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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(イフリート再び)50

「全員、介入を許可する!」

 ヴァレンティーナ様の合図と共に僕たちは走り出した! 

 姉さんが挨拶代わりの一撃を放つ!

 逃げ出した部隊は突然始まった第二ラウンドに唖然となった。

 どこの世界に『地獄の業火』に飛び込んでくる者などいようか!

「エンリエッタさん、ランタンを奴の近くに!」

 僕は叫んだ。

 エンリエッタさんは業火をものともせず、盾を構えたまま突っ込んだ。

 イフリートは姉さんとの魔法合戦で足元の注意が散漫になっていた。

 それに合戦に勝ったのは姉さんだった。

 イフリートの口は氷で封じられた。

 勿論一瞬のことだが、それでも勝敗は決した。

 エンリエッタさんが持つランタンから青白い炎が漏れ出した。

 ウェスタの炎はイフリートの纏う炎と混じり合い、煌々と燃え始めた。

 エンリエッタさんはその場にランタンを置くと暴れるイフリートから一旦距離を取った。

 イフリートは青白い炎の鎖に縛られ悶え苦しんだ。

 そして苦痛の元凶であるランタンを破壊しようと傷付いた尻尾を振り上げた。

「てぇあああぁ!」

 ルチア嬢が尻尾の根元を深々と切り裂いた。

 僕が結界張ってるから大丈夫なんだが。

 サリーさんの放った銃弾がイフリートの片目を穿った。

 姿が消えたと思ったらエンリエッタさんも、自分の腰回りより太い足の腱を切り裂いていた。

 イフリートは一瞬で満身創痍…… 踏んだり蹴ったりである……

 イフリートは怒声を発して大気を震わせた。

 ようやく氷のくつわが解けたようだ。

 怒りの矛先はこうなった切っ掛けを作った姉さんに相変わらず向いていた。

 だが、もはや吠える以外何もできやしない。

 青白い炎に雁字搦めにされ、片目から血を流し、足を引き摺り、筋を断ち切られた尻尾はもはや重荷でしかない。

 止めは『次元断絶・無双撃』

 ヴァレンティーナ様の一撃がイフリートの首を容易く跳ねた。

 ドオンと重い音を発して、首から上が地面に落ちた。

 逃げ出したパーティーは退場することも忘れて、圧倒的な成り行きに立ち尽くしていた。洞窟の出口に向かう斜面から、こちらを畏怖の念を以て見下ろしていた。

「心臓はどこだ?」

 倒れ方が悪かった。

 僕はうつぶせになった背中を『無刃剣』で切り開いた。

「相変わらずよく切れる魔法だな」

 サリーさんが肉を剥がすのを手伝ってくれた。背中の肉だけでも牛の何倍も厚みがある。

「あった!」

「急げ」

「了解」

 僕は胸部を骨ごと輪切りにした。それを転がして、心臓だけを引き摺り出すと床に転がした。

 これで落ち着いて部位の回収ができる。

 姉さんは今回、部位をエルーダの解体屋に素直に送るようだ。入手ルートをはっきりさせておきたいらしい。適当な大きさに僕が切り分け、姉さんが札を貼って送り出す。

「魔石狙いではないのですか?」

 誰かが声を掛けてきた。

 振り返ると先程の部隊の人だった。年の頃は二十歳ぐらいか? 男装をしているが、声で分かる。

「何か、ご不満でも?」

 エンリエッタさんが対応した。

「いえ、そのようなことは決して! ただ魔石になさらないようなので、少しお願いを聞いていただけないかと思いまして」

「どのような?」

「イフリートの角をお売り願えないでしょうか?」

 意外な申し出だった。

「イフリートの角?」

 なんに使うんだ?

「鍛冶用の触媒だ」

 姉さんが部位を送り出しながら言った。

「炉の温度を一時的に上げることができる。その炎で作られたアイテムは必ず攻撃力が標準以上になり、なおかつ炎属性の付与も付くらしい。ルーンを刻まずとも先天的に付与付けすることができるお宝アイテムだ」

