切っ掛けでガルーダの肉は高級食材の仲間入りを果たすことになるのだが、そんなことになろうとは思ってもいない我が家では、いつものように村中に振る舞って消費してしまったのである。

 みな胸焼けする程食べてもう一生いらないとゴロンと床に転がったときに「高級食材を売ってくれ」と都から商人が買い付けに来たのである。

 まさか全部タダで村中に振る舞ったとは言えないので僕たちは全員口を噤んだ。

 翌日大急ぎで狩りに出かけることになるのだが、それは精霊石を回収することに成功してから数日後の話である。


 マリアさんに報告した日から二日後。再攻略を決めていた日、朝から来客があった。

「爺ちゃん?」

 アシャン老であった。

「すまんな。勅命でな。お前たちが報告した件の検証に来た。立ち会わせて貰うぞ」

「爺ちゃんが?」

「言っておくが付き合うのは転移できる魔物に関してだけじゃ、地図情報やらの検証はギルドの用意する検証部隊が行なうからの。わしがやるのはあくまで魔物が本当に転移するのか確認することだけじゃ」

「何も爺ちゃんがわざわざ来なくても」

「ゲート以外の転移研究は意外な程進んでおらんでな。専門家と呼べるのは魔法の塔のなかでもわしとレジーナぐらいしかおらんのじゃ。あとひとりは内緒じゃしの」

 アンドレア兄さんのことだ。

「報告書に書いた通りだし、別に爺ちゃんが来る程のことじゃ――」

「それがそうでもないんじゃよ。転移する魔物の存在が本当なら、いろいろ厄介な事態になるんじゃ。例えば城の障壁に転移障害を含めねばならんとかの」

「それはもうとっくに――」

「王都やこの町はな。じゃが他の古い町の障壁はどうじゃ? 障壁に含まれるのはあくまで人の侵入を防ぐための結界じゃ」

「つまり保全対策のために突き上げがあると?」

「想定外の国庫の支出が懸念される」

「だから勅命なんだ」

「そういうことじゃ。ギルドの発表前にことの真偽をわしの目で確かめてこいということになったわけじゃ」

「爺ちゃんが一緒なら安心なのです」

 ロック鳥とガルーダの相手は爺ちゃんがしてくれることになった。

 今日の課題が精霊石の取得なのでガルーダの転移は一度限りとして貰った。


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