エルーダ迷宮征服中(イフリート再び)45
そして最初の噴火スポットに差し掛かると空が…… 青かった。
こりゃ来るね。
僕は下流を避けて尾根の方に進路を変えた。
案の定、上手で噴火が起こって真っ赤な溶岩が下流に流れ始めた。僕たちがいた辺りはじわじわと進入禁止エリアに浸食されていった。
「結界がなきゃ、大変そうね」
盾も装備してないヴァレンティーナ様が暢気に言った。
ようやく最初の洞窟が見えてきた。
「転移します」
僕はゲートを開いた。
姉さんが躊躇することなく先頭で通過した。
次にサリーさんが行き、ルチア嬢が続いた。ヴァレンティーナ様がその後ろを行き、エンリエッタさんが続いた。全員が出た頃合いを見計らって僕も突入した。
「相変わらず便利なものね」とヴァレンティーナ様が姉さんに話し掛けていた。
「中を通過します」
フライングボード付きの魔法の盾はユニコーンズ・フォレストの通常装備なんだから飛んでいけばいいのにと思うのだが、それでは訓練にならないと酔狂にも地上を行く予定になっていた。
飛ぶのが苦手な領主様に配慮してのことだろうが、中を探検したいという率直な要望もあったので従うことにした。
前回も丘の上にいたファイアーマンが姿を現わした。相変わらずトリッキーな動きを見せながら坂の上から駆け下りてくる。
そして裾の包帯に溶岩が触れると突然燃え上がって錯乱状態に。
「自爆か?」
サリーさんが盾を構えた。
勢いを増して急接近してくる。
「あら、ただのマミーじゃなかったのね」
ヴァレンティーナ様は暢気に笑った。
次の瞬間、ファイアーマンの首が飛んだ。
ルチア嬢の『スティンガー』の踏み込み一発でけりが付いた。
なるほど長物の武器を使えば、熱い敵も見切れば倒せるのか。
当たり前のことだが新鮮だった。
ロザリアも長物のランス持ちだが回復役だし、『グングニル』は付与狙いのほぼ飾りだから、前線で殴り合うことはほとんどなかった。
ナガレの長物『ブリューナク』も魔法主体で物理的な使い方をすることはなかった。
唯一ヘモジの『ミョルニル』が該当しそうだが、あれは反則だ。長くなったり短くなったり変幻自在だ。
そういうわけでヘモジを抜きにすると、うちのパーティーで長物を正当に扱う姿を見ることは稀なことであった。
関係ない話だが、ロザリアの杖も順調に進化を始めているらしく、その内『グングニル』に取って代わるだろうとのことであった。
兎に角、俊敏な動きで翻弄してくる面倒な相手、ファイアーマンの殲滅担当ができたので、この先、気持ち的に大分楽になった。
一行は魔石になるのを待たずに先を進んだ。
最初の洞窟は壺が一つだけあるあの場所だ。火蠍が散発的に襲ってくるだけだったので、姉さんが簡単に処理していった。
壺の中身は今日も金貨が三枚だけだった。おまけの宝石も入っていなかった。
それにしても出口で狩りをしている連中はここに壺があることを知らないのだろうか?
