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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(星月夜に流れ星)59

「商品は食材と商店街の割引チケットです」

 出てきたのはチコと同年代の子供たちだった。可愛らしい衣装を身に着けた獣人と人族の五人の少年少女だ。小脇に弓を携え、背中に矢筒を背負っている。

 子供たちは舞台に一列に並んだ。

 それぞれの前にゼロから九までの数字が描かれた回転する的が置かれた。

 お客たちは固唾を呑んで舞台を見詰めた。

「それでは二等から参ります。商品はイフリートの燻製肉とクラーケンの肉の詰め合わせセットです」

 そう言って出されたサンプルは抱えきれない大きさだった。

 あまりの大きさに呆れた笑いが起きた。

「罰ゲームじゃないのか?」

 野次が飛んだ。どっと笑いが起きた。

「それは一等賞の人なのです」というリオナの言葉に会場が更にどっと沸いた。

 当たった人はさぞ迷惑なことだろう。

 当然、ホストとして持てるサイズにカットしたり、費用こっち持ちで郵送の手続きぐらいはするとは思うが。

 五人の子供たちが合図と共に回転している的に弓を射た!

 五桁の数字が読み上げられた。

「当たった!」

 観客のなかのひとりが立ち上がった。

 ミコーレのフェミナから来た子連れの四人家族の父親だった。見た感じ商人のようだ。

「おめでとうございます。みなさん、拍手」

 満場から拍手が沸き起こった。

 そして大き過ぎる商品の進呈がなされると自然と笑いが起きた。

 子供たちは大いにはしゃいで飛び跳ねた。

「では続きまして三等の抽選に参ります」

 的の数が減り、射手の数も四人になった。

「下四桁が揃った方全員です。商品はちょうどいい量のイフリートの燻製肉とクラーケンのマリネの詰め合わせセットになります」

 爆笑が沸き起こった。

 スタッフ一同も演出が大当たりして、それはもう嬉しそうに笑った。

 十人の当選者が出た。

 続いて四等の焼き肉ソース詰め合わせセットとこの町の商店街の商品券、百本の抽選が行なわれた。

 ミロ少年が当選した。

「照り焼き、デミグラス、タルタルソース!」

 喜んで貰えて何よりだ。

「はう」

 リオナが突然何かを思い付いようだ。そばにいるチッタにそっと話し掛けた。

「牛の名前に最適なのです」

 周りにいた獣人の大人たちが爆笑した。

 人族や遠くにいた人たちは何が起きたのか分からず、ポカンとした。

 チッタも苦笑いしている。

 そしていよいよ一等賞が発表された。

「――番の方! おめでとうございます!」

 割れんばかりの拍手。

 立ち上がったのはパン屋の娘さんだった。

 僕たちが日頃お世話になってる町のパン屋さんの今年六歳になる娘さんだ。

「ええと…… ルルちゃん? ご両親は?」

 進行役のお姉さんがルルことルリエッタちゃんに尋ねた。

「逃げた」

 ルルちゃんは逃げた両親を指差した。

「捕まえるのです!」

 リオナが指示すると周りにいた大人たちが両親を取り押さえた。

「うちはパン屋だぞ! あんなに貰ったってどうにもできねぇんだよ。勘弁してくれよー」

 舞台には既に一等賞の景品が鎮座していた。荷馬車一杯分の肉がそこにはあった。

「どうするかなんて後で考えりゃいいんだ! 取り敢えず貰っとかなきゃ、締まらねーじゃねーか」

「ルルちゃん、泣かせる前に貰っとけ」

「てめーら人ごとだと思って!」

「だから面白いんじゃねーか!」

 最後はグダグダになってしまった。

 が、この騒動が切っ掛けで新商品、辛子ソースで味付けした『燃えるイフリートパン』と唐揚げにして卵たっぷりのタルタルソースをかけた『クラーケンサンド』が店頭に並ぶことになる。

