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エルーダ迷宮追撃中5

 灯台のある丘の上まで登り切ればガルーダが待っていると思った。

 でもそこにはガルーダはおろかワイバーンの姿もない。

「遅すぎて、夕飯の餌でも探しに行ったかな?」

 探知スキルを全開で展開しても引っ掛かる敵はいなかった。

「分岐なんてなかったよね?」

 ロメオ君が言った。

「あったのです! 一箇所だけ」

「あの横穴?」

 みんな振り返った。

 既に霞んで見えない中間地点にある谷間を見下ろした。

「またあそこ行くですか?」

「行っていなかったらショックでかいよ」

「どう見てもメインルートに見えなかったわよね?」

「情報の大切さが身に染みるわね」

「ナーナ」

 皆思い思いのことを言った。

「日を改めた方がよかろう? 横穴がどこまで続いておるか分からぬし。今更戻る気にもならん」

 皆アイシャさんの意見に賛同した。

 今日の戦いはいつになくハードだったからな。気分はもう終了モードだ。

 集中力が途切れた。

 安全のためにも日を改めた方がいいだろう。

 下りる階段を探してしばし建物の周囲を彷徨った。

「取り敢えず僕たちが手に入れた情報だけでも開示しようか?」

「ロック鳥の魔石(特大)のことは?」

「転移のこともあるのです」

「……」

 答えに困った。

「どうする?」

 ロメオ君に詰め寄られた。

「わたしたちがここにいるのも先達たちのおかげと考えれば開示するのはやぶさかではないけれど」

 ロザリアが言葉を濁した。

「ロック鳥を狩る者が増えると――」

「死人が増えそうじゃな」

 ナガレの言葉をアイシャさんが引き取る。

「転移は教える。じゃないと死ぬ」

 オクタヴィアがリュックから出てきて言った。

「そうだな。魔石のことは後人に判断を任せよう。長所と短所を天秤に掛けて悩んで貰うとしよう」

「じゃ、マップ情報と転移情報を開示するということで」

「いくらぐらい貰えると思う?」

 ナガレが興味を示した。

「さあ、四十五階層だしね。四十五枚ぐらいかな?」

「風の精霊石も欲しかったのです」

「マップ情報開示したら誰か横穴探索してくれるんじゃないの?」

 ナガレが言った。

「でもその情報、開示してくれるとは限らないよ」

 ロメオ君に突っ込まれた。

「またあそこまで行く?」

「ナーナ」

 ロック鳥だ。すべてはロック鳥のせいだ。

 あいつらがいなければどれ程気が楽か。

「次来るときは鏃持ってくる! 転移される前に片付けるです!」

 確かにあれなら必中が付いている。でも欠損だって相当なものになるはずだ。

 凍らせるか…… 麻痺させるか。

 魔石狙いなら爆破系は使えない。新調するか。

「ナーナ」

 ヘモジが嬉しそうにスリングを出した。

 僕は笑った。

「用意しよう」

 僕たちは灯台小屋に入った。すると見慣れた下り階段があった。

 もしかしてと思ったが別の階段や洞窟への入口はなかった。ただの小屋だった。


 日暮れ時、雨がちらついていた。地面が濡れていて雨がそれなりに降っていたことが分かる。

 みんなでギルドハウスに行く。

 いつものマリアさんはいなかった。

 情報提供用の用紙を求めたら「少々お待ちください。マリアさんを呼んできますから」と言われて窓口嬢が奥に引っ込んでしまった。

 やることは分かっていたので、テーブルを借りてロメオ君は地図を写し始めた。

 僕も隣に座って必要事項を記入し始めた。

 リオナたちは二階のB級用の掲示板を見に行った。

 マリアさんは裏手で夕食を取っていたようだった。

 いつもサボっている僕たちが提出した書類にマリアさんは目を丸くした。おまけにロック鳥の情報に言葉を失った。

「転移? これ本当なの?」

「間違いありません。検証も…… したようなものだし」


 支払いはいつも通り検証後ということで僕たちは席を立った。

 二階にいたリオナたちもタイミングを見計らって下りてきた。

「めぼしい依頼あった?」

「イフリートの角の依頼があったです」

「いくら?」

 需要あるんだな。展示会見て欲しくなったとか?

