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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(星月夜に流れ星)56

 代わりに親父たちに侵入ルートの探索を中止するように言付けられた。ない物を探しても始まらない。

 僕たちは行き来た道を引き返した。帰りの高速気流はないので帰還は一日掛かりである。

「ナーナナ! ナナ!」

「出番なかった!」

 ヘモジとオクタヴィアがウロチョロしながら、出番がなかったことを抗議した。妹分のチョビとイチゴが活躍したから尚更ふてくされた。オクタヴィアはご主人に一喝されて黙り込んだが、ヘモジはすねて野菜スティックを持って操縦室に引き籠もった。

 少しだけでも出してやればよかっただろうか? 

「僕だってほとんど戦ってないんだから、元気だそうよ」

 操縦の傍らロメオ君が慰めてくれていた。

「そうだ、少し操縦してみる?」

「ナ?」

「足が届かないから操縦桿だけだよ」

「ナーナ!」


 ヴィオネッティーの西方の拠点に着いたのは、ヘモジの機嫌が直った、ちょうどその頃だった。そこで親父たちに伝言を頼み、ヴァレンティーナ様に状況を知らせるため、非常用の転移ゲートを使わせて貰ってロザリアとロメオ君を先に帰した。

 子供たちはすっかり疲れていたので、早めに食事を取らせて休ませることにした。精神的ストレスは薬ではどうしようもなかった。

 やはり連れて来るべきではなかったか。

「そんな顔をされては立つ瀬がなかろう」

 みんな姉さんのために頑張ってくれたんだよな。

「祭りの日に何かしてやればよかろう」

「何かって言われてもなぁ」


 一日飛び続けて、翌朝、僕たちは帰還した。

 姉さんも兄さんたちもポータルで既に戻ってきていた。

 おかげでさして騒がれずに帰宅することができた。

 その日の新聞には早くも事件の記事が載っていた。

『一万人の盗賊討伐!』

『近衛騎士団快挙!』

『砂漠の盗賊団コルッテリ・ネラ・ノッテ、壊滅! 人質三十五人、救出!』

 戦闘員は精々二、三割だったのに。随分盛ったものである。

 残りの非戦闘員をどうするか、そっちの方が問題だろうに、そこに触れた記事はなかった。

 勿論ヴィオネッティーの名前もない。が、町の連中は知っていた。

 王都は大変だろうな。どんな交渉が成されるのか。

 その王都から明日、王様がやってくる。いよいよ祭りの本番である。

「取り敢えず祭りには間に合ったな」

 

 子供たちに朗報がもたらされた。

 姉さんから今回のお礼に『銀花の紋章団』の正式な会員証が配られたのである。これで見習い冒険者から正規メンバーになっただけでなく、あらゆる商業的取引に会員特典が付くことになった。オークションにも参加できるし、窓口で取引もできるようになったのである。

 元々僕のアイデアで「何かお礼はできないか?」と相談したらパクられた。

 まあ、あいつらの喜ぶ顔が見られただけでもよしとしよう。でもまた何か考えないといけなくなった。さすがに大浴場のタダ券ではまずかろう。

 そう言えばイフリートの肉の美味しい食べ方は見つかったのだろうか? リオナに尋ねたら固まった。

「忘れてたです」

 領主館に駆け出した。

 戻ってくると台所に飛び込んだ。

「燻製なのです!」

 アンジェラさんが困った顔をした。

「そりゃどうやるんだい?」

 聞かれてもリオナにも分からない。アンジェラさんが知ってると思っていたから、もう一度駆け出した。

「煙で燻すんじゃなかった?」

 僕もアンジェラさんに尋ねた。

「だからそれをどうやるんだい?」

 リオナが改めて答えを持ってきた。が、よく分からない。フックで吊すとか、チップを燃やして煙を出すとか、通気口をどうのと説明するが、匂いは何で付けるのか尋ねるともう分からない。

