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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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北方事変(出発)20

 食後、僕は木の板二枚と柱代わりになる角材と大量の木の皮から作ったおが屑とで断熱効果のある壁をこしらえた。明日は伐採作業を続けつつ、これを量産して貰う。これなら若い子たちにもできるかな。強力接着剤が現地で回収できたことは有り難かった。亜種であったが蛙は蛙だった。



 翌日ピオトに起こされた。珍しいこともあるものだと、言われるまま部屋の外に出ると小声で言われた。

「乾燥してから板にした?」

「ん?」

「若様…… 薪のときのこと忘れたの?」

「何?」

「ああもう! 若様! 木は乾燥させてからじゃないと使えないんだってばッ!」

「でも、寒冷地の木は年輪も詰まってるし、固いから大丈夫なんじゃないのか? それにあくまで仮の宿だし、何とかなるだろ?」

「ならないよ! 板や角材にする前に魔法でチャチャッと乾燥させてください!」

 ピオトが指差した見本で作った壁材は確かに機嫌を損ねたオクタヴィアみたいに捻れてた。

「さすがだな、ピオト。木のことは敵わないな」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ! どうすんだよ、これ」

「でもよかったな、板にする前で」

「現実逃避するなよ! あっちにもたくさん重なってるじゃんか?」

「…… あれ? あんなにあったっけ? ていうか、分かってたんなら言えよ」

「昨日、僕は船の上にいたろ! 当然やってると思ったんだよ! 起きてあれを見るまでは!」

 見本のひねた壁板を指差した。

 ピオトが本気で怒るのも珍しい。

「重石して、平らにした状態で乾燥させてください。少しは誤魔化せますから」

 ひとりでは無理なので巨大ヘモジを呼んだ。

 言われた通り、砂浜の砂を平らに固めた地面の上にすべての板を並べて、重石を載せて、反りを強引に修正しながら、木のなかの水分を抜いていった。

「なんとかなったな?」

「ナーナ」

 ピオトにがっかりされ、ヘモジには欠伸された。

 キャンプでは朝から巨人が出たと大騒ぎになったが、僕もピオトもヘモジも黙りを決め込んだ。

「集団幻覚か、怖いねー」

「反省してないよね?」

「ナーナ」


 次の日の作業もおかげさまで順調に進んだ。これだけあれば、ここにいる全員分の仮の宿がすぐに作れる。ドワーフが運んでいるだろう第二便の難民の数ははっきりしないが、もう一日あれば余分も何とかなるだろう。

 この日、何隻もの船がポツポツとやって来ていた。ただ、それは救助船ではなく、上級冒険者たちのプライベートシップだった。

 冒険者たちの資産や、家族、ご近所さんを積み込んでいるようだった。

 冒険者たちは自分たちの船が来ると安堵し、補給物資を積み込んではこの地を離れていった。

 夕方、突然隣の妖精さんたちのテーブルで言い合いが始まった。

 原因は自分たちの船がまだ着かないことだった。

 段取りではとうにこの港に辿り着いていなければならなかったらしい。

 リーダーは陣頭指揮を執っているはずの仲間を信じろと諭し、ソーヤは心配でたまらず、酒を煽った。

『グラキエース・スピーリトゥス』の面々は段々言葉を失っていった。


 翌日、水平線に待ちに待った船団の姿が現れた。

 キャンプに歓声が上がった。

「やっと来たか」

 ジョンが言った。

「あれ、まだいたんだ」

「最期まで見届けないとな。君たちはどうするんだい?」

「あれ運ばないといけないんで、最後に出ますよ」

 僕はできあがった建築資材を指差した。

「なるほど」

「若様!」

 テトが割り込んだ。

「約束は?」

 あ! 忘れてた。

「何人ぐらいいるんだ?」

「あそこに見えるだけ」

 砂浜の丘の上からチョビとイチゴと一緒にこちらを見ている一団がいた。

「思ったより少ないな?」

「騙して子供を誘拐すると思ってる親がいるんだよ」

「ひどいな。よし、あれぐらいなら一度に運べるだろう。一緒に新天地に行くぞ」

「やった!」

「やった!」

 テトとピノはハイタッチした。

「ロメオ君に言って人数分の物資を貰っておけ」

「俺が用意してやろう。来い、チビども。手伝え」

 ジョンがテトたちを引っ張って物資のある方に消えた。

「すまん! エルリン! 俺たちも乗せてくれ!」

『グラキエース・スピーリトゥス』のリーダが頭を下げてきた。

 もしかして僕の名前がエルリンだと思ってない?

