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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第三章 ユニコーン・シティー
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ユニコーン・シティー11

 街道を通り越した先に、大きな門扉に塞がれた、舗装された小道がある。

 生け垣代わりの暗い森を抜けると、平らな土地が随分と広がっているのが見える。

 案内された場所は小さな湖畔であった。

 案内したのは姉さんに委託された、王都の不動産担当者である。

 この池の水が滝まで流れ込んでいると言った。

「どう見ても町のなかじゃないよな」

 道なりに進むと湖畔の一角に僕たちの新居があった。

「城の方に人員を取られておりますので、こちらは庭の造成を先に済ませております」

 この池が庭の一部?

「池を中心に囲む様に家屋を建て増していきます。現在建設中の西側の建物。あちらは獣人たちとの交流のための公共スペースになります。長老議会の会議室、育児施設に診察所など、言うなれば福利厚生施設になっております」

 それは真四角のガラスの箱だった。

 今は黒いだけだが、昼間は空の景色が反射して美しく映える建物なのだそうだ。ちなみに大浴場完備らしい。温泉付きで、入浴料は一回五百ルプリとお高めだ。混雑することを想定しての値段らしい。子供は無料だが、大人同伴が原則だそうだ。

 さて、目の前の新居だが木造平屋建ての手頃な物件になっていた。厩舎が併設され、馬車専用の小屋まで完備されている。ガラスの棟に比べたら小さな家だったが、住むにはちょうどいい大きさだった。

 エントランスを入るとそこはもう居間になっている。左手が水回りと食堂、その奥が使用人部屋。二間に小さな台所が付いている。玄関の右手は居間に日差しを取り込むための大きな窓。奥に進むと僕とリオナの寝室がある。

 玄関の対面、居間の壁に扉があり、そこから中庭に出ることができる。

 食堂と使用人部屋への日差しを考慮したものと思われる。特に何かがあるわけではない。

 その中庭を挟んだ裏手に物置部屋がある。他の部屋と違って安普請になっているわけではないのでそこにオズローを押し込めることにした。結果的に一番広い部屋を占有したわけだが、図体がでかいのだからちょうどいいということになった。

 ここまでなら、なんの問題はないのだが、姉が手配した家である以上これでは終らない。そう、地下室である。小さな道場が開けるほどのスペースがあった。

 初めて見たものは驚くだろう。オズローは正直に驚いている。

 狭い敷地ならともかく、広い敷地があるのに、地下室など作る必要があるのか?

 結果的に物置小屋に押し込むはずの荷物を地下に仕舞うことができたのだから姉さまさまではある。

 ここで終れば最高なんだがなぁ。

「まずは本宅を池の東側、ガラスの棟と池を挟んだ対岸に建設いたします。さらに池の北側に客室と使用人たちの宿泊施設、南側に訓練施設と研究棟を建設する予定にございます」

 担当者に建設予定の概略図を見せて貰っている。すべての棟を回廊で結ぶ設計らしい。

「これって中止できないの?」

「すでに代金を頂いておりますので。全国に資材の発注も行っておりますし、工夫たちの日程も押さえてございますから。すでに使った金額を考えますと」

「作った方が得か……」

 担当者は頷いた。

 姉さんに頼まれた手前、彼も今更断わられたら気が気ではないだろう。まぁ、どんなものができるかお手並み拝見といったところか。

「完成日は?」

「冬までという契約になっております」

「突貫工事ですね」

「お任せください。必ず良いものにしてご覧に入れます。」


 担当者は家の鍵をおいて帰っていった。

 僕たちは荷物を搬入すると着替えをして、早々に館に戻った。

 

 

「話は聞いたが、まさかそんなことになっていようとはな」

 昔通りの席順で僕たちは食卓を囲んでいた。

 アンジェラさんとエイミー、オズローの席は僕の隣だ。

 フィデリオはリオナのジャングル部屋で寝ている。

 オズローと、さっきエントランスで見た受付嬢、もとい、近衛騎士団の新人ルチア・アバーテがリオナの席順に若干の疑念を持っていた。

 もっともリオナ本人もうちの姉さんに席を替わるように頼んでいたから、姉の悪巧みだと解釈したかもしれない。姉曰く、「そこは窮屈だ。小さいのがちょうどよい」だそうだ。

 僕たちは改めて、『草風』とその妹を襲撃した闇蠍のこと、道すがら倒した数匹のこと、中継所の指揮官が話した現状などをその場にいる、ヴァレンティーナ様や姉さん、エンリエッタさんたちに話して聞かせた。

