エルーダ迷宮征服中(オーバーブースト)26
ヘモジとオクタヴィアが屋台で買った水飴をなめている。ヘモジは自分の手に持って楽しめるが、オクタヴィアはそうはいかない。移動中は僕が持つことになる。
どこの世界に水飴を持って迷宮に入る冒険者がいるだろう。
ゲート前広場にいても目立つだけなので、取り敢えずなかで時間を潰すことにした。
敵が出てくれば食べ終わったヘモジが相手する。が、そうならないようにゲートから出たところにある湖畔のベンチでオクタヴィアが食べ終わるのをのんびり待つことにした。
普通の飴にすればよかった。
オクタヴィアも頑張って舐めているが、どうにも小さな舌では成果が上がらない。その内申し訳なく思ったのか、後で食べると言い出した。
でもどうやって保管する?
このまま『楽園』に?
コップのなかに入れて即席の蓋をして、紐で縛ってリュックのなかに放り込んだ。
戦闘はヘモジがメインで頑張った。
急所だけ教えるとヘモジは果敢に敵に飛び込んでいった。
流れるようなステップで敵の動作の裏を掻き、容赦なくミョルニルを叩き込む。もうすっかりジュエルゴーレムとの間合いに慣れたようで、アクションがフライング気味であった。
水飴分の効果はあったようだ。
一方、今日のオクタヴィアは危なっかしい。
当人は頑張る気があるのだが、リュックのなかがつい気になって視線が向いてしまう。
ヘモジのおかげでターゲットにされることはないが、いっそリュックのなかで盗み食いでもしてくれた方が精神衛生的にも解決は早い気がした。
それでもいつも通りの成果を上げ、アイテムの回収を済ませると、僕たちは転移して外に出た。
僕は飴の入ったコップを出してやった。
水飴はコップの底に貼り付いて取れなくなっていた。
魔法で冷やして剥がすと、底でだれていた部分が薄く、舌が切れそうなほど鋭利に固まっていた。
それをオクタヴィアがパリパリ音をさせながら美味しそうにかじる。
ヘモジはじーっとその姿を見つめて、寂しそうな顔を僕に向ける。
「ナーナ」
ミートパイを食べようと言い出した。
その顔は卑怯だぞ、ヘモジ!
逆らえない僕はふたりを肩に載せると食堂を目指した。
「飴、飴」
「はい、はい」
肩の上でペロペロ……
僕は空いた手でご機嫌を取るためにヘモジの頭を撫でた。
帰り際にチーズを注文されたので、その足でメルセゲルのアクセサリー屋『ヘルメス』を訪れた。相変わらず、いい雰囲気の店だった。
女店主は相変わらずの笑顔で僕たちを出迎えた。蛇顔ににっこりされると食われる気がしないでもないのだが。
僕は『鉱石精製』のことについて、店の氷の指輪二つと引き替えに尋ねた。
「そうですね。そこまで来るともう忍耐との勝負ですね。ですがもう少しだけ、追い込めると思いますよ」と言いながら僕の作った石を眺めた。
「これでどうでしょう?」
目の前で僕の石に何かした。すると石の輝きが以前に比べて明るくなった気がした。
「これって?」
「オーバーブーストです」
「え?」
「これを使えば、宝石は無駄になりますが、レベルはもう少し追い込めるようになります」
それは『ヘルメス』の十八番であった。
まさか教えて貰える日が来ようとは。
僕は是非にと懇願してやり方を教わった。
すべての秘密は『ヘルメス』の刻印にあり。それは以前から分かっていた。
「お見事です。わたくし長らくこの店の主を務めて参りましたが、これほど早く成長なされた方を見たことがございません。どうかその術式をお忘れなきように。大事になさいませ」
そう言ってわざわざ送り出してくれた。
僕はすっかり舞い上がってしまった。
紋章大全にも載っていない秘中の秘である。永遠に知ることはないと思っていたのに。
大雑把に言うと、これは石の許容できる魔力を特別な術式を施すことによって、壊さずに何割か増しにするスキルである。
クヌムの村に入り直して、チーズを買った。普段よりワンランク上のチーズを購入して納めた。
早く帰ってオーバーブーストを試したい。はやる気持ちを抑えて、ちょっとだけ予習を兼ねて地下四十三階を覗いてみることにした。どれくらい暑い場所か確認するだけである。
本来、三人だけで来るのは不用心な場所だが、ここは火の魔石が取れる人気フロアーである。他にも大勢、冒険者たちが詰め掛けている。
そこは火山地帯だった。以前救出劇を演じた辺境の溶岩噴火地帯のようであった。
「真っ赤っか」
オクタヴィアの言う通り世界が真っ赤だった。
「想像以上に暑いな」
火蜥蜴の洞窟よりなお暑い。
冒険者たちはパラソルという最近流行りの魔導具を使っていた。文字通り傘なのだが、一人用から宿営地のテントの屋根並みの物まであった。
要はパラソルの影響下にいれば快適が保証されるという結界装置である。いつも僕が火蜥蜴の洞窟でやらされていることを代行してくれるのだ。優れている点は寝てる間も魔石が枯れない限り、機能してくれることである。
当然ここでの付与は耐熱か冷気である。
ここにいる冒険者はほぼ火の魔石専門の狩人だが、長居するにはさすがに環境が厳しいようだ。
パラソルの下で次の獲物を待ち構える冒険者の姿ばかりが目に付いた。
今確認できる敵はレッドスライムとファイアーマンと火蜥蜴である。
ファイアーマンというのは知り合いの学生のことではなくて、全身に巻いた包帯が発火して燃え上がっているマミーの名前である。
「ここは魔力が充満してる」
魔力量の小さな敵を見つけるのは苦労することだろう。
来てよかった。取り敢えず対策は立てられるだろう。
僕たちは転移を繰り返して帰還した。