「一個、金貨二十枚」

「ふたつで四十枚か…… 物のついでなら悪くないな。やる気ないけど」

「他には?」

「迷宮案内の仕事があったです」

「そりゃまた面白そうな」

「四十階層以上、一フロア当たり金貨十枚。護衛なら三十枚ですって」

 ロザリアが言った。

「一昨日来やがれ」

「分け前は等分配なのです。悪くないのです」

「レイスの相手をそんな値段でできるかよ!」

「もっと強くなって鼻であしらえるようになった者がやる依頼じゃな」

「でも実際、レイスのフロアは普通にクリアしてたら実入りないわよね?」

 ナガレの言う通りだ。

「通過するだけが目的でしょう? ソロで攻略してる方もいるでしょうし」

「それなら『同行希望、報酬は放棄します』とかの方がいいんじゃないかな? 邪魔さえしなければ奇特なパーティーなら連れて行ってくれるかも知れないよ。うちはやらないけど」

「なんで?」

「実力が足りないのに先に行ってどうするって話だろ? レイスを捌けない奴がイフリートのフロアに行ったって攻略できるか?」

「厳しさこそが優しさというわけね」

「上級者というのは魔物を倒す以外にも余計な仕事があるということじゃな」

 今日はどこにも寄らずに帰ることにした。

 

 後日、転移する魔物の情報は驚きを持って迎え入れられた。

 検証部隊はマップの検証より、ロック鳥の討伐に重点が置かれたようだ。

 検証結果はエルーダの迷宮だけではなく、国中の、否、世界中の冒険者の耳に入るビッグニュースとなった。

 当然、検証部隊には魔石(特大)が獲れることもばれた。だが、ギルドからその発表が成されることはなかった。


 風呂に入り、温かい食事を済ませる。

 地下に籠もると材料の準備を済ませて投擲用の新型鏃の生産を始めた。基本術式はそのままに火の魔石を水や風の魔石に換え、『爆炎』の代わりに『氷結』や『雷撃』に入れ換えた。

『細工』の修行ということでチマチマやっていたが疲れた。

 二つ彫ったところで心が折れて、残りを魔法で処理した。

 命中精度と飛距離に重点を置いた石が完成した。それを鏃にはめ込んで、外れないようにさらに手を加える。

 今日歩いた限りではロック鳥は十体もいなかった。十個あれば充分だろう。

 一番の狙いはガルーダだが、容姿以外情報がまるでないのが問題だ。



 翌日、僕とリオナは宝箱を開けにワイバーンのフロアを訪れた。

 さすがに四十五階層のを見た後では二十八階層のワイバーンは小振りに見えた。

 僕とリオナは隠密行動で戦闘を回避しながら宝箱に向かった。

「余所見してるのです」

 巣のなかの宝箱を開ける。

「お、当たりだ」

 金製品のお宝セットだ。回収袋に入れて転送する。

 転移してショートカットしながら二つ目の宝箱を開けに行く。

 こちらははずれだった。

 玉石混淆。いらない物をよけながら回収袋に収める。送る程の量はなかったのでリュックに収めた。

 クヌムの村で換金用に魔石を両替して、メルセゲルで高級布を買い漁る。

 時間が余ったので結局ゴーレム狩りに。

 昼まで時間つぶしをすることにした。

 リオナの剣が冴えた。

 急所をこちらが指定しなくても解体用のトレントの短剣でコアを的確に破壊していった。

「あれは駄目なのです」

「はいよ」

 コアの位置が深いものはスルーして別の獲物に向かう。

 肩透かしを食らったゴーレムの相手は僕がする。

 あっという間に半分を殲滅した。

 飛ばし過ぎたか。

 一息入れるついでにスタート地点に戻り、アイテムの回収を行なう。

「うーん」

 宝箱を開けるより金の量が多い…… やはりここで狩りをする方が…… 否、捌けない物を溜め込むより、捌ける物を。

 後半戦はやめて、外に出た。

 混む前に席を確保して、日替わりを頼んだ。リオナはいつも通り焼き肉定食大盛りだ。


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