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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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北方事変(作戦は周到に)19

「肉祭りの音頭まで取らなくてよかったのに」

 かまどの周囲に空になった酒樽が幾つも積み上げられ、薪になるのを待っていた。

 リオナは肉を数切れ食べただけで、珍しく僕により掛かって寝てしまった。

「ずっと気を張っていましたからね」とロザリアが言った。

 どういう風に情報が届いたのかは知らないが、心配かけたようだ。


 先発隊は今日中にここを発ち、ドワーフの船と洋上で合流し、そのまま新天地に向かう手筈になった。おかげで準備に忙しく、富裕層の方々がこちらを構っている余裕はなくなった。

 そうなるとこちらもいつ迎えが来るのかと不安になるようで、お伺いを立ててくる者も出始めた。

 トゥーストゥルクからの船団が到着するにはまだ数日かかるだろうとロザリアは言った。

 物資は間に合いそうだが、問題はメンタルの方になるかも知れない。

 そういった不安に対して亡国の元貴族たちが気を回せるかと言えば、彼ら自身もそれどころではなかったりする。

 世のなかには早い者勝ちというルールがあるので、早く目的地に着いた方がいい土地を選べるだろうと彼らは戦々恐々としているのである。が、生憎、そう単純なことではないとだけ言っておこう。

 マイバイブルにもこの手の話は載っている。彼の本に限らないが、開拓事業というものは命がけの大事業であることが常である。

 最終的にはいい土地であろうと家屋敷であろうと金が物を言うだろうが、開拓というのは意外にその手の当たり前のゴールが遠くに設定されていたりするのである。

 未開の新天地で戻ることも敵わないわけでなく、すぐそこにいつでも逃げ出せる文明社会の扉が待っているとなれば、開拓に精を出す者がどれだけ残るか甚だ疑問である。そもそも虐げられてきた獣人たちに愛国心など残っているのかどうか。

 さじ加減を間違うと、あっという間に分裂、自治区は自己崩壊を起こすことになるだろう。富裕層を優遇すれば、獣人たちは逃げだし、獣人たちを優遇すれば富裕層が逃げ出す。自治区にして、直接統治しなかったのはロッジ卿たちの狡さである。もしかするとそれが狙いかも知れない。緩やかな解体……

 なんとかしてやれないだろうか。富裕層は兎も角、明日をも知れない彼らだけでも……

 トビアの妹がオクタヴィアを遊びに誘っている。

「オクタヴィアちゃん、一緒に遊ばない?」

「若様」

 テトが声を掛けてきた。

「ん?」

「あの子たちに空を見せてあげたい」

「空?」

 無言で僕の顔を見つめる。何もかも失って寄る辺ないときを過ごしたかつての自分を重ねているのか?

「子供たちだけだ。アイシャさんがいいと言えばな。時間は今からだと日の沈む頃がいいだろう」

「ありがとう、兄ちゃん!」

 なぜピノが礼を言う。

「アイシャさんに頼んでくる!」

 テトが飛び出していった。

「俺も行く!」

 肉とパンを口のなかに押し込んでピノも後を追った。

 テトのように前を見てくれる子供たちが現れればいいが。

「ドラゴンの肉…… 後三匹、食べられるです…… 照り焼きで…… お願い…… です」

 リオナが寝言を言った。

 僕たちは笑った。

 ロザリアは身体の悪い人たちを見て回ると言って立ち上がった。護衛兼手伝いにロメオ君が付いていった。ナガレは釣り竿を持ってチョビたちと合流しに岸辺に向かった。

 残ったのは僕とヘモジとリオナだ。ヘモジにリオナを任せて、僕は食器を雪で洗って、浄化して、ケースに回収すると『楽園』に放り込んだ。

 リオナはぐっすり眠っている。

 ヘモジと交替すると、ヘモジはオクタヴィアを追い掛けていった。


 開拓地というものはまず必要な物から造るのが鉄則だ。誰がなんと言おうと、大工の数は限られているのだ。優先順位というものが必然と付けられることになる。

 領主の館は元より、登記簿を管理する登記所。港から物資を下ろす荷揚げ場、備蓄倉庫に病院、食料品店。鍛冶屋に武具屋に金物屋。理髪店に洋服屋に靴屋。馬屋に職業斡旋所。港湾管理事務所等々。必要な物がまず町の要所要所に作られる。それもお粗末な、単に用を成すためだけの仮小屋だ。

