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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(イフリート再び)49

 十五人パーティーはどこかの領主のお抱え部隊のようであった。

 なぜイフリートなど狩っているのか甚だ疑問であったが、至って真剣な様子であった。

『地獄の業火』は既に使用された様子で、前衛の持つ豪華なナイトシールドがどれも溶けていた。魔法使いも前線から距離を置き、ひたすら回復に務めていた。

 イフリートももはや息も絶え絶えで纏う炎も輝きを失っていた。

 双方既に魔力が尽き果て、肉弾戦の様相を呈していた。備えがなければ、それでもイフリートの通常のアタックだけで燃え尽きてしまうのだが。

 終わりが見えてきたようだ。

 このまま十分も戦っていれば、勝敗は決することだろう。

 それまで保つかは前衛を見る限りギリギリの様子だったが、今休んでいる魔法使いたちが動き出せば問題ないように思えた。

 そんなわけで戦闘中の部隊は背中にアサシンが迫っていることに気付いていなかった。

 一瞬でけりが付いたせいもあるが、彼らに余所見する(ひま)はなかったのである。

 一人残ったアサシンは戦い疲れた連中の間をすり抜けイフリートの足元に潜り込んだ。

 そして何かを足に施した。

「何奴ッ!」

 パーティーの一人がアサシンを見つけた。

 槍で薙ぎ払いかけたそのとき、アサシンはイフリートに呆気なく討ち取られた。鋭い爪が背後からアサシンの胸を貫いたのである。

 十五人のパーティーはここで初めて別の事案が発生していたことに気が付いた。

 動揺が一気に広がった。

「心置きなく戦われよ!」

 そう叫んだのはサリーさんだった。

「アサシン共は我らが排除した」と言葉を続けた。

 すると先方から「かたじけない!」と声が返ってきた。

 どうやら僕たちがいることすら気付いていなかったようだ。

 部隊は落ち着きを取り戻し、戦うべき相手に視線を戻した。

「エルネスト、あの人たちを『地獄の業火』から守れる?」

 ヴァレンティーナ様が戦闘を眺めながら異な事を呟いた。

 みんながヴァレンティーナ様の下に戻ってきた。

 前方で突然、悲鳴が上がった!

 イフリートの相手をしていた連中が吹き飛ばされたのだ。

「どうなってるんだ!」

「陣形を組み直せ!」

「結界だ! 破られるぞ!」

「予備の薬を使え!」

 急に慌ただしくなった。

「ええと…… それはどういう?」

 僕はヴァレンティーナ様に聞き返した。

「あのアサシン、死に際に何かをイフリートの口に放り込んでいったのよ」

「まさか、それって死なば諸共って奴ですか!」

 ヴァレンティーナ様は頷いた。

 僕はイフリートを見据えた。

 言われてみると確かに炎の輝きが増している気がした。

 アサシンの奴、自分に必要なくなった回復薬を与えたんじゃ…… 一体何を飲ませたのやら。

 もはや復活は自明だった。死に損ないが蘇ったのだ。

「足元で何かしたようだけど?」

「『使役の首輪』だ」

 姉さんが言った。

「起死回生の一手、弱ったところで使役しようと試みたのだろうが、拒んだイフリートに返り討ちにあったわけだ」

「『使役の首輪』?」

「しばらくの間、敵を操ることができるレアアイテムだ。イフリートを使って、はなからここにいる連中をまとめて葬る気でいたのかもしれんな」

「『使役の首輪』なんて高いだけで、利用価値はないものと思っておりました」

 そう言ったのはルチア嬢だ。

「そもそも使役する者のレベルより十は下でないと命令は聞かず、仮に聞いたところで操れるのはせいぜい数分だとか」

 エンリエッタさんが捕捉した。

「アサシンたちのターゲットははなからあのパーティーのなかの誰かだったということかしらね。こっちを襲ってきたのは目撃者封じのため。急いでいたのはターゲットがイフリートを倒す前に合流したかったから、かしらね?」

