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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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北方事変(新しい朝)18

 僕たちの船は一旦、高度を下げ、洋上、紋章がはっきり見える位置で停泊すると、色取り取りの外套を着た子供たちが船からポンポンと下りてきた。

 ロメオ君がロザリアを、ピオトがチッタをエスコートしてフライングボードを滑らせた。

 ピノの背中にしがみつきながら降りてきたチコは、岸に着くと分離して自前のボードで滑り出した。

 幼い子が一人前に雪原を滑っている。

 それを見た人たちがざわめいた。

 しかも勾配を逆走しているのだ。

 僕やロメオ君のように見るからに冒険者の格好をしているならいざ知らず、防寒具を着た小さな子供たちが空を飛んだり、ボードで坂を逆走してみたり。内側に鎧を着込んでいるのだろうが、傍目からはフードを目深に被っただけの普通の子供たちだ。船が空を浮いてる段階で想像力の修正を余儀なくされたとはいえ、見ている者たちには余りに荒唐無稽な事態であった。

 人が空を飛ぶなんて。

 殿はテトだ。リオナの新品、銀食器とカトラリーセットが収まった木製ケースを背負いながら、チコの滑りを空の上から眺めている。

 チコは転ぶことなく巧みな体捌きでループを描きながらこちらにやってくる。

 遊んでいた幼い子供たちも、巻き上げる雪飛沫を何ごとかと首をもたげて覗いた。

 アイシャさんは降りてこないらしい。甲板から手を控えめに振って、なかに戻っていった。

 原稿を書くのに忙しいのだろう。

 船の高度を上げ、自動操縦に切り替えたようだ。

「お待たせー」

 ロメオ君が戻ってきた。

「あー、追い抜けなかった」

 ピオトがそれに続いた。

 チコもピノとテトを従え、突っ込んできた。そしてエッジを立ててピタリと止まった。が、こてんとそのまま転んだ。バインディングが外せなかったようだ。

「若様、迎えに来た」

 雪をフードに載せたまま、起き上がるとそう言った。

「ありがとな。寒かったろ?」

 頭の雪を払ってやり、ボードを預かった。

「取り敢えず、朝食にしよう」

 豪快に燃やされている焚火の側に陣取ると、ロメオ君が作った即席のテーブルと椅子に全員が腰を下ろした。

 そして料理が食べている間に冷めないようにテーブルに火の魔石を置いた。使い残しの屑石だ。大きさだけはそれなりだ。

 顔がほっこりしてきたので全員霜の付いたフードを脱いだ。そして揃って頭を振った。

「冷たい」

 熱で溶けた水滴が飛び散った。

 するとまた周囲からざわめきが起きた。

 ロメオ君とロザリア以外、降りてきた全員が獣人だったからだ。

 見事に空を飛んでいたのも、雪の上を滑っていた幼い子も皆、人族の顔ではなかったのだ。

 彼らにしてみたら、異常なことだったのだろう。獣人が人族と同じテーブルに着き、同じ銀の食器を使い、高価な魔導具を操る姿を見たのは。そこへナガレとヘモジとオクタヴィアが合流する。

「チョビたちはいいのか?」

「水辺が楽しいから、遊んでるって」

 ナガレが言った。

「餌と間違われて食われんなよ」

 ピノの台詞に大きな鋏を上げてチョビが答えた。いや、あれは抗議だ。

「ナーナ」

 ヘモジが野菜スティックを出すようせがんだ。

 僕は野菜スティックを出すと空いたカップに突き刺した。

 ピノとピオトとテトは早速、持てるだけの皿を持って、肉の列に並んだ。残りの食器を女性陣が並べていく。

「お、おい。お前ら、一体なんなんだ? お前らも冒険者なのか?」

「歳は? 歳は幾つだ?」

 妖精さんの盾持ちとリーダーが一緒に列に並んでいるピノたちに尋ねた。

 周囲の大人たちも側耳を立てる。

「僕たちはまだ子供だけど、あの船のクルーなんだ。冒険者はピノだけだよ」

 テトが答えた。

「それであの船はなんなんだ? なんで子供が船員なんだ?」

「あれは兄ちゃんの船だよ。冒険用の船なんだ。なんで俺たちが乗ってるかというと、テトが空を飛びたいって兄ちゃんにお願いしたからだ。俺たちは最初、テトの付き添いで乗ってたんだ。けど耳がいいって買われてさ。索敵とか地図作りとか便利だから」

