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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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北方事変(帰還)23

 人件費やら何やらで金貨をどれくらい消費したことか。

 慣れないことはすべきではない。

 ガウディーノ殿下も用が済んだらさっさと消えちゃうし、後の支援は出先機関がやると言うから、僕もそろそろ帰ることにした。

 ゲートで来てるわけじゃないからな。船の上でもう一泊だ。

 取り敢えず、子供たちには「困ったときは『海猫亭』を頼れ」と教えておいた。

 子供たちに手を振り、別れを惜しみながら僕たちはその場を後にした。

 港にまた船が入港してくる。

 帆がすべて三角マストの冒険者の船だ。向かい風に強い船だ

 ゴーレムの核を獲りに行っただけなのに、随分長い滞在になってしまった。

 眼下に、シルバーアイランドに向かう一隻だけ航路の違うドワーフの船が見えた。

 もうあの大きな船もお役御免だろう。

 僕たちも進路を変え、ドワーフの船を追い掛け、追い抜いた。

『海猫亭』に事情を説明しに寄り道すると、既に姉さんがドワーフたちの迎えにやって来ていた。

 思い切り尻を蹴飛ばされた。

 僕は何も悪くないのに!

 言い返そうと思ったが、姉さんの顔を見て言葉が詰まった。

「泣くか笑うかどっちかにしてくれないかな?」

「怒ってるんだ! 迎えと合流してから何日経った! ヴァレンティーナもお前たちの帰りを待ってるんだぞ」

 ヴァレンティーナ様じゃなくて、姉さんがだろ?

「取り敢えず全員無事だから」

「当たり前だ! サッサと帰れ!」

 僕たちは休む間もなく送り出された。

 ドワーフの船が水平線に姿を現わした。



 懐かしいスプレコーンには予定通り翌日の深夜に到着した。

 帰るに帰れない時間帯である。家人たちはもう寝ている頃だろう。

 とは言え、ドックのなかで夜を明かすというのも馬鹿げた話だ。後片付けは後でやるとして、どうせゲートの出口でもあるし、全員、僕の家でワンクッション置いて貰うことにする。

「お帰りなさいませ」

「お帰り、大変だったね」

 エミリーとアンジェラさんが起きていた。

「レジーナが先に帰ってきて、知らせてくれたんだよ。そろそろだってね。みんな疲れたろ? ゆっくり休んでおいき」

 暖は落とされておらず、部屋は暖かいままだった。

 しばらくすると子供たちの親が迎えに来て、ミルクを飲んで髭を作っていた子供たちを回収していった。明日の朝まで預かってもよかったのに。

「残ったか……」

 アイシャさんはどうやら旅の間に原稿を書き上げる気でいたらしい。

「じゃ、僕たちも」

 それぞれ個室に戻ったが、やっぱりあれでしょ。

 僕は着替えを持って大浴場に向かった。

 するとそこにはやはり子供たちもいて、お互い顔を見合わせるとニヤリと笑った。


 翌日、早々に館から呼び出しを食らった。

 リオナも無事な姿を見せるべく、共に領主館を訪れた。

「大変だったわね」と僕とリオナは抱きしめられた。幸せを感じたのも束の間「報告書よろしく」と言われて用紙を目の前に置かれた。

『議会報告書用』と『銀花の紋章団調査報告書』と付箋が貼られていた。

『議会報告書用』の書類はこれからヴァレンティーナ様が中央に出向き、ことの子細を報告するために必要らしく、時系列でしっかり書くように言い付けられた。恐らく他の報告と照らし合わせて、一連の判断材料にされるのだろう。

『銀花の紋章団調査報告書』はそれを簡潔にまとめて、使用した経費の一覧を添付したものだ。

「もしかして経費、出してくれるの?」

「交渉はしてみるけど、勝手にしたことだしね」

「お土産。ミズチの肉、あるけど、いります? 珍味だって」

「わたしあれ、あんまり好きじゃないのよね」

 飲兵衛向きの土産なのにな…… おかしいな。

 館を出たときにはもう昼過ぎだった。

「はーっ、疲れた……」

 リオナはさっさと逃げやがるし。

 ついでなのでロメオ君の家に向かうと、ギルド事務所の扉から「ハー、疲れた」と言ってロメオ君が顔を出した。

「何? そっちも報告書?」

「ギルド本部に出す報告書。僕の仕事じゃないと思うんだけど」

「キャンプのギルドが報告するだろ?」

「管轄が違うんだって」

「金一封とか出るの?」

「親父のげんこつだけ」

 そう言って笑った。姉さんの蹴りといい勝負だ。

「持ってきたよ。今回の元凶」

「元凶って……」

 僕はゴーレムの核が全部収まった回収袋を手渡した。ロレダン村の守衛に渡す手はずになっていた欠片も全部。

「一個でよかったのにね」

「まったくだ」

 ふたり、眩しい太陽に目を細めながら飛空艇の元に向かった。

 テトたちが元気はつらつ、働いていた。

「おはよー」

「若様おはよー」

「おお、帰ったか」

 棟梁が船の後ろから顔を出した。

「ミズチのあれ。うちで貰っていいか?」

「願ったり叶ったりですよ! 誰も貰ってくれなくて、困ってたんですよ。売れる物ならぜひ」

「馬鹿言うな! あんな珍味、他にやれるか! ありゃ、飲んべえの宝だぞ」

「そうなの?」

「今日の飲み屋街は満員御礼間違いなしだ。多分全部の店でもう予約入ってるぞ」

 相変わらず耳聡いな。

 ミスリル化して初めてのフライトだったので、結構念入りに金槌を使って検査が行なわれている。

 そこへマギーさんがやって来た。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 またか…… ロメオ君と顔を見合わせた。

『ビアンコ商会』を始め、この町と付き合いの深い商会が『ビアンコ商会』の客間に集まっていた。

 一通りの説明を、舌が乾かぬ程度にロメオ君と交互で行なった。

「それで、弟君の感触は?」

「問題は先方の資金源なんですよね。沈む前から余り芳しくなかったようですけど」

「サンセベロの領主の私財は?」

「さあ、用意万端ではあったようですけど、他は丸裸で脱出してきた連中ばかりですからね」

「ドワーフたちも袂を分かったとなると……」

 地場産業が何もないというのは問題だ。何もしなければジリ貧だ。

「火中の栗を拾わん方がよいかの?」

「サンセベロの領主の人柄は?」

「リベラルな方ですよ。奴隷制度にも反対なさっている方で」

「尚更、舵取りが難しいの」

 深い溜め息をつかれた。

 そうなのだ、今後の課題はまさにそれだ。如何にして金を稼ぐかだ。もうドワーフは気前よく穴を掘ってはくれない。外貨を稼ぐことを考えなくては。

「問題は自治区を中央がどう判断してるかだな」

 どういう援助をいつまで続けるのか。まさか漁業で食っていく気ではないだろう?

 唯々溜め息ばかりが繰り返された。

「無駄な時間だったね」

 ロメオ君が遠慮なく言った。

「お茶で空腹を紛らせただけだったな」

 ようやく僕とロメオ君は帰り道の屋台で遅い昼食にありついた。

「何気にこの町の外食レベル高いよね」

「獣人たちがいるからな。まずいとあっという間に閑古鳥だよ」

 それから僕たちは迷宮探索をいつ頃再開するかを話し合った。

 アイシャさんの執筆活動次第だけれど、それまでは僕はジュエルゴーレム狩りをすることに決めた。ロメオ君はゴーレムの核の研究のために姉さんにしばらく貼り付くらしい。


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