 ヴァレンティーナ様が戦っているイフリートを見据えながら言った。

「だが、どうする? 置き土産のせいであのパーティーは危ないんじゃないのか?」

 姉さんが言った。

「『地獄の業火』を使ってくるかしらね?」

 しばし考え、ヴァレンティーナ様は歩を進めた。

「ギリギリまで近づきましょうか? もう少しそばで見たいわ」

 そういうことか。

 僕は万能薬を少し舐めて魔力を満タンにした。

 近づくと言ってもイフリートの行動半径は広い。戦闘に巻き込まれても困るのでその分の距離は置かないといけない。

『地獄の業火』が放たれ、彼らの敗北が決定した段階で、飛び込んで守れる位置が僕たちのギリギリの位置というわけである。非情に思えるかも知れないが、救援を求められない限り、横槍を入れるわけにはいかない。

 それが冒険者の不文律だ。

 幸いなことに、装備を見る限り『地獄の業火』が放たれた段階で即死する者は恐らくいないだろうと思えた。

 でもいつまで耐えられるかは疑問である。

 連中のリーダーは判断を迫られるだろう。いや、本来なら既にしていなければいけない。もう不測の事態は起きてしまったのだから。

 それとも戦えると判断したのか? なら何も言うことはない。

 始めから彼らの戦いを見てきたわけではないから、彼らのダメージソースがなんなのかこちらは知らない。魔法使いが復活次第、恐らく拝むことができるだろう。それで粗方、今後の予定が立つというものだ。

 槍の突き上げをくらいながら復活したイフリートは機敏に応戦していた。

「相当嫌がってるわね」

 サリーさんがイフリートを見て言った。

「あの槍、何か仕掛けがありますよ」

 ルチア嬢が自分の槍の先をイフリートに向けながら言った。

「電撃の類いだろう。一瞬でも意識が飛べば隙を作ることができる。深手を負わせるのはそのときだろう」と姉さんが言った。


 双方ほぼ同時に完全復活を果たしたようだった。あくまで魔力的にだが。

 イフリートはいつでも業火を放てる状況にあると見ていいだろう。

 魔法使いたちも立ち上がり、応戦の準備が整えられた。

 お互い、牽制し合い一撃を放つ機会を模索しているように見えた。

 姉さんがじれ始めた。

 姉さんの忍耐力はイフリート以下か!

 イフリートが傷付いた尻尾で前衛を薙ぎ払った。前衛が引いたことで距離ができた。

 イフリートは咆哮を轟かせ、勝利の雄叫びを上げた。

「ようやくか」

 姉さんが呟いた。

『地獄の業火』が放たれた。

 熱波がこちらまで押し寄せてくる!

 槍兵たちは急ぎ、盾持ちの後ろに退避した。

 それを守るように魔法使いたちがさらに後方から結界を張った。

 抜かれるか…… 抑えられるか…… 

 しばらくすると盾持ちが何人か膝を突いた。長期戦の疲れが出たようだ。

 戦場の魔力の流れがわずかに乱れ始めた。

 普段なら修正可能なわずかな乱れのはずだった。だが、乱れを抑える余力のある者がいなかった。乱れは次々波及して、結界にほころびが生まれた。

 隊は徐々に後退し始めた。

 イフリートは敵の衰えを見逃さなかった。炎を吐くため踏ん張っている足を一歩踏み出した。

 炎が大きく揺れて、対峙していた結界が乱れた。

 一瞬の安堵の訪れ、そして強力な揺り戻し。

 結界は崩壊した。

 盾を構えていた数人が炎に見舞われた。回復役がすぐに治療を施したが、すぐには前線に戻れない。

 魔法使いが必死で持ちこたえるが、こうなるともはや待っている未来は全滅だ。

「撤収する!」

 ようやく諦めが付いたようだ。


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