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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(星月夜に流れ星)51

 王都からの知らせは見慣れた人物によってもたらされた。

 ロッジ卿こと宰相殿である。

 館に呼ばれて行ってみるとヴァレンティーナ様とふたり、僕を待ち構えていた。用件は簡単で「もう内偵が動き出したからやることはないわよ」ということだった。

 こっちも今はロメオ君の所の展示会の準備で忙しいから、首を突っ込もうとは思わない。

「しかしね……」

 意味深に宰相殿が手を口元にかざした。

「角を集めさせたのは詐欺を働くためではなく、あの場所にカーラ嬢を誘い込むための罠だと思うわけだが……」

 一拍おいて僕の反応を見る。

「僕もそう思います。出征云々はあの場所におびき寄せるための単なる餌かと」

「カーラ嬢はこのままここにしばらく留め置くとして、問題は領主殿と弟君(おとうとぎみ)だ。領主殿は前線だからこちらでサポートするとして、弟君は展示会もあることだし、こちらにそれとなく招待してはどうかな?」

 そう言ってカーラ嬢の手による手紙を僕の手の上に置いた。

「決定ですか?」

「襲撃に失敗したことが知れれば、強行に及ぶかもしれん。カーラ嬢の側近の話では奥方の様子も最近おかしかったと言うから、何か事情を知っているかも知れん。できればそちらも一緒に連れてきて貰えると助かる」

「隠密、動かしてるんでしょ?」

「敵が何者か判明しないうちは、こちらが動いていることは知られたくないのでね。取り敢えず、偶然居合わせた冒険者のお節介レベルで頼みたい」

「地図、貰えます?」


 体よく使われるのはいつものことだが、それなりの報酬を出すと言うので引き受けることにした。

 要は少し敵陣を掻き回してこいということだ。

 さて、同行者は誰にするか?

 アサシン相手なのでリオナを連れて行こうと思ったのだが、祭りの準備が忙しいらしくて断られた。

 ロメオ君も同じ理由で無理だろう。

 アイシャさんを連れて行くとやましい連中に必要以上に警戒されそうだし、ロザリアを連れて行くと別の意味で問題が深刻化しそうだ。

 ゼンキチ爺さんは門下生の相手で忙しそうだし。

「結局、いつもの面子だな……」

 僕の肩には朝食をたらふく食ってげっぷしているヘモジとオクタヴィアが載っている。

 行きは僕の身分を保証する意味も兼ねて、カーラ嬢の護衛が数名同行してくれる手筈になっていた。

 公共のポータルが繋がっているので先方への移動はなんの問題もなかった。


 森の多いのどかな町だった。

 街道沿いにはビール麦が実った畑が広がっていた。

 遠征隊の避難キャンプがポータルのある大門広場前に設営されていた。遠くにはバリスタの影も見える。そこかしこに西方遠征の影が見え隠れしているが、町全体は静かなもので、同時に前線からまだ距離があることを示していた。

「降りる」

「ナーナ」

 オクタヴィアとヘモジが言った。

 ふたりはすっかりバカンス気分である。

 鎧を着た連中がちらほら街道を行き交う姿が見える。

 この町の守備隊でないことは鎧を見れば一目瞭然。前線の連中だと分かる。

 僕たちは街道の行き着く先にある領主の城を目指す。

 領主の居館は丘の上の城のなかにある。

 城は町のどこからでも見える場所にあった。

 カーラ嬢の護衛たちが先頭に立ち誘導してくれる。

 町の人たちから気軽に声を掛けられていることからも領民との関係が窺い知れた。

 こんなのどかな町に問題を持ち込む連中というのは一体どこのどいつやら。

 城の関門を潜り、居館に辿り着いた僕たちは客間に通され、奥方とミロ少年の登場を待った。

 ここまでは付き添いの方々のおかげでほぼノーチェックである。

「うまく行き過ぎてる」

 仕掛けた側も自分たちの戦果が気になるのかも知れない。用件を聞くまでは取り敢えず泳がせておこうという腹だろうか?

