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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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北方事変(寄り道)21

 進路を変え、しばらくすると浅瀬の岩礁地帯が目に付いた。

「まさかここに嵌まったのか?」

 リーダーが呟いた。

「座礁した?」

 盾持ちも手すりから身を乗り出した。

「違うよ、船はもっと向こうだよ」

 ピノが指差した。が、望遠鏡を使っても何も見えなかった。

 じれったい時間が過ぎて、ようやく見えてくるとピノが叫んだ。

「でかい蛇がいる! あれが海蛇って言うの?」

 ピノには耳と鼻以外に『鷹の目』もあった。

 僕たちも望遠鏡でその姿を確認した。

「あんなでかい海蛇なんていないわよ」

 ナガレが言った。

「あれはミズチよ、ミズチ。蛇じゃなくて海のワームよ」

「ワーム! あれが?」

「何が起きてるんだ?」

「ミズチが船を囲んでるのよ。船はわざと浅瀬に逃げたのね。唯一の進入路を凍らせて敵の接近を防いでいるんだわ。お仲間、凄いわね。あの状態で船を守り続けてるなんて」

「奴も凄いが、船にもそれなりの金を掛けてるんでね」

 船は『グラキエース・スピーリトゥス』の物だけではなかった。もう一隻が追従し、別の一隻は完全に座礁して乗り上げていた。

「あの一隻が犠牲になって壁を作ったか」

 脱出できていればいいけど。

「浅瀬を乗り上げて来ないものなのか?」

「ミズチは海底深くにいる魔物なのよ。地上のワームと違って海面に近づくほど水圧との関係で膨れてしまうの。だから水のなかから出るのを極端に嫌がるのよ。お仲間はその習性をうまく利用してるのね」

「なんで海底にいた奴が?」

「大陸が一つ沈んだ影響が海底にも出たんでしょうね」

「じゃあ、あれも被害者か」

「お腹は空いてると思うわよ」

「ナガレが始末するか?」

「味方の船がなきゃね」

 しばらくナガレと顔を見合わせる。

「分かったよ。僕があそこの船を守ればいいんだろ?」

「いいアイデアじゃない。面倒事は早く終わらせましょう」

 僕はボードを取りだして、下に向かった。

 

 水中からミズチが身をもたげて、身体を捻ってまた水のなかに消えた。波を起こして、氷を割ろうとしているようだ。

 船は揺れて、浅瀬に腹を擦りそうだった。

 すぐさま船から魔法が放たれ、海面の氷が補強された。

 もうひとりの仲間も魔法使いなのか?

 妖精さんたちは豪勢なパーティーだったんだな。魔法使いと回復役とソーヤが魔法を使えて、さらにもうひとりか。さすがにS級冒険者ともなると、魔力多めになってくるのだな。