「あのさ、あの人の奴隷なの?」

 側にいた獣人の少年が聞いてきた。

「違うよ。僕たちが誘拐されて奴隷にされそうになったのを若様は助けてくれたんだ」

「お給料だってちゃんと貰ってる。基本給と出動手当と、それに船で魔物を倒したときは兄ちゃんのパーティーと同じだけの報酬が貰えるんだ」

「ファイアードラゴン倒したときは凄かったよな。倒したのは主に兄ちゃんとヘモジだけどさ」

「あれは怖かったよなぁ」

「ドラゴン?」

「おいおい、火竜と間違えてんじゃないのか?」

 リーダーが言った。

「火竜なら随分倒してるから間違えないよ」

「大きさ全然違うし。火竜なんて子供だよ」

「火竜なら俺たちだけでも倒せるしな」

「はあ?」

「勿論、あの船と装備あってのことだけどね」

「そうだ。俺たちのこの正装もドラゴン装備なんだぜ。すっげー軽くて丈夫なんだ」

 そう言ってピノは外套の胸元を開けた。白い鎧が見えた。

「おい、待てよ。それって…… あの兄ちゃん、ドラゴンスレイヤーってことなんじゃねーのか?」

「他の魔物もちゃんと狩ってるし。ドラゴン専門ってわけじゃないよ」

「でも若様、十匹ぐらい倒してるよね? フェイクでしょ。アイスにスノーにアースにファイアー」

「でも依頼に掛けないで知り合いの商会に流すから、ギルドポイントいつも付かないんだよね。ベヒモスとかコカトリス倒したのも『銀花の紋章団』の依頼だしね。ほんとならとっくにS級だよ」

「『銀花の紋章団』! 潰れたんじゃなかったのか?」

「僕たちの町は『銀花の紋章団』の本拠地だよ。潰れるわけないじゃん。スプレコーンって言うんだけど、おじさん知らない?」

「ちなみに俺たちも『銀花の紋章団』の一員だから」

「見習いだけどね」

「スプレコーン……」

 子供たちも大人たちも獣人は皆、何かに取り憑かれたように放心してしまった。

「本当に存在したんだ……」

「伝説の町……」

「伝説?」

 ピノたちは首を傾げたが、肉の順番が回ってきたので、話はそこで途切れた。

「ピノは口が軽いんじゃないの?」

 聞いていたナガレが言った。

「話す相手は選んでますよ。ああ見えて慎重派です」

 チッタが笑った。

 元気がいいことと、粗雑であることはイコールではない。

「なぁ。エルリン。わたしたちでもあの船買えるのかい? ファーレーン人じゃ、無理だと思うかい?」

 ソーヤ…… 酒臭い。

 アサシンのホーキーが申し訳なさそうに付き添っている。

「登録は必要ですけど、上級冒険者だし、大丈夫だと思いますよ。ただ、順番待ちが…… いつになるか分かんないですよ。手っ取り早く手に入れたいなら、『ビアンコ商会』のドラゴン討伐依頼を受けるといいですよ。ドラゴン一体と交換で、ただで造って貰えますから」

「ドラゴン一体!」

 ふたりは目を丸くした。

「じゃなきゃ、やっぱり順番待ちかな」

「『ビアンコ商会』というのは?」

 ホーキーが聞いてきた。

「アールハイトで唯一、造船が認められている商会です。うちの町に造船工房があるんですよ」

「お待たせー」

 山盛り肉が載った皿を持って三人と盾持ちとリーダーさんが戻ってきた。他の具材を持った魔法使いと回復役のふたりも合流した。回復役の男はロザリアの顔を見ながら、誰かに似ていると訝しんだ。聖騎士崩れは間違いなさそうだ。彼らは隣に席を作った。

 リオナも欠伸をしながら戻ってきた。

「お腹空いたのです」


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