「ええっ、そうなの?」

 魔石に変えちゃったよ。

「いつも言ってるだろ。冒険者たる者、部位の勉強を怠るなと」

「因みに如何程?」

「金貨百枚ぐらいだな。二本で二百だ」

「お宝という割には安いね」

「必ず成功が約束された物ではないからな。成功しても思う物ができるとも限らんし。当たったらでかいが、そうそう当たる物ではないようだぞ」

「なんだ。驚いて損した」

「冒険者的にはルーンを刻んだ物を素直に相応の対価を払って買った方が利口ということだな。自作派の娯楽みたいなもんだ」

 そう言われると試してみたくなるんだよなぁ。

 残念ながらこの場所は気楽に日参できる程、簡単には通えない。

 フロアの出口は砦を出た先だから、裏口から入ってもカークスの砦のなかを通らなくてはならない。結構な距離である。何よりイフリートが相手だということが最大のネックである。

 ヴァレンティーナ様は角を売ることにしたようだ。

 その代わりなぜ襲われたのか、話を聞かせて貰うことにした。


「改めまして、西方カナンの地を治めます領主、ザナージ家の娘カーラと申します」

 ザナージ家は我が国の最西に位置する少領である。

 あの辺りは現在、西方遠征のおかげで大分潤っているはずであるが。

「わたしたちは『銀花の紋章団』の冒険者です。わたしはこの隊の指揮をしているヴァレンティーナ・カヴァリーニです」

「え? カヴァリーニ?」

「隣りのスプレコーンの領主もしております」

「王女様?」

「そうとも言いますね」

「ご、ご無礼致しましたぁあああ。何卒ご容赦を」

 あっという間にみんな土下座した。

「今は冒険者です。お気遣いなく」

「ですが……」

 この手の言葉を真に受けて、首を刎ねられた者は枚挙にいとまがない。

 彼女たちに責はないが、まともな会話ができるようになるまで、しばし余計な時間を要した。


 僕たちは今、エルーダ村に新設した『銀花の紋章団』のギルドハウスにいた。団員はこの時間、狩りの真っ最中なので閑散としていた。買い付け担当が窓口にいるだけだった。

「ちゃんと稼働してたんだ」

 各種作業場完備で、使い放題。宿泊が可能で頼めば食事も付いてくる。ただいま満員御礼。増築申請中らしい。

 僕たちは全員が入れる大きさの二階会議室を占有していた。

「して、あのアサシン共は何者だ?」

 姉さんが尋ねた。

「分かりません。ただのアイテム狙いではないでしょうか?」

「明らかにあなた方を狙っていましたよ」

 ヴァレンティーナ様が言った。

「ですが、心当たりが……」

「なぜイフリートの角を狩りに来られたのです? 差し支えなければお聞かせ願えませんか? 部隊を引き連れてまで取りに来る代物ではないと存じますが」

 エンリエッタさんが言った。

「あの…… イフリートの角というのは炎属性の最高の触媒で、最高の武器を作るのに必要だと言われたのですが…… 違うのですか?」

 僕にした説明を姉さんはもう一度披露する羽目になった。


「そんな……」

 カーラ嬢を始め、従者たち全員が心底驚いて落胆していた。

「どういうことだ? 角と引き替えにミロ様の出兵免除を頂く手筈が……」

 ミロと言うのはカーラ嬢の弟で次期領主に収まるはずの少年らしい。

「出兵免除……」

 聞き捨てならない言葉が出てきた。

 領主の子息の出兵に関するあらゆる権限は王家と元老院に委ねられているものである。誰かが勝手に免除などできる代物ではない。

 溜め息が出た。

 また誰かが悪事を働いている。

 すぐに王都に使いが出された。

 返答が来るまでやることもないので、彼らの身に起きた話を詳しく聞かせて貰うことにした。


 話は一週間程前に遡る。

 あるとき前線から領主の元に嫡子の出征命令書が届けられた。

 三千の兵と共にミロ少年にくつわを並べるよう求める命令書だった。

「ミロの出征はそもそも国王陛下の温情で免除されていたんです。ミロは生まれつき足が悪く、一人で馬に跨がることもままならないので」

「書類は本物なのか? 陛下のサインはあったのか?」

 姉さんが言った。

「わたしは直接見ていません。でも父の秘書がサインは間違いないと」

「前線から命令書が来たというのもおかしな話だ」

「そうね。命令書は王都から送られる物だものね。陛下が前線にいるならいざ知らず」

「そっちも確かめた方がよさそうだな」


 王都からの知らせをここで待っていても、他の冒険者を驚かせるだけなので、結局スプレコーンまでご足労願うことにした。

 一行を来賓として領主館に迎えることになった。

 知らせが戻って来たのは、すっかり日が暮れた夕刻だった。

 僕は既に自宅にいて、そのことを知ったのは翌日の朝のことであった。


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