 そして職業経験者の家族が優先的にそれらの建物に配置されていくのだ。

 急いで向かったところで手に職のない者の家はすぐには建たないのである。

 大工と材料を自前で手配できて、給金を自腹で払えるなら、話は別だが。それでも測量がなされ、登記所が開かれ、土地の割り当てがなされてからである。

 一般市民はここと同様、海岸でテント暮らしが関の山である。物価は高騰し、落ち着くまで、またいらぬ苦労を強いられるだろう。

 第一、ここに残されている者に仮小屋を建てる余裕があるかどうか。

「そうだ!」

 僕は大岩の先を見つめた。

 僕はすぐにペンと紙を用意した。そしていつもの粗末なイラストとも図面とも取れないあやふやな設計図を記した。

「よし、これでいけるか?」

 僕はリオナを背負って、小屋のコタツのなかに放り込んだ。

「ちょっとギルドまで行ってくるからな」と最後まで言い掛けたところで頭突きを食らった。

「いだっ!」

 リオナが勢いよく飛び起きてぶつかったのだ。

「一緒に行くのです!」

 ふたりしておでこを押さえている。

「依頼に行くぞ」


 手を繋いで事務所を訪れた。

「依頼したいんですけど」

「言わなくても分かるだろうが、長期の依頼は受け付けられないよ」

 僕は提示された依頼書に必要事項を記した。

「何するですか?」

「ん?」

「木を伐採して貰うだけ」

 リオナが依頼内容を食い入るように見つめた。

 それは未開の地で大木を大量に切り倒して、建築資材を作ることだった。

 異世界で言うところのプレハブである。家の壁や天井、床をまず作ってしまって、組み立てれば完成する仕組みである。

 難民たちに伐採と運搬をさせ、仕事を与えることで、生活費を稼いで貰い、こちらもわずかばかりのマージンを貰うのである。幸いここは、未開の地で木材がいくらでもある。

 多少高い金で雇っても違和感はないだろう。迎えが来るまでの間に大量に一気に集めたいのだ。

「依頼報酬…… 金貨一枚?」

「迎えの船が来るまでの間、日の出から日の入りまで、結構ハードな仕事になると思う」

「あの、森の魔物は?」

「僕たちが排除するから気にしなくていい。兎に角、大岩のこちら側に運び込んで欲しいんだ」


 すぐさま、ギルドの掲示板ではなく、浜の数箇所に立て札が建てられた。


『緊急求む。木材の伐採と運搬業務』


 あっという間にギルド事務所に長蛇の列が作られた。

 資格不問にしたのが大きかった。女子供まで並んだ。さすがに子供はまずいということになって年齢制限をした。危ない力仕事だ、怪我をされたら本末転倒である。

 女性陣もどうかと思ったが、獣人の女性陣なんかは素の僕より体力がある。大木の枝落としや皮むき、食事の煮炊きもやって貰うことにした。迎えが来るまでやることもないわけだから、行列はどんどん長くなっていく。

 まず僕たちは飛空艇を森の上空に配置して安全地帯を構築する。ワイバーンが飛来してこないだけで、警備は大分楽だった。大概の魔物は狙撃で用が事足りた。足りないときは僕とヘモジと金貨一枚で雇われてくれた上級魔法使いの手で対応する。それでも駄目なら一時退却する予定だ。

 戻ってくる予定はないので、森に気を使う必要はない。

 近いところからどんどん切り倒していって貰う。

 倒した大木はチョビとイチゴが枕木を敷き詰めたレールの上に並べていく。後は人力でロープを引いてキャンプのなかに引き込んでいくのだ。

 引き込まれた木材は皮を剥いで、決められた長さに輪切りにしていく。

 それを同じく金貨一枚で雇われてくれた魔法使い連中とロメオ君が魔法でスライスして板にしていく。

 初日は日暮れ前に仕事を切り上げたが、予定より速いピッチで木の板が集まった。


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