「ようこそおいで下さいました」

 現れたのは話にあった秘書だった。

 白髪の交じる歳で痩せぎすで、背はやや高く、その目はしたたかさを兼ね備えていた。

 執事が体調不良とかで、執事の仕事も兼務しているそうだ。

 命令書の真偽を確かめたかったが、警戒されるわけにはいかないのでやり過ごした。

 あくまで迷宮で知り合っただけの冒険者だ。お家の事情など知らないことになっている。

「お待たせしました」

 奥方とミロ少年がカーラ嬢の付き人と一緒にやって来た。どちらもカーラ嬢によく似ていた。

 弟君には覇気が感じられなかった。

 秘書は一礼すると入れ替わりに部屋を出て行った。

「初めまして、エルネスト・ヴィオネッティーです。お見知りおきを、奥様。ミロ様」

「手紙を拝見致しました。この度は娘が大変なご迷惑をお掛けしているそうで」

「今はまだ歩けませんが、数日もすれば完治しますから、それまではどうぞ遠慮なく――」

 こちらの嘘にふたりは安堵の表情を浮かべた。

 手紙にはイフリート戦で足に重度の火傷を負ったことになっていた。

「それで、あの……」

「はい。まずは無事であることのご報告を。それともう二つ。ちょうど今週末に我が町で大きな祭りが催されることになっておりまして、お嬢様がそれまでこちらに逗留したいと希望されている点が一点。祭りは当地の冒険者ギルドが火と水の精霊石を展示する催しがメインでして、内外からも大勢のお客様がおいでになる予定になっております。一見の価値があると存じます。そこでお嬢様はできればミロ様も一緒にどうかと申されておりまして、逗留とミロ様の来訪の許可を頂けないものかと。できればお母様もご一緒に」

「有り難い申し出ですけれど、ご覧の通り息子の足は――」

「我が町スプレコーンは王家並びに教皇様の庇護の下、最先端の医療を行える環境が整っております。斯く言うわたしもそちらのお手伝いをさせて頂いていたことがございます。見る限り、ご子息の足は奇形によるもの。治療は可能かと存じます。その件も含めてのお誘いでございます」

 奥方の反応が変わった。

「治せると?」

「医師ではないので確約はできませんが、恐らく可能かと。治療後は速やかに――」

 僕は鞄から完全回復薬と万能薬を取り出した。

「こちらの万能薬と完全回復薬で即退院が可能です」

 薬の名を聞いて臆するのが見て取れた。

「失礼ながら、料金をお気になさっておいでですか?」

 奥方は頷いた。

「費用は教会のサポートもありますし、治療費に組み込まれておりますので、問題ございません。どなたでも安心して受けられる値段設定になっております。分割での支払いも可能ですし。それに今回お嬢様が狩りで手に入れたアイテムがございますから、それをお売りになれば、費用の捻出は可能かと思われます」

 勿論そんな物はない。

「娘は、アイテムを手に入れたのですか?」

「はい。ただ、そのせいで無理をなさったようで」

「姉様……」

 ミロ少年が悔しそうに呟いた。

 自分のせいで姉が傷付いたとなれば苦い顔をするのもよく分かる。

「見舞いに行きます」

 少年は言った。

「母上もご一緒に参りましょう」

「しかし、館を空にするのは……」

「二、三日なら問題ないのではないですか? 他国ではありませんし、何かあればポータルですぐ戻ってこれますから」

 秘書と相談してみると言うのでしばし待つことにした。

 その間、ミロ少年はほんとに自分の足が治るのかと僕に詰め寄ってきた。僕は事例を挙げて詳しく説明した。

 一度曲がった骨を切り離して正しい位置に固定した後、骨を再構成して終わりだと。その後リハビリが必要になるが、それもすぐに杖が要らなくなるだろうと説明した。

「でも、身体が治ったら戦場に出ないといけないんですよね」

 少年は呟いた。

 その必要はないだろうと答えるわけにもいかず、黙るしかなかった。

「でも、この足が治れば、もう馬鹿にされることはなくなりますよね」

「されてるんですか?」

「みんな僕が世継ぎであることを、よく思っていないんだ。特に――」

「お姉さんも側近の人たちもそうは言ってなかったけどな」

「……」

「足が治れば、きっと別のものが見えてきますよ」

 僕は笑った。

 奥方がようやく戻ってきた。

「参りましょう」

 カーラ嬢の分も荷物をまとめると、僕たちは館の馬車でポータルに向かった。

 カーラ嬢の護衛に付いていた数名がそのまま馬車の警護に就いた。


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