会釈する程度の挨拶をすれ違い様、冒険者たちと交わして地上に出た。
地上ではしばらく火蜥蜴との戦闘が続くと思われたが、先客がいたようでほぼ狩り尽くされていた。
次の洞窟に到着すると、同じ場所に一緒にお茶をした冒険者たちがいた。
今日のところは手を振るだけにとどめ、先を急いだ。姉さんを知っていたのか、数名が青ざめていた。
二つ目の洞窟に入った。
道を進むと天井に大穴が空いた開けた場所に出た。
見上げるとやはり空が青かった。
すぐにドンと地響きがして周囲の壁や床が揺れた。
「二度目はさすがに間抜けだな」
穴の向こうに噴火した真っ赤な溶岩が見えた。
一度目の面々は一瞬顔色を変えた。
洞窟の奥から熱風が吹き込んできた。
「こっちには行くなということよね?」
姉妹揃って同じことを言う。
「こっちです」
僕は出口に続くルートを案内する。リオナと結構彷徨った場所だ。
確か火蟻が出るんだよな。
遠くで石が崩れる音がした。
「火蟻がきます」
僕は少し先行して、蟻の処理は任せて奥の巣穴を塞いだ。
出てきた蟻は姉さんが凍らせ、サリーさんが砕いた。
地面が冷えてきたせいで洞窟のなかが暗くなってきた。
僕は懐中電灯を付けた。
「随分明るいな」とサリーさんが言った。
「純度の高い石を使ってるので」
僕はそう言ってサリーさんの懐中電灯と交換して、持っている光の魔石と入れ替えて返した。
実際は交換などしないで不純物を取り除いただけなのだが。
それをまた交換する。
上り坂を抜けた先に、出口を見つけた。
地図を覗き込んだ。
既に出口の位置は修正済みである。マップ情報より少し先に出るのだ。マップ情報の出口は上から確認しただけなのか、間違ったままになっている。恐らく穴はあるのだろうが。
それともルートが別にあってあっちに出るのか。
少し行ったところに切り立った段差の多い荒野がある。
「この先、火蟻の大群と出くわすんだけど? どうしますか?」
「どうするとは?」
姉さんが聞いてきた。
「ええと、洞窟のなかに火蟻を罠に掛ける場所があって、そっちの罠を作動させてからだと地上に蟻は出てこなくなるんだ。でも行って戻ってこないといけないんだよね」
「お前はどっちがいいと思う?」
「姉さんたち次第かな。火蟻の大群と戦い慣れてるならこのまま進んでもいいし」
「ならこのまま進むとしよう」
洞窟を一つ飛ばして地上を行く選択をした。
荒野に入ってしばらくするとカサカサと嫌な音がし始めた。
「ちょっとここで戦闘になるわけ?」
ルチア嬢が不安がる。
周囲を岩壁に囲まれた一本道。逃げようがない場所だ。
蟻がワサワサと湧いてきて周りを取り囲んだ。
だが姉さんが範囲魔法を二発撃ち込んだ。
氷の魔法で氷結して、続け様に衝撃波で氷を砕いた。
一瞬で蟻軍団を滅した。
「へー、器用なもんだ。今度うちでもやってみよう」
「お前たちはどうしてるんだ?」
「雷落として放置。そうすると周りを巻き込みながら自爆してくれるからそれを待って、生き残りの相手をする感じかな」
「随分と安い手だな」
「いやー、ベテランの戦術は参考になるな」
「ベテラン言うな!」
「年季の入った――」
げんこつを食らった。
「先行くわよ」
もう狩り尽くしたか。
後ろの方で太陽が照り始めた。
「後ろで噴火するよ」
全員立ち止まって振り返った。
すると空を飛んでいた鳥たちが僕たちの頭の上を通り過ぎた。
空高く火柱が上がった。
「おおっ!」
僕たちが通ってきた谷間が真っ赤に焼けた溶岩で埋まっていった。
目的地の洞窟に辿り着いたところで、休憩を入れた。
僕はテーブルと椅子を作り、持ち物のなかからティーポットとクッキー缶を取り出した。
「いつもこんなふうに休憩を取っているのか?」
エンリエッタさんに尋ねられた。
「どこか変?」
「いや……」
エンリエッタさんたちはどうやら地べたに座り、焚火を囲むスタイルが慣習になっているようだ。
土魔法が使える魔法使いがそばにいるなら利用しない手はないと僕は思うのだが。
ポットに水を入れ、一瞬で温めた。それをリオナのキャンプセットのティーカップに注いで器を温め、改めて作ったお湯でお茶を注いだ。砂糖を放り込み、皿にクッキーを並べた。
「こっちがミルク味、こっちが砂糖で、こっちがチーズかな? これはバター多めで、これはなんだったかな?」
呆れた目で見られている。
確かに場にそぐわないかもしれないが……
でも僕たちにはいつものことだし。
パーティーの持つ個性の違いということで納得して貰いましょう。