 僕は三本マストの並んだ上甲板にいるその魔法使いらしき人の側に滑り降りた。

 なるほど魔法使いの杖ではない、松葉杖を突いていた。

「『グラキエース・スピーリトゥス』の人?」

「そうだ。君は?」

「お仲間に雇われた運搬人です」

 僕は空に浮かぶ飛空艇を指差した。

「リーダーさんやソーヤさんたちが来てますよ」

「本当か?」

 魔法使いは涙を浮かべて空を見上げた。

「助かったのか?」

 震える声で問うた。

「それはまだどうでしょう? 取り敢えずこれを」

 僕は万能薬の小瓶を渡した。彼の魔力は風前の灯火だった。回復と消費を繰り返していたのだろう。さすが大した胆力である。

「これから強力な一撃を浴びせるから、少し隠れてて」

 僕は船首楼甲板に上がると空に光を放った。

 次の瞬間、青空に稲妻が走った。

 鼓膜が破れる程のものすごい破裂音と共に目の前に閃光が。

「うわっああ!」

 多重結界じゃ駄目だ! ことごとく破られていく。

 稲光が五つ轟いた。

 僕は結界を『完全なる断絶』にシフトした。

 続け様にもう五発。

 ナガレの奴、本気で撃ち込みやがった。


 水中からザバァアンとでかい物が浮き上がってきた。

 海面を所狭しとミズチや巻き添えになった魚たちの亡骸が覆った。

 ミズチの膨れあがった姿はグロテスクこの上なかった。が、船倉に隠れていた連中が姿を現わすと一斉に槍や網を下ろして、そのでかいグロテスクな亡骸を回収し始めた。

「魚……」

 浮いている魚を回収した方がいいんじゃないかと……

「あれは珍味なんだ」

「珍味?」

「コリコリして刺身にすると美味しいんだ」

「ええ? ほんとに?」

「ああ……と。獲物は君たちの物だったな」

「僕たちは味見させて貰えれば」

「半分は貰うわよ!」

 ナガレがリオナと一緒に降りてきた。

 浮いた魚は、浅瀬で羽を休めていた海鳥の大群にさらわれた。

「いいのか? 半分でもあれば、犠牲になってくれたあの船の代わりを用意してやれる」

 飛空艇が高度を下げて船首すれすれまで下りて来ると『グラキエース・スピーリトゥス』のメンバーが降りてきた。

「ランディーッ!」

 ソーヤが魔法使いに抱きついた。

 ホーキーが僕の隣で「ふたりは兄妹なんだ」と言った。

「ホーキーさんの家族は?」

「俺の家族は」

 犬が吠えた。

 振り返ると毛がフサフサの白い大型犬がいた。

「俺の家族だ」

 リーダーの家族は奥さんと子供がふたり。その子供たちがホーキーさんの犬の面倒を見ていた。

 盾持ちさんは両親と奥さんと子供がふたりいた。

 もうひとりの魔法使いには父親が、回復役には養子の子供たちが五人もいた。

 他にも船を任せている水夫とその家族。近所の人たち。盾になった船に乗っていた人たちでざっと六十人程が乗り込んでいた。

 隣りの船は一回り小さかったが、人数は倍程乗り込んでいた。知り合いの冒険者の船だったが、その冒険者たちは大陸にいて、災害に巻き込まれて帰らぬ人となった。

 すぐに船の代表を集めて、キャンプで行なわれた話し合いの結果報告がなされた。

 その間も獲物の回収作業は進められ、海鳥との争奪戦が繰り広げられている。

『楽園』に放り込もうとも思ったが、さすがに今回はギャラリーが多いし、正直グロテスク過ぎて『楽園』に入れたくなかった。

「食ってみろ」

「これは?」

 ホーキーが透明なミズチの刺身を皿に盛って持ってきた。

「火を通せば臭みは消えるが、俺はこのままがいい」

 そう言って、添えられた透き通った液体に浸けて口に放り込んだ。コリコリと音を立てて飲み込んだ。

「うまい! 食ってみろ」

 半信半疑で僕も口に放り込んだ。

「うまい!」

 コリコリして噛む程に甘みが増してくる。それになんだろう? 醤油のようでいてマイルドなタレだ。これがもしかして魚醤?

「な、珍味だろ? 普段は岸に打ち上げられた物ぐらいしか手に入らないんだがな」

 リオナとナガレの手が伸びた。

「味見するのです」

「貰うわよ」

 コリコリコリコリ……

「……」

「……」

 黙って消えた。味覚音痴のナガレは兎も角、何か言っていけよ、リオナ。

「鼻のいい獣人には臭みが気になるんだろうよ」

 どちらにしても金になるなら構わない。

 全員に試食させてみて、感想だけは聞きたいところなのだが。

 不評でも姉さんたちへのお土産ということでいいだろ。


 二隻の船の船倉に回収された獲物はすぐさま魔法使いたちに冷凍保存された。

 氷を溶かし、船は航海を再開した。

『グラキエース・スピーリトゥス』の人たちとはここでお別れである。

「いろいろ世話になった」

「こちらこそ。いろいろ助かりました」

「また会おう」

「はい。またいつか」

 僕たちの船は高度を上げると一路、ファーレーン新島に向けて発進した。

 僕たちには子供たちを届ける仕事とプレハブ建築がまだ残っている。

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