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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第三章 ユニコーン・シティー
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ユニコーン・シティー13

 長老との面談の翌日、ヴァレンティーナ様がユニコーンとの会談から帰ってきた。

 招集を受けて現在、館にてヴァレンティーナ様と差しで昼食中である。

 リオナは長老のところに出かけている。村作りを手伝うらしい。

 

「なかなか面白かったぞ」

 朝食を抜いたらしく、ヴァレンティーナ様は食べることに忙しそうだった。

「なんの用だったんですか?」

「一つは闇蠍の件だ。操っているのが人間だとして、殺めても咎めないという申し送りと、転移結晶の原石の処分だ。だいぶ在庫が溜まっているらしくてな、あちらも困っているらしい。何か必要なものと交換してやろうと思っている。その依頼が一つと…… その首謀者の仕業かどうかわからないが、この森の魔物の動きがおかしいから注意しろというのが一つだ。あとユニコーンの懐妊ラッシュでな。お前と『草風』だったか? それの母親の一件があちらでも話題になっていてな」

 僕はヴァレンティーナ様が肉を咀嚼するのを待った。

「お前の作ったあの建物をユニコーンの里にも作ることになった」

「洞窟とかに住んでるんじゃないんですか?」

 雨をしのぐために囲っただけの半球状の何が壺に入ったのだろう?

「よほど快適だったらしいぞ。あの後同じ場所で三回出産があったらしい」

「そりゃすごいですね」

 そういえばあのときの請求書はどこへ回ったんだ? 経費で落ちたのかな?

「早速、レジーナをやったわ。サリーは現場を見てるから、ふたりでうまくやるでしょ」

 姉さんこき使われてんなぁ。

 まあ、ユニコーンの村なんて一生掛けても見られるもんじゃないし、文句はないだろ。

「でだ」

「ん?」

「これが一番の問題なんだが…… 町で幼い子供たちを一時的に預かることになった」

「へ?」

「今回だけの緊急処置だ」

「ユニコーンの里の方が安全では?」

「人間相手だと里も安全ではないらしい。魔除けの呪文が効果をなさんからな。獣人ががんばってくれているが、今回はそれもどうなるかわからんそうだ」

「何が起こるんでしょうか?」

「この森の魔物が極端に少ないことにも関係しているらしい。ユニコーンだけのせいではないようだぞ」

「差し詰め闇蠍は斥候?」

「それもわからんが、部隊の増員を決めたよ」

 ユニコーンが子供を人に預けてまで警戒するほどだからな。

「きょう、東門を開ける。時間はかかるまいが、森の警備を密にしろと長老に伝えなさい。それからユニコーンは森に入れるから面倒は獣人に任せると。レジーナが帰り次第、シェルターを作るからそのようにね。とりあえず、後一時ほどで東門を開けるから準備なさい」

 僕は席を立った。

 帰ると早々にリオナの居る場所を目指した。どうやら深い森のなかにいるらしい。

 そこで僕が伝言を伝えると、長老たちは慌てふためき、蜘蛛の子を散らす様に仲間の元に走って行った。

 そしてわずかな時間で腕利きたちによる自警団が組織された。全員が東門に向かった。

 僕は新型弾とライフル片手にヴァレンティーナ様の下に向かった。

 今日中にこの弾の試射を済ませて、早々に実戦投入できる様にしないといけない。リオナに持たせたいのだが小型化まで行けるかどうか。量産化が先だが。ただの鉛玉じゃない分面倒だ。

 暴発はしてくれるなよ。一応銃に結界は張るがどうなることやら。

 とりあえずはユニコーンの入場を済ませてからだ。つられて闇蠍が出てくれば儲けものだ。


 程なくして、ギギギギッと音を立てて城門が開いていく。

 東側はこうなっていたのか。

 吊り橋の先で、麓へ向かう坂道と山間部を抜けるための上り坂が合流している。

 雪を頂くルブラン山脈へ至る山道の途中、蛇行しながら上がっていく坂道の折り返し地点である。

 橋を架けられた道の片側は断崖になっていた。

 堀の水が柳の枝のような、垂れる稲穂のようなカーブを描いて崖下に落下していく。

 轟音と霧が周囲に満ちていた。

 意外な景色であった。

 吊り橋の向こうにはすでに親に先導されたユニコーンの子供たちの群れがいた。

 どう見てもただの馬だが。色は皆見事に白かった。

 なぜか『草風』の区別だけは付いた。妹ちゃんはまだどれかわからない。

 リオナが先頭になって出迎えた。

 獣人たちが恭しく頭を垂れて道を空けた。

「『こないだのと同じやつが付けてくる』って」

 リオナはすれ違い様そう言った。『草風』は目で闇蠍の位置を示した。

「後は任せろ、リオナと共に行け」

 僕は銃に新型の弾を込めた。

 ユニコーンたちが全員門を潜りほっとした刹那、やつは一気に跳躍して距離を詰めた。獣人の戦士は皆手練れであったから、すぐに対応がなされた。門の前を塞ぎ、各の武器を抜いた。

「済まない、先に試させてくれ」

 僕はライフルを構えた。

『一撃必殺』が作動した。完全に弾に依存した攻撃だからどうなるかと思ったが、新型弾の性能も加味して発動してくれるらしい。武器の性能が加味されるのは当然と言えば当然だが、銃弾まではどうかと心配だった。考えてみれば矢の性能も加味されるのだから当然と言えば当然だ。

 暴発しないでくれよ!