「ベーコンを作るのと同じ要領でいいのかい?」

 アンジェラさんが尋ねた。

 リオナは実物を拝みに領主館の厨房に再び走る。

 僕も付いていって燻製小屋というのを見せて貰ってようやく合点がいった。

 アンジェラさんがベーコンを焼くのに使っている箱形の調理器具をでかくしただけの物だった。

 チップの種類はいろいろあったが、イフリートの肉にあう物は館の料理人の手で候補が幾つかに絞られていた。

 領主が保管している木材のなかから匂いでリオナが選び出した。

 明日のお祭りで使う分を調達して、家に持ち帰ると僕は魔法で木材を粉砕し始めた。館の燻製小屋と大体同じ物をピオトとその師匠の木工師に依頼して幾つか作らせた。

 明日、客に出す前に試食しなければいけないので大急ぎである。

 子供たちが騒ぎを聞きつけ、集まってきた。

 最初にできた小屋に早速、食材を入れて燻し始めた。

 イフリートの肉だけでなく、兎や、ドラゴンの肉片も吊した。空いたスペースにクッキーやらホタテやら、チーズやら卵やらを置いた。

「どれくらい燻せばいいんだ?」

「鼻が頼りなのです」

 そんなこと料理人はいってなかった気がするが。ま、獣人の鼻を信じてみるとしようか。

 煙が出てきた。

 アンジェラさんもエミリーもサエキさんも興味津々である。オクタヴィアは燻製が美味しくなることを願って小屋の周りを何度も往復した。

 そしてそのときが来た!

 扉を開けると煙がもわっと出てきて、美味しそうに黄金色に光った肉の塊が出てきた。

「いい匂いなのです」

 早速、全員分の皿が用意された。

 匂いを堪能するが誰も手を付けない。お互い様子を窺いながら、誰かが先に食べるのを待った。

「ホタテ、ホタテ」

 茶色く美味しくなさそうに変色したホタテをヘモジがナイフとフォークを使って裂いて、食べ頃の大きさにしてオクタヴィアに提供した。

「ナ?」

 オクタヴィアがモグモグと口を動かす。

「へんてこりんな味になった。でもおいしい!」

 困ったコメントを言い出した。うまいのか不味いのか分からない。

 ヘモジも口にするが、首を傾げたままだった。

 じれてきたピノが、肉に手を出した。

 まずは兎の肉からだ。いい色に焼けて、皮のお焦げも美味しそうだった。

 食べた途端に顔色が変わった。

「すげーうまい! ただ焼くより何倍もうまい」

 これを合図に子供たちが動き始めた。

 リオナが先陣を切り、イフリートの肉に手を付けた。チッタとチコの皿にも分厚くスライスされた肉が載せられた。

 三人が肉にがぶり付いて言った。

「マンマミーア!」

 また変な言葉を……

「うまかったのか、不味かったのか?」

「明日のお祭りは大成功間違いないのです! みんな明日はお腹空かせてくるのです!」

 こら、誰に言ってる!

「卵も美味しい!」

 ああ! 僕が一個だけ試しに置いた卵を! ピオトの奴が食いやがった。

 取られる前にチーズを確保する。そして口に運ぶ。

 これは! トロリと溶けてコクがある。

 イフリートの肉にも手を出した。

 なんてこった。さしてうまくもなかった肉が、とんでもなく脂ぎって甘い肉に変わっていた。

 これは確かにリオナの言う通り、明日は腹を空かせてぜひ祭りに来て貰いたい!

「こりゃ、レストランの連中にも知らせないと!」

 アンジェラさんも動き出した。

 例の如く我が家の敷地に入れなかった人たちのために、メニューを用意しておくのである。

『燻製盛り合わせセット』とか、『燻製肉のバーガー』とかメニューに並びそうである。

 レストランの奥様連中も急きょ駆けつける騒ぎとなった。

 今夜は明日の準備で大忙しの予感である。

 僕が気に入ったのはチーズとやはりイフリートの燻製肉だ。

「若様、遊びに来てやったで!」

 ワカバがフライングしてやって来て、我が家はまた騒がしくなった。

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