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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(イフリート戦)37

 僕たちは神殿の入口に辿り着いた。

 振り返ると真っ赤に煮えたぎった火口が僕たちが落ちてくるのを待ち構えている。

 当然、進入禁止エリアである。

 ここに到達するには本来、火口の外周を半周しなければならない。他のパーティーより軽装な僕たちであっても、うねるように階段が続く道を行くのはつらいはずだ。

 火口の照り返しがきついので急いで神殿のなかに入った。

 天井がやたらと高い建物だった。

 岩肌を彫って作った無数の彫像が僕たちを見下ろしていた。

「たいそうなものじゃの」

 アイシャさんが誰も来ない場所に随分無駄な装飾を施したものだと皮肉った。

「いよいよこの先だ」

 僕たちは反応のある洞穴の手前で装備を整え、最終確認を行なった。

 僕とロメオ君は盾を取り出した。『地獄の業火』対策である。三割増しの威力がどの程度か分からないので使い捨ても視野に入れておく。

 アイシャさんは普段使わないような豪華な装備を身に着けた。

 エルフらしい繊細な装飾を施されたサークレットである。

 名を『暴君の冠』と言うらしい。なんと魔力が二倍に跳ね上がるとんでもないアイテムだった。結界も魔法攻撃力も二倍である。

 普通の人が使っても高が知れているが、アイシャさんが使うとなれば、まさに暴君。

 これまでの稼ぎをなんに使っていたのかと思えば、桁違いの買い物をしていたわけである。

 全力で使うと命懸けになるらしいので、あくまで緊急回避用らしい。いざというときのために余裕を持っておこうというわけだ。

 ヘルメスが頂点などではなかったのだな…… 上には上があるようだ。

 因みに『暴君の冠』は他のがさつな種族では扱いきれないらしい。僕も貸して貰ったが頭が痛いだけだった。

 ロザリアはこの間里帰りしたついでに札を幾つか用意してきたらしい。

 魔力を増加させるため地面に貼り付ける自陣用の札と、敵の動きを拘束する敵陣用の札とだ。

 敵陣用の札は今回貼り付けに行くことはできないと思うが、自陣用の札はこのフロアの膨大な魔力を味方に付けるものだ。

 僕の結界の魔力供給源と被ってやしないか?

 このフロアに充満する魔力量は僕たちが消費する程度で枯れる代物ではないとアイシャさんが言った。

 これによってアイシャさんの魔力は普段の二、五倍ですよ。イフリートとどっちがボスか分からない。

 敵用の護符を適用できれば、イフリートが得るはずのフロア効果分ぐらいは帳消しにできるらしいのだが、今回はいらないだろう。

 ロザリアも護符を手に入れるために随分お布施を払ったらしい。

 リオナはランタンを敵の前方に配置するイメージトレーニングをしている。どれ程の効果があるのか、ないのか未知数だが、取り敢えず結果は見てみたい。

召喚獣連中は特に何もない。宿主の魔力次第だ。

 今回はナガレが重要な位置を占めるので、魔力の補充を欠かさないようにしなければならない。

 リオナもランタンを配置したら戦闘ではなく、ナガレの支援に回るらしい。ダメージソースとしては今回ナガレに分があるのは確かである。

 リュックのなかで蚊帳の外になっていたオクタヴィアにも重装備をさせた。ドラゴンの革で作った寝袋のような袋に押し込み、同じ素材で作った頭巾を被らせた。

 かわいさだけならその頭巾姿はもううちのパーティーで一番だ。

 単体戦だと出番がなくて可哀相だが、警戒要員は一人でも多い方がいい。

 僕はと言えば、杖が結界で使用中になるので、投擲用に水の魔石(大)で作った例の新型弾頭もとい、鏃を用意した。ざっと五十発だ。

 どんどん投げ込んでやる。

 リオナにも分けてやろうと思ったが、ナガレの補充用の水の魔石と間違えそうなのでやめておく。

 さあ、いざイフリート戦である。


 盾を持った僕とロメオ君を戦闘にイフリートがいる神殿奥の大空洞に入った。

「うわっ、足場がないよ」

 床は軒並み溶岩地帯である。接近するルートもほぼ決まっている。

「先制する! その間に一番広い足場に陣取れ!」

 ロメオ君とアイシャさんと僕が一斉に攻撃を入れると全員全力で走った。

 攻撃はすべて命中し、真っ赤に燃えていたイフリートが凍りついた。

 陣地を構築しようとロザリアが札を地面に貼り付けようとしたときだった。

 氷から脱したイフリートが猛烈な勢いで燃え始めた。

 雄牛の頭にカークスのような巨体。尻には鰐のような尻尾が生えており、溶岩のように全身が赤く燃えていた。指より長い鋭い爪の生えた筋骨隆々の二本の腕が目に付いた。

 雄叫びを上げ、ドラゴンがブレスを吐くときに見せる喉袋を膨らませる動作と同じ動きを見せた。

 タイミングよくアイシャさんが氷槍を顔面にぶつけた。結果、ブレスは僕たちの頭上をかすめて後方に逸れた。

 爆発が起きて、周囲が燃え上がった。

 余りの高温で洞窟の壁も天井が真っ赤に燃えている。

 僕は結界の威力を増した。

 今の『地獄の業火』だよな?

