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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(イフリート再び)47

 さすがと思える連携でカークスを仕留めながらエンリエッタさんたちは前進する。

 僕は結界の範囲に気を付けながらみんなの後を追い掛ける。

 僕たちののんびりした狩りと違って動きは俊敏。でも手数は僕たちより掛かるので、終わってみればトントンといったところだが、敵が何体いてもほぼ進撃速度が変わらないのは訓練の賜物だ。

 敵が複数になるとルチア嬢の槍術のレベルが跳ね上がるから見ていて面白い。三体以上になったときや、敵に増援が来たときは姉さんが動き出す。その場合は大概一撃で終わりだ。ヴァレンティーナ様は僕の隣で全体を黙って見ている。フォーメーションが崩れたり不手際があると戦闘後に即反省会だ。隊に戻れば指導者側になるのだから、和気藹々としながらも皆真剣だ。

 そして僕たちは例の砦の入口に辿り着いた。

「エルネスト」

 ヴァレンティーナ様が前回の侵入時の状況説明を求めてきた。説明は一回してるのだが、改めてというところだろう。

「門の前と上に二体ずつ。巡回は四体で、櫓の上に一体ずつ。奥はスカスカで通路の見張りが数人程度、外には出てこない」

「討伐方法は?」

 エンリエッタさんが聞いてきた。

「見張りを騒がせて、出てきた連中を全員落とし穴に。門の上は銃と魔法で。櫓の敵はヘモジを侵入させて柱を折らせて始末しました」

「ええ? 櫓を? ヘモジって野菜売り場に遊びに来る変な小人ですよね?」

 ルチア嬢がそう言った。

「あれはこいつの召喚獣だ」

 姉さんの説明にルチア嬢は目を丸くした?

「召喚獣…… あれが?」

「あれでファイアードラゴン相手にタイマン張ってるのよね」

 僕もいましたけどね。

 ヴァレンティーナ様が面白がった。

「ええっ?」

「でかくなったら今戦ってるカークスより大きいんじゃないか?」

 姉さんまで。

「もしかして隊長が市場の警備をたまに省くのは――」

「ヘモジがいれば市場も安全だからな」

「そうでしたか」

 どういうことだ、主人より信用があるって?

「同じ手で行きましょうか。ヘモジの代わりは……」

「わたしがやろう」

 姉さんが引き受けた。


 門番の二体の足が撃ち抜かれた。

 まるで記憶を繰り返すかのように敵は同じ行動を取ってきた。

 門番はうずくまって叫び散らす。

 門が開き、なかにいた連中が挙って飛び出してくる。

 門の上にいる二体の息の根を止めたところで僕たちは姿をさらす。

 敵はいきり立って武器を振り上げ、こちらに向かって一斉に駆けてくる。

 次から次、次から次…… ええと…… なんか数多くない?

 予定の倍程のカークスが門から出きったところを見計らって、僕は落とし穴の蓋の強度を取り払った。

 悲鳴と土煙を上げてカークスの集団が深い穴に落ちた。

「突入ッ!」

 ヴァレンティーナ様の合図で門のなかに全員飛び込んだ。

 姉さんは一番近い櫓の足元に駆け寄り、柱に手を当て凍らせた。

 実践において、櫓の足元には大概、対魔法障壁が展開している。ただ魔法をぶち込んでも余り効果がないので、姉さんのようにゼロ距離攻撃を仕掛けるのがセオリーになっているのだが…… わざとか?

 森林伐採のときに使った氷結魔法を叩き込んだ。

 柱が自重に耐えきれなくなってメキメキと音を立てた。

 上にいるカークスが姉さん目掛けて岩を落とそうとしている。

「姉さんッ!」

「気にするな」

 落とされるタイミングを見計らって、次の櫓に向かって走り出した。

 目標を失った岩は櫓の足元に落下し、その振動を以て凍った柱の崩壊の手助けをすることとなった。

 他の櫓から岩が投げ込まれた。姉さんにではなく、こちら目掛けて。

 ルチア嬢が回避しようと結界を飛び出しかけたところでサリーさんに腕を掴まれた。

「大丈夫だ。迎撃するぞ」

 僕の結界は岩を易々と弾き返した。

 サリーさんは武器を剣から銃に持ち替えた。ルチア嬢も持ち替えた。

 そして空手になったカークスを狙い、二撃を以て仕留めた。

「もしかして守備隊の必須スキルになってます?」

「『チャージショット』を新人の基礎訓練に組み込んだのはエンリエッタ団長だよ。今やうちの定番スキルだ」

「民間人が狩りで使いこなしてるスキルを守備隊が使えないでは笑われますからね」


 姉さんが取り付こうとしていた櫓は少し遠かったせいで敵に準備をさせる時間を与えてしまっていた。

 ヘモジならミョルニルを横一線に薙ぎ払えば済むことだが、姉さんはそうはいかない。

 僕が銃口を向ける前にエンリエッタさんたちが牽制を加え始めた。

 姉さんは敵がひるんだ隙に足元に潜り込み、柱を砕いた。

「なんでわざわざ面倒なことしてるわけ? 姉さんなら魔法で一撃だろ?」

「これも訓練の内だ」

 汗を掻きながら戻ってきた。

「目標を持ってことに対処せよ」

 ヴァレンティーナ様が言った。

「ルチアは魔法使いと余り組んだことがないから、レジーナ様に頼んで攻城戦における標準的な動きをして貰ってたんだ」

 サリーさんが言った。

 カークスの丸太を組んだだけの櫓には障壁はない。遠距離魔法で一蹴できる。でも対人戦における攻城戦ともなると、当然結界で補強が施されているから、近距離から斧か魔法をうち込む必要が出てくる。それを実践したのが姉さんの動きというわけだ。

「姉さんのやることは余り参考にならないと思うけど」

「それを言うならお前もだろうが! なんだ、あの馬鹿でかい穴は」

「そう言えばまだとどめ刺してなかった!」

 門の外を見ると仲間を踏み台にして数体が這い出してきていた。

「言ってた数より多いわね」

 ヴァレンティーナ様が呟いた。

「時間帯が違うからですかね?」

 前回とスタート時間は変わらないが、地下に立ち寄った分、きょうは出遅れている。

「理由は兎も角、なんとかしましょう。挟み撃ちにされては困りますから」

 エンリエッタさんが行動を起こした。

 サリーさんたちが後に続いた。

 僕も少し運動して事後処理を行なった。

 魔石の回収を済ませると、前回とは違うシチュエーションを考慮しながら先を急ぐことにした。

 そして要塞の通路に侵入して早々、原因を突き止めた。

「この臭い……」

「魔除け?」

「別のパーティーが潜入してる?」

 思いがけない障害が現れた。

 それも魔除けを使って、敵を倒した様子もない…… どう見てもこのやり口はアサシンだ。

「厄介だな」

 姉さんも爪をかんだ。

 みんなはアサシンの隠遁を見抜ける目を持っているのだろうか?

「エルネスト」

「何?」

「お前、どれくらい見えるんだ?」

 姉さんが単刀直入に聞いてきた。

「ロザリア付きの教会の護衛が見えるぐらいかな?」

「おまッ! ナナシたちが見えるのか?」

「何? 姉さん、ナナシさんたち知ってるの?」

「当たり前だ! 事前に通達がなかったら殺し合いになってる!」

「おかげで我が家は警備いらず」

「そういうことを言ってるんじゃ――」

「エルネストも見えるなら問題ないわ。進みましょう」

 ヴァレンティーナ様のお命頂戴とか、物騒な連中でないことを祈りつつ僕たちは通路の先を目指した。


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