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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(イフリート再び)48

 どうやら魔除けのせいで砦内のカークスの配置がずれているようだった。

 門での増員は、臭いを避けて出口付近に集まっていた砦内の連中だったらしい。

 おかげでただでさえ手薄な砦内がもぬけの殻になった。

 先行組とルートが一緒なら、僕たちの移動は残り香に沿ったものになるので、尚更であった。

 楽な移動だったが、罠でも仕掛けられてやしないかと心の内は真逆だった。


 火口付近の最後の扉の前にいた二体は扉を開いて臭いを逃がし、難を逃れたようだった。そのせいで戦闘を余儀なくされたようだ。

 扉の外に回収されなかった数本の投げナイフと魔石が一緒に転がっていた。

「毒か……」

 サリーさんがナイフの刃先を確認した。

 でもこれで狙いがヴァレンティーナ様でないことが判明した。

 もしヴァレンティーナ様が狙いなら状況はもっと隠蔽されていて然るべきだ。魔石を回収していないところを見ると時間に追われているようだ。

 この先進んでも、イフリートはもう狩られているかもしれない。

 目の前で揺らめく神殿を見つめながら、進退に迷っていた。

 火口が真っ赤に燃えているせいで神殿内を見通せない。

「観光だと思えば苦にならんだろ。遺跡探訪と行こうじゃないか」

 姉さんが火口の向こう側にゲートを開いた。


 無愛想な彫像が僕たちを見下ろしていた。相変わらず天井が高い。

 僕たちは神殿の入口に辿り着いた。

「大したものだ」

 姉さんがアイシャさんと同じことを言った。

「まだ反応がある!」

 ルチア嬢が言った。

 イフリートはまだ生きている!

 僕たちは反応のある洞穴に急いで向かった。

「静かに!」

 大部隊だった。一五人程の一団がイフリートを取り囲んで戦っていた。

「あんなに?」

 大部隊が通った足跡はなかった。

「恐らく別ルートから侵入したのでしょう」

「だとすると我々の前を行っていたパーティーは?」

 目を皿のようにして探すと、物陰に隠れた一団が大部隊のすぐそばまで迫っているのが見えた。

「あの旗は……」

 ヴァレンティーナ様が口元に手を置いた。

「レジーナ、あの辺りに風を起こしてくれるかしら。大部隊には気付かれないように」

 あの距離は順番待ちをするには近すぎる。

 獲物を横取りする腹だろうが、見てしまった以上、見て見ぬふりはできない。向こうは隠す気満々だったようだが、こちらの目がよ過ぎた。

 手を引くかと思ったら、そうはならなかった。

 彼らは矛先を変えたのだ。

「気に入らんな」

 アサシンの一団はこちらの方が与し易いと感じたようで、こちらを取り囲むように散開した。

「毒に気を付けろ!」

 エンリエッタさんが剣を構えた。

 敵は六人。でも動いたのは五人だけだった。

 どうやら僕かヴァレンティーナ様のどちらかが勘定から抜けたようだ。

「エルネスト、明後日の方を向いているからお願いするわね」

 ヴァレンティーナ様が呟いた。

 ああ、そういうことか。ヴァレンティーナ様はわざと敵が見えていない振りをしたんだ。敵はそれを見て、ヴァレンティーナ様を勘定から除いたんだ。いつでも倒せる雑魚だと判断して。

 ガン見してた僕は駄目だ。

 ヴァレンティーナ様はイフリート戦をしているパーティーを見つめている。

 投げナイフが五人から一斉に飛んできた。

『結界砕き』を警戒して念のためダミーの層を五層分用意したが、一つも突破されることなくすべて弾くことができた。

 これであちら側に「戦闘の意思あり」と見てとることができる。心置きなく戦えるというものだ。

 投げたナイフが弾けて、敵の足が一瞬、止まった。

 次の瞬間、横合いから現れたエンリエッタさんに一人目の首が刎ねられた。

 仲間の早すぎる死に動揺した別の男が余所見をしている間にこちらもサリーさんに詰め寄られた。サリーさんの初撃を弾き返すかと思ったら、あっさり鎧の隙間を貫かれた。

 二人目は前のめりに倒れ込んで動かなくなった。

 サリーさんの変幻自在な剣は初見では避けられなかったようだ。

 ルチア嬢の方はもっとあっさりしていた。

 一気に間合いに踏み込んだかと思うと横一線、薙ぎ払って終わりである。

 彼女の間合いはカークス相手でも遠く感じる程長かった。大概、対戦相手はまだ間合いの外にいると勘違いしたまま倒されていくのである。

 目の前のアサシンもナイフを投げようと構えたところをこめかみに重い一撃を食らって膝を突いた。

 姉さんを相手にした奴は凍らされて、いつものように恐怖を味わいながら死んでいった。

 今回の姉さんのやり口は初めて見る方法だった。設置型の罠のような、近づいたら発動する、そんな条件付けをされた広域魔法だった。

 魔法に詳しくない者には結果だけを見ると、詠唱する魔法と何が違うのか分からないだろうが、恐らくこの方法だと敵は殺気を微塵も感じなかったに違いない。突然攻撃を食らった感じだろう。

 凍り付いたところを杖で砕かれ、反抗もできずに処理された。

 そして残りの一人は僕を目指す。

 が、お仲間を一人残して全滅してしまったことで、剣先は大いに鈍っていた。

 僕はみんなと違って結界ギリギリのラインまで、わざわざ迎えに行くことはできなかった。

 何せ結界の中心だから、敵が結界を突破してきてくれないことには剣を交えることができないわけだ。

 しょうがないので雷でも落とそうとしたら、姉さんが横合いから凍らせた。

 そしてできあがった氷のオブジェをエンリエッタさんが破壊した。

 地面の熱で死んでいった者たちに火が付いた!

 戦闘に参加していない最後のひとりの姿が消えた。

 何処に行った?

 僕はわざと周囲の魔力分布を乱した。姉さんも同じことをしていた。

 すると隠れているひとりを炙り出すことに成功した。

 結界を破れないと悟った男は戦闘中の部隊に紛れてイフリートに何かする気でいるようだった。


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