 パン屋始まって以来の大ヒット商品となるのである。

『必要は発明の母』とはよく言ったものである。


 日も暮れ始め、風が少し冷たくなってきたところで会はお開きとなった。

 結局ミロ少年たちのお母上は帰ってこなかった。

 肉祭りはお開きになったが、後片付けがまだ残っていた。

 後日『ご苦労さん会』があるので、会場の半分はそのままに、食器や調理器具だけ、雨ざらしを避けるために仮設テントに運び込んだ。

 ロメオ君は折り詰めを持って急ぎ帰宅したが、すぐにお役御免になって戻ってきた。

「トビアたちの寝床を用意しないとな」

 客間とリオナの予備の部屋はカーラ嬢たちが使っているので僕の部屋とリオナの森が宛がわれることになった。

 リオナとチッタたちは甲斐甲斐しくトビアたちの面倒を見た。

 ユニコーンに会いに行ったり、ガラスの棟の販売所で珍しい物を見て回ったり、大浴場に入ったりして、夕飯までの時間を楽しく過ごしていた。

 ワカバは残念ながら途中で一旦退場した。トレド爺さんの所にご両親が迎えに来たのである。滞在期間を一日延ばして貰うことを条件に、ワカバはしぶしぶ引き下がった。

 一方、カーラ嬢たちのお母上は疲れた顔をしながらようやく戻ってきた。が、その顔は充実感に満ちていた。

「おかげさまでお咎めもなく済みそうです」

 義弟のことも聞いたのだろう。手放しでは喜べなかっただろうが、息子の出征の話はそもそもが嘘なので、立ち消えになってほっとしている様子だった。

 カーラ嬢もミロ少年本人も安堵の表情を浮かべた。

 うちの両親も領主館のレセプションの名を借りた臨時会合から解放されて、テンションマックスで遊びに来た。

 母は大勢の可愛らしい子供たちを見ると大いに喜んだ。

 早速ターキーの準備をと勇んだところを親父に止められた。

 僕たちはほっと胸を撫で下ろした。

「王様は来れないんですか?」

 小声で尋ねた。

「奥方連中がいるのでな。寄らずに帰るそうだ。リオナによろしく言っておったぞ。またこっそり城を抜けだして来ると言っておった」

 リオナは笑った。どうやらうちの両親で満足してくれたようだ。

 母さんは相変わらず、変わった食材の生産に従事していた。醤油と味噌、みりんの壺を持参してきた。

「これが照り焼きの素……」

 カーラ嬢とお母上がエプロンを着けて真剣に調理法を学んでいた。

 ミロ少年とトビアたちはピノたちと一緒に市場で買ってきたばかりの双六を楽しんでいた。

 最大十八人用の変わった双六で、内容はフットベースだった。

 攻撃側と守備側がカードを一枚ずつ引いて、さらにサイコロを転がすのだ。

 新作らしいのだが……

「『スーパーキック炸裂! ミラクルホームラン。塁上のランナーとバッターは全員三周、得点三倍! ランナー全員疲労度プラス一』!」

「『ウルトラディフェンス発動! フェンスをよじ登ってホームランをダイビングキャッチ。ホームランを無効化するが、選手は骨折して病院送り。仲間は奮起して疲労度全回』!」

 互いのカードにはサイコロの目や疲労度などを変数にした数式が記されていて、計算した結果が成功率になる。そして成功率が高い方の技が炸裂するのである。

 黄色いサイコロを攻撃側が振るとまずヒットかアウトか、何塁打かが決まる。

 アウトなら攻撃側がカードを引き、イベントを起こす。勿論起こさなくても構わない。

 起こされた場合、守備側はカードを引いてイベントを阻止する。

 逆にヒットが打たれたら、今度は守備側がカードを引いて攻撃を阻止。攻撃側はそれに対してカウンターを当てることで守備側のファインプレーを阻止するのである。

 回が進むごとに疲労度が蓄積して、使えなくなるカードが増えてくる。大技ほど疲労度は蓄積していくので使いどころが難しい。回復手段はあるが、それなりのリスクを抱えている。

 先の例だと選手が退場した守備範囲はヒットゾーンになってしまうので、そこに打ち込まれると無条件でヒットになってしまうのである。

「『今日は全員厄日発動! ホームラン性の打球がワイバーンに命中! 打者はアウト。塁上にいるランナー、守備側の選手は逃げ惑い、全員疲労度プラス三。疲労度蓄積十以上で永久退場』!」

「ワイバーンって……」

 どこで試合してんだよ! 永久退場って何! もうフットベースじゃないじゃん。

 突っ込みどころ満載である。

「『スーパーミラクルドリームフットベース絶賛発売中! 勝利者は君だ!』」

 ワイバーンか?

 タイトル通りミラクルだったが、子供たちには受けていた。


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