 僕は『完全なる断絶』を銃と自分の間に割り込ませた。

 狙いを定め、意を決して蠢く闇に向かって僕は銃弾をぶち込んだ。

 キイィイイイッと甲高い悲鳴が聞こえた。

 遠くの闇が四散していく。

 絶命した蠍が闇のなかから現れた。

 やったッ! 成功した! 成功したぁ!

「おんやぁ? 今度は何してるのかなぁ?」

 周囲の者たちが僕の瞬殺より、その尾に結晶が結びついていることに驚愕するなか、聞き慣れた声が耳元に。そして後ろから羽交いに。

 背筋が一気に凍った。

「お早いお帰りで……」

 姉さんだった。

「私も聞きたいわね」

 ヴァレンティーナ様まで…… 笑顔が怖いです。


 僕は女丈夫に囲まれて、改めて実演する羽目になった。

 森の奥、我が家の敷地の隅で、十分の一メルテ間隔に土壁を並べた。

 壁の肉厚も十分の一メルテにしてある。僕はそれを五メルテ分作る。最初の壁に通常結界の魔石を埋め込み、いざ実験開始である。もとい実演開始である。

 いきなり実践に投入したと言ったら、どんな目に遭うかわからないのでここは素知らぬふりをする。さも「今回の様な実験を何度もしましたよ」という雰囲気を醸し出す。

 僕は新型弾を装填したライフルを構えた。ちらりとヴァレンティーナ様と姉を見る。姉はさっさとしろというそぶりを見せる。

「いきます」

 若干声が震えた。

 僕は壁に向けて新型弾を発射した。


 最初の四枚を残して後方の壁がほとんど吹き飛んだ。

 全員が青ざめていた。

「はい、お仕置き決定!」


「だから必要なんだって!」

「こんなものが市場に並んだら結界魔法が形骸化しちゃうじゃないの! ことの重大さがわからないの?」

 ヴァレンティーナ様に怒られた。

「城壁の通常結界を破壊しないようにしたら、今度は飛び越えるものを作るなんて。お前は馬鹿なの! 自重しろと言ったでしょ!」

「闇蠍をやるには必要だったんだ」

「あんたには『魔弾』があるでしょ!」

 そこまで言ったところで姉は突然、黙った。

「もしかしてリオナのため?」

 ヴァレンティーナ様が言った。

「いっしょに来たがるんだ。闇蠍をオズローとばかり狩ってるから。あいつの我慢も限界なんだ。でも猛毒がある以上、接近戦はさせられない。僕だってあいつを除け者にしたくないんだ。それに…… その新型弾、転移結界は通り抜けられないから、城の防壁は越えられないと思う」

 全員が豆鉄砲を食らった様な顔をした。

「そうなの?」

 みんなが呆気にとられるなか、姉さんは土壁の残骸のところまで行って、土壁を再生した。そして防御結界ではなく、転移結界の術式を壁に施していった。

 僕があんなに時間を要した作業を片手間にやってしまうところはさすがである。

 姉さん資格あるんだ。僕はうらやましく思った。

 自分でゲート改造したりするからそうなんだろうな。あっ、転移結晶の原石、削ったことばれたら大変だ! さすがに言い訳できない……

 姉さんは銃を僕から取り上げると、新型弾を渡せと要求した。

 僕はポケットから出すと暴発するかも知れないと忠告した。

 姉さんは弾をしばらく黙って見詰めると「大丈夫」と言った。


 弾はあっけなく最初の壁に阻まれ地面に落ちた。最初の壁にすら傷が付かなかったのは姉さんの結界が強すぎたせいだ。

「まさか、転移結界で防がれる銃弾とはね」

 ヴァレンティーナ様は呆れた。

「上の了解は取れたとして、やはり世に出していいものではない気がします」

 エンリエッタさんが否定的な意見を述べた。確かに盾も役に立たないとなれば、世界は一変する。

「誰にも真似できないものにしてしまえばいいんですよ」

 マギーさんが言った。

「対結界生物討伐用の特殊弾頭として特殊兵装に登録してしまいましょう。その上で、ブラックボックス化して、この町のみで販売いたしましょう。そうですね、こちらでライフルを購入した登録者のみに販売いたしましょう」

 さすが商家の出だ。

「特殊弾が町の名産だなんてね」

「正直に『ユニコーンを守るため、闇蠍討伐用に開発した』とでも銘打っておけば、この町らしくていいのではないでしょうか? 獣人たちが挙って買ってくれるかも知れませんよ」

「彼らにはもう見られてしまったしな」

 ヴァレンティーナ様は僕をにらんだがそこに怒気はない。

「小型化できそうか?」

「ええ、この弾面白い構造をしているから可能よ」

 入れ子構造のことか。

 僕が苦労して小さくしたのに、あっさりまだ小さくなると聞かされると嫌になる。

「というわけだから」

 ヴァレンティーナ様が手のひらを上にして差し出した。

 僕は残弾すべてを手のひらの上に置いた。

「懲りない子ね」

 十分懲りてますよ。でも今回はリオナとユニコーンのためだ。甘んじて苦渋をなめるさ。


 だが、すべてが手遅れだったことを、その夜、僕は思い知ることになる。


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