 そして『草風』の親父さんからの伝言も伝えた。

「あんた約束どうなってんのよ?」

 早速姉さんが突っ込んできた。

「向こうから訪ねてきたんだから、不可抗力だろ?」

「『草風』の妹、かわいかったのです」

「姐さん、俺ここにいてもいいのかな?」

 オズローはでかい身体を小さくしてアンジェラさんに助けを求めた。

「みんな身内みたいなもんなんだから、でんと構えていればいいのよ」

 最年長者のアンジェラさんは余裕綽々だ。

「日程はどうなさいますか?」

「明日旗を揚げて、明後日会うことにしよう」

「ではそのように」

 ヴァレンティーナ様とエンリエッタさんが短く事務的な会話を交わした。

「即決ですか?」

「リオナがいれば大丈夫よね」

 姉が妹を見下ろした。

「お友達です」

 せめて姉さんだけでも同行できれば安心なんだが…… そうもいかないか。

「獣人との話はどうなったのかしら?」

 アンジェラさんが尋ねた。

「まず移住は三つの村を合せて四百二十七人。戸数にして約七十。それプラス、希望者ってところかしらね。各村の長老たちに森の監督者になって貰うわ。長老議会といったところね。と言っても各村二人ずつの六人の集まりだから身構える必要はないわ。気のいいおじいちゃんたちだから。一応、形ではあなたが代表者になってるけど、長老たちがみんなやってくれるはずだから気にする必要はないわ。アンジェラもいることだし、気楽にやんなさい」

「そうします。で、いつ頃会えますか?」

「長老たち代表団はもう来ているから、明日辺りそっちに顔を出すんじゃないかしら?」

 明日は、部屋の整理やら足りないものの買い物出しやらをしないといけない。

 オズローのギルド登録もできればいいのだが…… 急ぐことはないか。

「そーだ。公共のポータルってアルガスからだといくらですかね?」

「アルガスとは片道二千で手を打ったわ。帰りはギルドのゲートを使えばいいから」

「距離ありすぎませんか?」

「新しい結晶あげるわ。ここからだと使える町はアルガスしかないけどね。冒険者ギルドもすぐには来ないから、通いになるわね」

 ヴァレンティーナ様が姉さんと目配せをした。

「あんたとリオナはいいとして…… そこの男とアンジェラの分はどうする?」

「あたしはギルドの人間じゃないから、ポータルを利用させて貰うわ」

「お、俺も……」

「トラはギルドに入るから無料なのです」

「おう?」

「あら、入ることに決めたの?」

 ヴァレンティーナ様が聞いた。

「ま、まだ決めてません!」

 オズローはたじたじだ。

「冒険者なら往復四千ぐらい目じゃないわね」

 毎日となればじわじわと効いてくることになる。獲物に会えない日だってあるのだ。往復する代金で宿にだって泊まれる。この町が有料になったら、それなりの依頼をこなさないとやっていけなくなる。冒険者ギルドがいつ来るかに掛かっているのだ。

 話はとりあえず終った。


「姉さん、ちょっと教えてほしいことがあるんだけど」

 散会するとき僕は姉さんに声を掛けた。

 転移結晶の原石の魔力吸収の止め方、もしくは魔力の開放の仕方。そのための術式について教えて貰うためである。魔力開放の方は僕の願望にも直結している。

「解毒薬一瓶」

 姉さんは交換条件を提示した。

 どのみち作る気でいたので僕は頷いた。闇蠍狩りには必需品になるはずだから。

 ついでに普段使っているものより強力な回復薬もだ。完全回復薬が理想だが、さすがにそこまでは。

 マギーさんに頼んで、保管庫に預けたままになっている材料の一部を出して貰い、僕たちは家路に就いた。


 その夜のうちに僕は薬品作りとオズローの鎧に付与して眠りに就いた。


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