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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第三章 ユニコーン・シティー
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ユニコーン・シティー9

 闇蠍はごちそうを前にしてこちらを一切気にしていなかった。

 すれ違いざま僕は『魔弾』を投げつけた。

 オズローは『草風』の間に割り込む形で馬を走らせた。

 ドォーンッ

 地面ごと吹き飛んで、それははじき飛ばされた。

「オズロー頼む!」

「任せとけ!」

 僕たちは馬を降りると、かろうじて結界を張り続けている闇蠍に突っ込んだ。

「うおぉおおりゃぁあああ」

 一撃だった。

 逃がさないように土壁を用意していた僕は手を止めた。

「『草風』! ここは何かおかしい。リオナのところに行け!」

 硬直していた『草風』ともう一匹は走り出した。

 闇が晴れた蠍はオズローの一撃を脳天に浴びて昇天していた。

 そして僕たちは凍り付いた。

「なんだよ、これ……」

 オズローが呟いた。

 僕も背筋が凍った。

 闇蠍の大きな尻尾の根元に、転移結晶の原石が誰かの手によって、縄で括り付けられていたのだ。

 それは人間の意思が関与した明確な証拠だった。そしてそいつは闇蠍を殺さず、結界を解除させられるか、結界のなかに進入できるやつだということだ。

「大変だ…… 急いで知らせないと。ユニコーンたちが危ない!」

 僕たちは急いで馬車に向かった。

 

「無事か『草風』?」

 僕は戻るなり『草風』に言った。

 オズローは初めて見るユニコーンに閉口していた。

「見るのです。『草風』の妹なのです」

 小さなそれは『草風』をリオナの背丈ほどに小さくしたものだった。

「名前は?」

「まだないんだって」

 リオナは自分と同じ大きさの妹に抱きついている。

「それより、重大事件だ」

「『草風』、アンジェラさんも聞いてくれ。闇蠍をけしかけた奴がいる! それも人間だ」


 僕たちは踵を返して中継所に戻ることにした。

 リオナが駄々をこねたが、ユニコーンの命が狙われていると諭してようやく諦めさせた。

『草風』も「妹を連れて、親の元に急いで帰る」と言った。

 アンジェラさんは中継所に着くと、責任者と連絡を取って、このことを領主と北の砦に伝える算段をした。

 この森で何かを企んでいるやつがいる。

 中継所の責任者や兵たちも最近『魔力探知』に引っかからないエリアが現れることに不審を抱いていたらしく、行動は迅速だった。

 エリアは発見次第、探索、闇蠍を見つけ次第殲滅すると駐屯する兵士たちに命令を下した。

「人族には関係ないことなのに、なんで……」

 オズローが不思議そうに言った。

「我々の何人かは実際にユニコーンに助けられてるんだ。崖に落ちて身動きがとれなくなった者や、魔物に襲われて死にかけた工夫たちがな。それに新しい町の三分の一は獣人だろ?」

 兵士のひとりが言った。

「この森にいる獣人じゃない奴らもユニコーンが聖獣だって信じ始めてんのさ。領主の御触れがなくたっていずれそうなる。少なくともここにいる連中はみんなそう思ってんのさ。ここはユニコーンが守護する森だってな」

「それに人間がしでかしたことなら俺たちで解決しなきゃならねぇ。違うか?」

「ここの連中は変わってるな」

 オズローは苦笑いして僕に言った。



 午後からは強行軍になった。速度三割増しだ。

 僕は『魔力探知』に余念がない。満天の地上の星空に何も光らないエリアを見つけ出すことは、仕掛けがわかってしまえばそう難しいことではない。

 僕とオズローは怪しい地点を見つけ次第討伐に向かう。そして報酬として、毒嚢や毒針、そして転移結晶の原石を回収していく。

 その間も馬車は走り続ける。

 そして予定より若干遅く、暗くなって程なくして休憩所に辿り着いた。

 当然先客などいない。と思いきや、一匹のユニコーンが現れた。

「『また助けられたな』だって」

『草風』の親父さんだった。

 自分たちが運んでいる原石のせいで、探知用に発した魔力が影響を受けて歪んでしまい、『魔力探知』は使い物にならなかったので、周囲の探索を獣人ふたりに任せていたのだった。

