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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(星月夜に流れ星)58

「イフリートの燻製肉だよ。本日の目玉だよ。食べないと一生後悔するよー」

「クラーケンのマリネだよー さっぱりして美味しいよ。重たい肉料理の口直しにいかがですかー」

「定番ドラゴンステーキはいらんかねー 若様印と言えば盛り合わせだよー 単品でもオッケーだよー いらっしゃい、いらっしゃいー 食べなきゃ損するよー」

 皆、口上もすっかり慣れたものである。

「燻製卵に燻製チーズだよ。川魚の燻製もあるよ。酒の肴に最高だよ」

 酒樽は今回自費である。チケット代から入る収入の一部が充てられることになっていた。今回は重鎮たちのレセプションのためにあちらもかなり支出しなければならないので寄付はなしである。

 獣人たちも町の人たちもすっかり慣れたもので、いつになくスムーズに祭りは進行した。

「うっめー。このジュース最高だ」

 ピノは運んできた樽を真っ先に開けて試飲した。

 ヘモジが厳選した材料で作らせたジュース樽だ。不味いはずがない。ブレンド具合も飲みやすく仕上がっていた。ガラスの棟の新商品である。

 僕たちは我が家の裏口寄りの場所を占領していた。

「イフリートの肉だよ」

 ピオトとテトが人数分山盛りで貰ってきた。

「燻製チーズ貰ってきたよー」

 こちらはチッタとチコである。何種類か混ぜて皿に載せてきた。

「パンも貰ってきたで」

 ワカバとエミリーがバスケットに入れて持ってきた。

「いつ来ても凄いなー。感心してまうわ」

「あの…… こんなお祭りいつもしてるんですか?」

 カーラ嬢が聞いてきた。

「今日が一番多いのです。新記録なのです」

「これおいしい!」

 ミロ少年はイフリートの肉を摘まんで驚いた。

 今の彼はもう杖を必要としていなかった。若さ故か、たった一日二日で杖のない生活を手に入れてしまっていた。

「お母さんは?」

「展示会はもう行ったの?」

 チッタとチコに矢継ぎ早に尋ねられた。

「母さんは領主館に呼ばれて行きました。展示会は人がいっぱいだから、明日でもいいかなって。お母さんもまだ戻って来てないし」

 みんな席に着いた。

 会場は大賑わい。家族連れがいつになく多い気がした。

 ワカバの村の連中も大勢やって来ていた。目立つこと目立つこと。身なりが皆、ワンランクもツーランクもいい物に変わっていた。皆、屈強な冒険者に見えた。

「これ、みんなタダなの?」

 町の外から来た家族連れのお客さんたちが目を白黒させていた。

「ドラゴンの肉の盛り合せなのです」

 リオナとロザリアが含み笑いをしながら戻ってきた。

「こっそり燻製にしたのです」とリオナが言った。

 ほんと肉に掛ける情熱は半端ないな。

「あの…… お招き与りありがとうございます。若様。リオナ様」

 僕は聞いたことのある声に振り向いた。

 そこにいたのはトビアだった。そしてファーレーン自治区の子供たちだった。

「リオナが招待したのです」

 リオナが胸を張った。

「みんな改めて紹介するのです」

 リオナはお互いを紹介し、同じテーブルに座らせた。

 既知の者もいたが、ワカバやカーラ嬢のように初対面の者もいたのでちょうどよかった。

 他の連中もこっそり側耳を立てて聞いているだろうし、ファーレン自治区に獣人の仲間がいることが分かるだけでもいいことだ。

 トビアたちは妹も含めて十人程度いたが、小柄なので椅子の追加だけで済んだ。

「親は来なかったの?」

 ロザリアが尋ねた。

「自分たちまで行ったら迷惑になるからって」

「見ての通り遠慮は無用だよ。次回はみんな一緒にな」

 トビアが嬉しそうに頷いた。

 そんな彼らに自治区の現状を教えて貰った。

 新領主は案外うまくやっている様子だった。辛抱できない連中が早々に島を脱出したせいで、却っていい方向に向かっているようだ。相変わらず何もかも足りない状況だが、シルバーアイランドとの間に定期便を走らせたことで、食糧事情は随分改善したようである。

 ワカバが自分も海を見てみたいと言い出して、『海猫亭』に今度連れて行くことになったり、リオナがイフリート戦とクラーケン戦の様子を面白おかしく、大いに誇張して語ったりして、楽しい時間があっという間に過ぎていった。

 オクタヴィアはトビアの妹たちとチコに弄ばれ、ヘモジはひとり八百屋の親父とジュースの味について真面目に意見交換をしていた。

 ナガレはチョビとイチゴと一緒に魚屋で大きな貝を買い漁り、鉄板で焼いては醤油を垂らして堪能していた。香ばしい匂いに釣られた客が、鉄板の前に列を作ってしまって散らすのに苦労していた。

 アイシャさんは相変わらず悠々自適に書庫に籠もってひとりの時間を過ごしていた。

 ロメオ君が遅い昼食を食べにやって来た。

 来て早々、摘まんだイフリートの燻製肉のうまさに驚いていた。

 家族にお持ち帰り用の折り詰めを早速用意して貰っていた。

「うまくいってる?」

 僕は尋ねた。

「それがさぁ、もう大変だよ。『精霊石を譲ってくれ』て言う人が次から次へと現われてさ。しかも口を揃えたように『文化貢献だと思って』とか言って値切ってくるんだよ。『それじゃ、魔石(特大)も買えませんから』て何回言ったか知れないよ」

 確かに精霊石の美しさは魔力の含有量とか以前に魅力ある品だよ。

「それと、例の窃盗団の話、聞いたんだけどさ」

 話が飛んだ。

 それは『コルッテリ・ネラ・ノッテ』の事件の続報だった。

「人質になってたのは皆、周辺諸領の裕福な家の家人だったみたいだよ」

「三十五人も?」

「驚きだよね。しかもその誘拐ビジネスほとんど成功してたんだってさ。今余罪を洗ってるらしいけど、結構儲けたみたいだね」

「ほんとに碌でもない連中だったんだな。そんなこと長続きするはずないのに」

 非戦闘員を七千人も抱えてすることかよ。

「嘘か誠か、あそこに国を造る気だったみたいだよ」

「ほんとに?」

「金で武装強化してから、有利に交渉に望む気だったみたいだね。でも力の差を見せつけられて、意気消沈してたってさ。こんなことになるなら、初めから嘆願すればよかったって」

「それでカーラの叔父って奴は捕まったの?」

 カーラとミロに聞こえないように話した。

「それが殺されたってさ。仲間を僕たちが返り討ちにしちゃったじゃない? 組織の精鋭部隊だったらしくてさ。戦力がた落ちになっちゃって、それで相手が激怒して」

「カーラたちは知ってるのか?」

「来賓で来てた本部のギルドマスターから聞いた話だから、多分まだだと思うよ」

 母親はその件も含めて、まだ戻って来られないのだろう。


「これより、宝くじ抽選会を始めます。入場チケットをお持ちの方は通し番号をご覧下さい」

 いきなりのアナウンスに僕は驚いた。

「何それ?」

「サプライズなのです」

「もしかして、町の人がわざわざチケット買った理由って……」

「僕も初耳だよ」

 ロメオ君と一緒にリオナを見た。


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