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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第三章 ユニコーン・シティー
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ユニコーン・シティー10

 遠くに茶色い巨大な壁が現れた。周囲には大きな河川かと思えるほど幅の広い堀が掘られていた。

 釣り船が浮かんでいるところを見ると魚が捕れるのかも知れない。

 まるで湖に浮かんだ古城だ。

 その河川を跨ぐ様に大きな橋が東西南北にあり、そのうち北側の一本だけが降りていた。僕たちが進む道の先にある橋だ。

 やがて平坦な草原に出ると大きな橋が目の前に飛び込んでくる。

 人の行き来が目に入る。

「おんや、移住組かね? もう来ただか?」

「はい、よろしくお願いします」

 工夫風の男が話しかけてきた。肩に斧を担いでいる。

「なんもねえところだが、移住が始まるなら活気も出てくるで、大歓迎だ」

 同じような格好をした男たちが興味深そうに横目で見ながらすれ違う。

「皆さんは何を?」

「木材の調達だ。なかの木は大概切り倒しちまったからな。魔法使いの姉さんのおかげで仕事がはかどって仕方ねえよ。こんなに作業の速い現場、おらぁ生まれて初めてだ」

 ていうか、移住組もまだいないのにそんなに木材使うのか? それともいずれ来る建築ラッシュに備えて資材を溜め込んでいるのか?

 木こりのおじさんと別れると僕たちは馬車を進めた。正面のゲートの前で兵士が長い槍を持って立っていた。

「うッわァあ、高い壁だな……」

 全員が上を見上げた。

 ほとんどが土魔法で作った仮の壁だったが、いらないだろうと思えるほど細かい細工がしてあった。

 これ、このままでもよくないか?