 おかげで発見が遅れてしまった。

 ていうかリオナも気付いてたんなら教えろよ。オズローは完全にテンパってるんだから。

「仲間はずれにされてるです」

 僕がオズローとばかり討伐に出るのが気に入らないらしい。

「しかたないだろ、闇蠍は結界持ってんだから。馬車だって他の魔物から守らなきゃいけないんだから護衛は必要だろ?」

「つまんないのです!」

「リオナ、馬車を守る方が大事なんだぞ。リオナが守ってくれるから僕もオズローも馬車を離れられるんだ」

 リオナはプイと背を向けるとユニコーンの親父さんの下に走り去った。

「喧嘩するほど仲がいいってね。ようやくここまで来たかね、少年」

 アンジェラさんが僕をからかった。


 僕は親父さんに人間たちのとりあえずの取り組みを語り、証拠となる、回収した転移結晶の原石を見せた。そして黒幕が人間であることを謝罪した。

「『お前たちのリーダーに会いたい』だって」

 アンジェラさん?

「『あの大きな町のリーダーだ』」

 ヴァレンティーナ様か。

「用件は?」

「『そのとき話す』」

 人間同士なら話にならないと断るところだが、相手はユニコーンだ。人の道理を説いても仕方がない。

 頭越しに会話したいというのであれば、僕が出る幕ではない。

 双子の石版、メッセンジャーになるだけだ。

 僕たちは、会うための条件をすり合わせていった。

 すべては僕たちが町に着いてからだが、まず会えるようなら城壁に白い旗を揚げる。翌日なら一本、二日後なら二本、という具合だ。駄目なら赤い旗を。

 白旗を揚げた場合、指定した日の朝に森のなかに迎えが現れる。その案内で指定の会談場所まで行き、ユニコーンのリーダーと会談する。同行者は通訳のリオナのみ。ということに決まった。

 アンジェラさんにも了解を取り、親父さんは帰って行った。

 まさかユニコーンまで一緒に町に住むとか言いださないだろうな。


 僕は、『紋章学全集』を広げて、やっかいな転移結晶の魔力吸収を押さえる紋章を探した。

 遅い夕食になったが、まずやることやらないと。

 警戒をおざなりにするわけにはいかないからな。

 いい紋章がないな……

 今すぐ姉さんに聞きに行きたい気分なんだが。

 ああ、どうすればいいんだ。残り数日、リオナとオズロー任せにするのはいまいち不安だし。

 絶対何かやらかしそうだからな、あのふたり。

 しばし考えて、ふと、思い立った。

『楽園』だ。

 困ったときの『お仕置き部屋』だ。あそこに行けば問題はすぐ解決しそうな気がする。

 そうだ! この手があったんだ。

 姉さんの最大魔力の三倍に匹敵する魔力を生み出す方法。何も高価なアクセサリーである必要はないんだ。大きさを考えなければ、結晶の塊でも構わないんだ。

 原石には今それなりに魔力が溜まっているはずだ。それを利用して『楽園』に行けないだろうか? 

 でも、行ってすぐ戻るというのももったいない話だ。

 よし、実験だ。

 今夜のところは実験ということにしよう。行けたらこっちのものだ。成功すれば、いつでも行けるようになるのだ。ぐふふふ。

「あれ?」

 どうやって魔力を取り出すんだ?

 そのための術式があるということに今更気がついた。

 くっ、一瞬で夢が破れた。まずそこからか。

『紋章学全集』をめくるが、目的のものはすぐには見つからない。今夜はもう遅い。続きは明日にしよう。

 食事も食べないと、エミリーが後片付けできない。

 悩んだ末、結局一番簡単な方法に帰結した。

 これ以上吸収できないほど魔力を吸わせてしまうことだ。

「まあ、いいか。今夜はもう魔力使う予定ないし」

 エミリーの給仕を申し訳なく思いながら、ひとり食事を取り、さすがに疲れたので僕は寝床に横になった。

 そういえば…… 何か忘れているような気がする……

 ああっ! オズローの防具に魔法付与してやる約束だったんだ。

「……」

 ま、いっか。


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