 炎は結界の外で消えることなくまだ猛威を振るっている。

 炎の渦が空間の隅から隅まで食い尽くそうと暴れていた。

 僕の魔力が徐々に食われている。

「一回きりだって言ってたよね?」

 ロメオ君が言った。

「いきなり奥の手を使って来るなんて、礼儀を知らない奴ね!」

 ナガレ、文句はいいから自分の仕事しろよ!

 様子を見て無理そうなら撤収なんて、気楽に考えていたら、今頃あの世行きだったな。

 イフリートは無傷な僕たちを見ていきり立ち、間髪入れずに炎を吐いてきた。

 が、今度の炎は『地獄の業火』とは雲泥の差だった。障壁一枚剥がされなかった。

 遠距離が効かないと分かると、いよいよ鋭い爪で接近戦を仕掛けてきた。僕たち全員を鷲づかみにできそうな手だ。

 僕たちは応戦すべく身構えた。

 口のなかに鏃を放り込んでやる!

 突然、リオナの持っていたランタンが青白く輝きを増した。

 そしてイフリートが纏う炎をランタンの青白い炎が食い尽くしながら、逆にイフリートを飲み込んでいった。

 イフリートはまるで今にも窒息するかのようにもがき苦しんだ。自ら生み出していただろう溶岩の床に片足を突っ込んだ。突っ込んだ溶岩は急激に冷えてイフリートの片足を拘束した。

 周囲の温度が見る見る下がっていく。

 イフリートの輝きも瞬く間にしぼんでいった。

「参ったな……」

 余りの威力に閉口した。

 目の前にいるのはもはやただ吠えるだけの巨大な雄牛にすぎない。炎は青白く、イフリート自体を拘束している。

 アイシャさんとロメオ君の攻撃がイフリートの頭にクリーンヒットした。

 威圧感たっぷりだった雄牛の大きな二本の角が折れた。

「とどめだ」

 僕は鏃を投げた。

 鏃は一直線に飛んでいき、顔面に命中した。

 イフリートは膝を突いて倒れて動かなくなった。

「ええと……」

「勝った?」

「勝ったですか?」

「もう終わり?」

「部位を回収せんでいいのか?」

「そうだった!」

「皮だ、皮!」

 僕は皮を剥ぐように言った。

「肉は? 肉! 食べられるですか?」

 リオナも主張した。

「爪だよ! 爪! 武器のいい材料になるから!」

 ロメオ君が助言した。

「魔石にするんじゃないんですか?」

 ロザリアは魔石にしたいと主張した。

「しまった、なんで決めておかなかったんだ!」

「どれも取ればいいじゃろ」

「それじゃ魔石が小さくなるじゃないですか!」

「だったらあの千切れた部分も回収して、本体は石にする!」

「爪は?」

「指を切り落とせ!」

 戦闘よりひっちゃかになった。

「二度湧きしないかな?」

「アレッタ・レイスはしなかったよね」

「あれはクエストクリアーしちゃったからでしょ? 普通にやってる分にはアレッタ・レイスだって何度でも湧くわよ」

 ナガレが言った。

 今回はクエストではないから、二度湧きの可能性はあるわけだ。

 もし肉が絶品だったりしたら、リオナや子供たちに何言われるか分かったもんじゃない。


 部位の回収が終わった。

 後は本体が魔石に変わるのを待つだけだ。

 全員、言葉にはしないが特大サイズ以上を期待している。


 妙に輝いている。真っ赤に燃えた炎が石のなかで暴れているかのようだった。

「なんだ?」

 特大にしては大きくない。でも力を感じる石だ。

 早速『認識』スキルを発動した。


『火の精霊石』


「え?」

 僕は固まった。

「どうしたですか?」

「どうだった?」

 皆の視線が集まった。

 個人的には余り嬉しくない。だって特大だって買い手を探すのに苦労したのに、精霊石だなんて……

「クヌムで両替して貰えるのかな……」

「エルリン!」

「エルネストさん!」

「これ『火の精霊石』だって」

 全員がコカトリスに石にされたかのように固まった。

「…… 聞こえた?」

 全員、頷いた。

「『精霊石』って売れると思う? 『火の精霊石』だからゴリアテ辺りが買ってくれると嬉しいんだけど、これって相場いくらなんだろう? やっぱりクヌムで両替かな?」

「ええええーっ!」

 全員が遅れて驚いた。


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