 兵士の入植チェックを受けながら僕は思った。

 でも、内側に作られている本工事部分の壁を見て思いは改まった。真っ青な美しいタイルが施されたほぼ土壁と同じ高さの巨壁が現れたのだ。

 リオナもエミリーも荷台の上で、棒立ちになりながら壁を見上げている。

「やってくれるね、あの姫さんは……」

 アンジェラさんが溜め息をついた。

「突貫工事でこれを作ったのか?」

 オズローは仮の土壁の方に感嘆していた。

「登れる?」

 リオナは早速登る気でいる。

 入植リストに無いオズローは一悶着あったが、僕の名を出すことで許して貰った。

 僕たち一行は挨拶と例の案件のために領主の館に向かった。

 南北に抜ける街道は外の道幅と同じ広さで伸びていた。馬車数台がすれ違える道幅があった。資材の運搬に使うためだろう、すでに道は舗装されている。

 東の高台から広大な平地が階段状に西に下って伸びていた。

 中央広場の噴水予定地にはすでに水が流れている。

 東西の街道の中央には跨げるほどの側溝が作られ、水が東から西に流れていた。

 広場の周囲には建築資材が山積みになっている。

 工夫たちが本日の作業を切り上げる準備をしていた。

 僕たちの馬車は街道を東に曲がり、高台を目指した。

 道を挟んで北側一帯のこの辺りは整地がすっかり済んでいた。傾斜に合せて何区画に一度、挟んだ道を境に石積みの段差が設けられている。

 一方道を挟んで南側、姉さんの話では僕の領地になる側は森のままになっていた。

 町の公園も兼ねているらしく、森のなかには遊歩道が張り巡らされているようだった。すでに遊歩道の全景を記した案内板が立っている。

 中腹まで来たとき、突然滝の音が聞こえた。

 森の木々の隙間に目をこらすと、なんと、滝が流れ落ちていた。

「町のなかに滝か!」

 滝壺から霧が立ち上っていた。

 オズローがあんぐり口を開けている。これが僕の土地の一部だと知ったらどんな顔するだろう。それにしても姉さんやりたい放題だな。

 僕たちはさらに先を目指した。北側の一区画が大きくなっていくのがわかる。いずれ金持ち連中が住む場所になるのだろう。

 一方、南側は森が深くなっていく。さっきまでと違い、余り人の手が入った様子がない。

「見えた!」

 そこには見慣れた館がぽつりと建っていた。その周りには無数の掘っ建て小屋が並んでいる。

 うわっ、小さい。何もない平地にあれほど大きく思えた屋敷が小屋の様に思える。

「なんだありゃ?」

 全員が目を丸くした。坂を上がった突き当たりに、館が何十棟も入るほどの巨大建造物がそびえ立っていたのだ。

「城?」

 堀こそなかったが高台の最上階に城壁を巡らした宮殿が建っていた。そして天高くそびえる鐘楼。建築途中でありながら威光を放っていた。

「王族が住むには妥当な大きさだね」

 アンジェラさんが言った。

 もう気軽に会いに行けない気がした。

 僕たちは館の入り口に馬車を横付けすると全員が馬車を降りた。

 そして館の階段を上がった。

 玄関は開かれていた。

 正面には受付があり、受付嬢がふたり座っていた。ひとりは見慣れた顔だった。

「あら、まあ。思ったより早いお出ましですね」

 マギーさんである。

「到着の挨拶に伺いました」

 僕が言った。

「少々お待ちください」

 マギーさんはヴァレンティーナ様の執務室に向かった。

 残された受付嬢のひとりは僕たちを怪訝そうに見ていた。

 見るからに冒険者風のさして身分がありそうでない連中。加えて獣人と子供と赤ん坊。当然の反応だ。

「ようやく来たか! 待っていたぞ」

 手すりから頭をのぞかせたのはヴァレンティーナ様だった。相変わらず美人だった。でも少し疲れ気味か。

「立ち話もなんだ、居間で話そう」

 僕たちは手招きされるまま階段を上がった。

「改装したんですね」

「一階は完全に公務用にしたよ」

 受付嬢が、何タメ口聞いてるんだといわんばかりに僕をにらんだ。

「そんなわけでふたりには悪いが部屋は騎士団に使わせているよ」

「ええぇ?」

 リオナが叫んだ。

「大丈夫よ。あなたのジャングル部屋はそのままだから」

「よかったのです」

 マギーさんが僕たちのことを受付嬢に話している。

 受付嬢の目がみるみる丸くなる。リオナのことはばらせない以上、僕のことについてだろう。



「ヴァレンティーナ王女殿下?」

 オズローがソファに座ったまま固まった。

「オズールの息子よ」

 アンジェラさんがヴァレンティーナ様に紹介した。

「ああ、なるほど。どこかで会った気がしたのよ」

「……」

 緊張の極致だな。いつ卒倒してもおかしくない。

「剣は我流。力以外はからっきしよ」

 アンジェラさんが本人を前にこき下ろすが、オズローの耳には入っていない。

「オズールは? 教師になってくれなかった?」

「剣士を目指す前に亡くなったらしいわ」

「それはご愁傷様。明るくて頼りになるムードメーカーだったのにね。母さんが知ったら悲しむわ」

 マギーさんがお茶と菓子を運んできた。

 懐かしい食器とお菓子だ。

「それで、君はどうしたい? 何か頼み事があって来たのだろう?」

 先刻お見通しか。

「あなたのお母さんに会いに来たのよ。ギルドが代替わりしたこと知らなかったみたいでね」

「招集の手紙を貰って…… それで」

 駄目だ、オズローは撃沈寸前だ。今何を言われても頭は空回り状態だろう。

「はっきりおしよ! いつもの勢いはどうしたい? 文句を言いに来たんだろ? 『なんで父さんが生きているうちに招集してくれなかったんだ』って」

「それはッ!」

 オズローは慌ててアンジェラさんの口を塞ごうともがいた。

「それはすまなかったな、申し訳ないことをした」

「いいえ、殿下は悪くありません。全然! 姐さん、勝手なこと言わないでくださいよ!」

 すっかり涙目だ。

「話さなきゃいけないことが立て込んでるのよ!」

 ひどい言い草だ。

「さっさとあんたの頼み事、済ませちゃいなさいよ」

「何かしら?」

 あーあ、お姉さんの年下かわいがりモードに突入しちゃったよ。

「頼み事って……」

 オズローがんばれ。そしてさっさと案件を片付けろ。

「『銀花の紋章団』に入りたいんじゃないの?」

 アンジェラさんが目を細めてからかっている。

「エルネストとリオナと一緒にいたいのなら、入っておいた方がいいと思うわよ。それとも、言いたいことを伝えられたから故郷に帰る? 別に止めないわよ」

「お、俺はァ!」

「おかわり!」

 リオナがお菓子をひとりで食い尽くした。

「マギー姉ちゃんのお菓子はおいしいのです」

 みんなのテンションが一気に下がった。

「食い過ぎると夕飯食えなくなるぞ」

「そうだ、今夜は一緒に食事しましょう。積もる話はそのときに、ということで。マギーそのように手配して」

 オズローは考える時間を与えられた。僕たちは解放され、一旦、自分の敷地にあるという仮の家に向かった。

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