「もう知ってると思うが、俺たちの船がまだ着かないんだ。探すのを手伝ってくれないか。頼む、この通り」

「航路は分かってるんだ!」

「通い慣れた航路だ。こんなに遅くなるなんて、きっと何かあったんだ!」

 全員が頭を下げた。

 正直、もっと早く言えばいいのにと思った。でも、こっちはこっちで船を森の警戒に充てていたから言い出せなかったのかも。

「荷物をまとめておいてください」


 それから小舟が入れ替わり立ち替わり岸にやってきて救助船に次々人を運んだ。

 殿はギルド職員たちとジョンの仲間たちだ。こちらに手を振る。

 こちらも子供たちの乗船は終わっている。

 後は積み上がった資材と妖精さんたちだ。

 人気がなくなったところで僕は資材を一瞬で『楽園』に放り込んだ。

「何したんだ? エルリン」

 ホーキーまで僕の名前を……

「さすがに重くて積み込めませんからね。ちょっと魔導具で」

 いざ、この地を離れると思うと名残惜しい気もしたのだが、妖精さんたちのことを思うと一刻の猶予もない。

 荷物をまとめで全員乗り込んだ。

 トビアもその妹も乗り込んでいた。母親は知り合いと一緒らしい。

「全員乗り込んだぞ」

『了解。浮上します』

 伝声管からテトの声がした。

「荷物の固定は終わったよ」

 ピオトとロメオ君が格納庫の奥から顔を出した。

「子供たちは付いてくるのです。座席に案内するのです」

 リオナが階段の上から顔を出した。

「じゃ、リーダーさんは僕とこっちに、ソーヤさんたちはロメオ君に案内して貰って」

 僕はリーダーを操縦席に、ロメオ君とピオトは残りのメンバーをアイシャさんに引き合わせた後、甲板に案内する。


「ここがこの船の操舵室か? 船とはまるで違うな」

「うちの操縦士のテトです。航路を彼に教えてやってください」

 テトの隣の座席にはヘモジとオクタヴィアがいた。オクタヴィアは子供たちの魔の手から相変わらず逃れてきていたのだった。

 リーダーの指示の下、船は進んだ。速度が違いすぎるので距離感が難しかったが、それは測量担当のチッタとチコが海図を持ち込むことで解決した。海の上でも無敵だな、ふたりの嗅覚は。

 進路は任せてリーダーとキャビンに出ると子供たちが行儀よく座席についてベルトを締めて外を楽しそうに眺めていた。

「アイシャさんの喝でも入ったか?」

「妾は何もしておらんぞ。リオナがお菓子で釣りおっただけじゃ」

「お菓子?」

「保管庫にマドレーヌが収まっておる。そなたに食べさせようと、来るときにリオナたちが作った物じゃ」

「この人数に配れる程作ったんだ」

「何かしてないと不安だったのじゃろう」

 アイシャさんの余りの美しさに言葉を失ったリーダーが遅ればせながら、船に乗せてくれたことを感謝した。

「この船はそこのエルネストの船じゃ、感謝ならその男にするがいい。妾は少し休むとしよう」

 そう言って休憩室に消えた。

「エルネスト……」

 どうやら間違いに気付いてくれたようだ。

「心配してたのはアイシャも一緒なのです。ずっと頁が進んでなかったのです」

 リオナは子供たちにお茶の用意を始めた。

 甲板に出ると『グラキエース・スピーリトゥス』のメンバーが望遠鏡を使って海を見回していた。

 ピノとピオトが望遠鏡を自慢していた。

 ナガレとチョビとイチゴも一緒だった。

 リーダーは現在地を仲間に伝えると、メンバーは目を丸くしていた。「飛び立ってからまだ一時間も経っていないのに」という顔だ。

 今後の進路と所要時間を伝えると、更に驚かれた。

 突然、ピノとピオトの耳が動いた。

「兄ちゃん! チッタが呼んでる」

 僕は急いでキャビンに戻った。

「どうした?」

「ここに船が停泊してる」

 チッタが地図を指し示して言った。

「停泊?」

「海に何かいる。それが通せんぼしてる」

 チコが言った。

 方角の窓を覗き、僕もスキルを発動する。確かに海の生物にしては大きな魔力の反応が複数見えた。

「テト、進路変更! 十一時の方向。高度そのまま」

『了解』

「リオナ、おやつはお預けだ」

「えーっ!」

 それを聞いた子供たちは落胆した。

「人助けしたらすぐだよ」

「仲間を助けるのです」

 仲間と聞いて、子供たちは急に神妙な顔をして頷いた。

 妙な連帯感である。


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