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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(星月夜に流れ星)55

 本拠地を囲む転移結晶の塔を邪魔者と一緒にエルマン兄さんが力業で破壊していった。

「爆砕ッ!」

 スキルでも何でもないことを叫びながら、あの痛いガントレットで護衛の兵士諸共塔の柱を粉砕した。ニタリと笑うだけで敵陣は後退る。

 消えたかと思うと次の瞬間、遙か彼方にある別の塔が轟音を立てて崩れ落ちる。

 無数の矢を浴びるが、身体強化したその身体に矢が突き刺さることはない。

 アサシンたちの不意打ちも兄にとっては止まって見えるのではないか?

 悉く避けながら、カウンターを当てていく。それだけでアサシンたちは地面にうずくまって動かなくなる。兄の攻撃を防ぐには装甲が薄すぎる。

 代わって重装の兵隊が取り囲もうと躍起になるが、鈍重すぎて掴まらない。

 お返しに本家本元の『鎧通し』をゼロ距離から食らって地面にうずくまる。兄さんは動かなくなった鎧人形を地面に引き倒して雄叫びを上げる。

 鬼神とは斯くの如し。

 対峙していた前線は崩壊して、叫びながら逃げ惑うが、今度はパトリツィアさんとその部下たちが本領を発揮する。

 鬼神の嫁は鬼神だった。

 アサシンがどうのと言うレベルじゃなかった。ただ速いのだ。隠遁された状態で攻撃されても瞬時に反応してカウンターを当てる。

 僕の魔法の盾を使ってくれているようだが、首狩りの斧と化していた。

「凄すぎる……」

 応援いらなかったよ、絶対。

 粗方戦意が残っている連中を屠ると、残りを武装解除させていく。

「死にたくなければ大人しくしていろ」

 パトリツィアさんの言葉は呪いのように敵陣に効果を発揮した。


 転移結晶の原石に暴走する程多くの魔力は残っていなかった。幸い、この地に移動するためにほとんどの魔力を使い果たしているようであった。

 塔の前に土嚢を積み上げ陣取った弓と槍の部隊の前に姉さんが立ちはだかった。

 いつの間にかアイシャさんが隣に並んでいた。

「なぜ連れてきた?」

「お前の二つ名などあの町ではなんの脅しにもならんということじゃ。たった一日消息不明になっただけで我が子が誘拐されたかのような騒ぎじゃったぞ」

「馬鹿共が」

「諦めろ、お前がエルネストの姉である限り、妾たちはお前の家族じゃ」

「まったく――」

『地獄の業火』がふたりを包んだ。

 無数の矢が空を覆い尽くす。が、炎の壁がすべてを焼き尽くした。

 何もかもが赤く染まった。

 大地はくすぶり始め、大気は肺を焼いた。

 二体のイフリートが出現したようなものだ。もはや敵陣に為す術はない。

 熱波が防衛線に忍び寄る。

 触れた物は何もかも焼き尽くす炎が足元まで来ている。

 接近するまで投擲を控えるはずだった槍兵たちもこらえきれず、持っている槍を投げ込んだ。

 焚火に薪をくべるように炎は強さを増した。

 姉さんたちが立ち止まった。

 どうやら落とし穴を仕掛けた者がいるらしい。

「敵にも姑息な奴がいるようだ」

 それは僕が姑息だと言ってるのか?

 落とし穴の掘られた地面を固め直して、何食わぬ顔で前進を続けた。

 遠距離攻撃は用を成さず、誰ひとり接近すること叶わず、前線は容易く突破された。

 塔は燃え上がり、転移結晶の原石に残っていたわずかな魔力に引火して爆発を起こした。

 耐熱装備などあるはずもなく、姉さんたちが陣取るエリアに敵はいなくなった。

 

 別の場所では最後の抵抗が続いていた。

 エルマン兄さんたちと姉さんたちのいるエリアが極端に進攻が早い分、取り残されたエリアに脱出を試みる敵も多かった。

 彼らの後ろに控えている非戦闘員に注意しながら、僕も上空から狙撃する。

 どんなに強力な隠遁スキルを持っていても空に浮かぶ船に辿り着けなければ宝の持ち腐れである。姑息と言われようとも安全第一である。

 新型の鏃も惜しげなく投下した。

 爆風に巻かれて姿をさらしたところを次々討ち取っていった。

 アンドレア兄さんの放った一撃が山肌を焼いた。

 僕たちがチクチクやっていることを一撃で終わらせた。

 敵は祈る時間すら与えられず、跡形もなく消滅するのみであった。

 こうなると誰だって僕たちの方が手薄だと、逃げおおせることができるかもと思われてしまうわけだが、そうは問屋が卸さない。

 姑息と言われて少々気が立っていたのかも知れない。

 僕はリオナたちに「間違っても地上に降りるな」と念を押してからヘモジを連れて地上に降りると杖を出してアイスウィスプさながらに冷気を放出し始めた。

 押し寄せてくる一団の先頭にいた連中は何が始まったのか最初分からなかった。

 太陽が雲に隠れたせいだとか、山の天候は変わり易いものだからだとか、冷気が立ち込めても単なる自然現象だと高を括っていた。

 天候が荒れれば逃げられる可能性も増えると士気を取り戻す者たちもいた。

 だが、気付いたときには吹雪に囲まれ、逃げ場がないことを悟った。

 自然現象ではないことに気付いたときにはもう手遅れだった。

 凍りついた人形の森ができあがっていた。

 チョビやイチゴが歩くだけで凍った連中はバランスを失い、地面に転がり、運が悪いと部位欠損を起こしすことになった。

 敵は敗走し始めた。

 ヘモジも戦わせてやろうと思ったがその必要はなかったようだ。


 四方から挟撃され、逃げ場を失った者たちは、圧倒的な戦力差に恐怖し、戦意を消失して次々投降し始めた。

 白旗が揚がるまでそう時間はかからなかった。

 指揮官の判断は決して遅くはなかったが、こちらの進攻が早過ぎた。

 戦闘に従事していた者たちはほぼ壊滅した。

 僕たちの船の真下にエルマン兄さんたちの部隊が付いたので、チョビとイチゴを回収し、僕も船に戻った。

 ヴィオネッティーの地上部隊が隠遁を解いて、反対側から姿を現わした。

 余りに近くに表れたので、降伏した者たちの恐怖を更に煽る結果になった。

『コルッテリ・ネラ・ノッテ』の戦闘部隊の生き残りは次々拘束されていった。

 隠れて逃走を試みた連中は皆、容赦なく討伐されていった。

 想定していた王族の生き残りとやらの抵抗はなかった。逃げおおせたのか、そもそもいなかったのか。

 取り敢えず後は、地元の守備隊と近衛師団の増援を待つのみである。

 船で戻らなければならない僕たちは先にお暇することにした。

 いても子供たちばかりだし、することもないし、人質に取られて形勢逆転とか間違っても起こしたくないのでさっさと消えることにした。

 アンドレア兄さんの『魔弾』が空に控えている限り、敵はもう何もできないだろう。

 アイシャさんを回収するとお先に戦場を後にした。


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