エルーダ迷宮征服中24
地下に寝かせていた『万能薬』が留守中放置されていたので、ちょうどいいあんばいになっていた。
「ええと、これは今回使い切ったロメオ君に。レイス戦ではロザリアも結構消費したから、これはロザリアに。アイシャさんはどうなんだろ?」
保管庫にあったものを三本取り出して、新たに完成した物を五本保管庫に収める。
そういやパスカル君たちはまだ大丈夫かな?
積極的に迷宮攻略の実習をしてるなら、全員で月一本は消費するだろうからな。二本ぐらい送っておくか。うち以上に魔法使い遍重パーティーだからな。別の友達のパーティーとも行くことがあるかも知れないから、もう一本…… いや、さすがにそれは多いか。
残り三本。姉さんたちは足りてるのかな? 貯水湖はもう完成したんだろうか? うーん…… ピノはどうなってんだ? あいつ飲んでんのか? 胃腸薬代わりには飲んでいそうだけどな…… 予備にあと何本か作っておくか。
「オクタヴィア、いるか?」
「ナー」
ヘモジが階段の上から覗いた。
「ヘモジか。オクタヴィアは?」
「ナーナ」
「買い物に付いてった?」
「ナーナ」
仕方がないな。僕は地下を出て、二階に上がった。そしてアイシャさんの部屋の扉をノックしようとしたら、殺気を感じた。
「あ…… はい。後にします」
アイシャさんの分は一個、保管と。
在庫用に五本ぐらい作っておこうかな。
明日、リオナは学校だったよな。明日にするか。
別れたはずのロメオ君がまた玄関にやって来た。
「いい物見に行かない?」
「いい物?」
「旗艦だよ。旗艦。棟梁が見せてくれるって」
「図面も上がってきてないんじゃ?」
「だから、その図面の候補が挙がってきたんだってば。早速、設計模型で比べるんだって。明日には王宮に送られるから今日中なら見ていいって」
「随分急だな」
「今回のファーレーンの船団派遣に旗艦で颯爽と登場したかったみたいだよ」
「そもそも置いてかれてんじゃん」
「それを言っちゃ……」
「でも、どんな物か見たいね」
僕たちは早速、工房に急いだ。
「候補は三つだ」
棟梁が言った。模型なのにでかい。食堂の長テーブルぐらいでかい。
「これはスタンダードな案だ。文字通り第一世代を二隻並べて渡りを付けた感じだ」
「気嚢が一つ?」
「三角形を作る構造だ。小型飛空艇の原理を応用した」
ハンモック構造を巨大化したのか。一番安定性はある感じだが。居住スペースと風船の間が結構空いている。装甲でガードしているが、ここの強度次第だろうな。模型では木の細い棒になっているが、ここがワイヤーになるのか、金属製の梁になるのか。経験則から言って、魔物の爪が掛かるような構造は極力廃した方がいい。
「次はこれだ」
「なんだこりゃ?」
それは枕のような形をしていた。横に長い、そうだブーメランだ。ブーメランを太目にした感じだ。
「重心大丈夫なの?」
「風に煽られると横転しそうじゃの」
棟梁が言うなよ。
「縦にした方が安定するんじゃないの?」
ロメオ君が言った。
「おお、それはいい案じゃな」
とは言え、このブーメラン型、見た目は相当格好いい。
重心は考えているんだろうが…… 強度的にも、機動性にも難ありだ。気嚢の形を維持するために相当無駄な梁が必要になりそうだが。
多分ボツになるだろう。
「三番目がこれだ」
それは一番目の物と真逆、気嚢が二つあり、居住スペースが一つにまとまった物だ。逆三角形を構成するそれは、居住区が他の候補より狭いことを除けば、一番シンプルな構造だ。ただ地上にある場合、安定性は期待できない。常時浮上していないといけない。
「でも空にいるなら、これが一番安全だと思うけどな」
「王様から、言伝がある」
「僕に?」
棟梁がギルド通信のメモを僕に手渡した。
なんでギルド通信なんだ?
『お前ならどんな船にする?』
はなからコンペする気ないんじゃないかよ!
棟梁がガハハと笑った。
「グルか?」
「うちも落っこちるようなもんは作りたくねぇからよ」
「そう言われてもね。急には……」
自分の物になるなら気合いも入るのだろうが、ダンディー親父の乗る船じゃな。でも落ちたらリオナも悲しむからな。
飛行中は逆三角形が安定しているが、地上にあっては三角形が安定する。いいとこ取りするには真ん中の頂点が動けばいいんだ。
模型を見ながら模型以上のアイデアを探す。
「がっちりした構造をこの二つの気嚢で構成して、真ん中の居住区だけはフリーな状態にしておく。飛ぶときは構造体の下に吊される感じで、着地するときは構造体の内側に収まる感じで」
「遊びはどうやって?」
「ワイヤーとかロープが一番簡単だけど」
僕は円筒を二つ用意してその上に布を被せた。布の両端が円筒である。そして二つの円筒の真ん中の布の上にもう一つ円筒を置いた。そして角材を円筒と直角に交わるように横に渡した。
「この棒に巻き取り機能を付けて、二つの筒の距離を調節してやれば」
「真ん中の筒が上下する!」
「ほおぅ…… 飛んでるときにはこの布を緩めて重心を下げて、地上にあるときは張って伸ばして船底を揃えてやるのか。面白いことを考えるな」
「更に引っ張って気嚢を居住区の下にすれば、フロート代わりにして双胴船にもなるかも」
「こんな複雑なことしたら、メンテナンスが大変だろうけどね」
「居住区を上にするのは大風呂敷過ぎるかもしれんが、それ以外は、気球と居住区に遊びさえ持たせてやれば、重力が勝手にやってくれることだろうから。問題ないぞ」
「居住区を錘代わりに、樽でも乗っけて、気嚢の周りに居住区を作るって手もあるよね」
「そりゃ、もっと巨大な船ならいろいろ考えられるが、気嚢の大きさは変わらんのだぞ」
「じゃ、僕の案は三つ目の案の応用ということで、適当に」
「この国の軍の旗艦になるんじゃぞ」
「いずれもっとでかいのが欲しくなりますよ」
「うちの工房の大きさにも限界があるぞ!」
「もうドラゴンに手綱でも付けときゃいいんじゃないか?」
「生きたドラゴンの面倒なんか、わしゃ見んぞ」
「なんでだろ、それでもお鉢が回ってきそうな気がするよ」
ロメオ君が苦笑いした。




