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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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北方事変(うまくいかない肉祭り)15

 まず大きなブロック肉をこれ見よがしに即席の作業台にでんと載せる。それを更に小さなブロックに切り分け、ついでに脂身も切り分ける。

 その脂身で焼けた石の上に油を引いていく。プチプチと食欲をそそる音がする。

 子供たちは石のお皿を大事そうに抱えて、石のかまどの前に集まってきた。

 僕はステーキサイズに切り分けた肉を焼けた石の上に並べていく。

 ジュー、ジューと、いい音を出して焼きが入る。

「焼き方は?」

 尋ねたが、答えが返ってこないので、言い方を変えた。

「どれくらい焼いた方がいい? 半生か、しっかり焼くか?」

 子供たちはそれでも首を傾げて、親の方を見るが、親もなんと答えていいのか考えあぐねていた。

「それじゃ、おまかせってことで」

 僕がそう返すと、なんだかほっとされてしまった。

 ロメオ君は水筒に水を入れて回った。

 子供たちが使っているコップは堅い木の実を半分にして、なかをくりぬき、据わりをよくするために底を切り落とした簡素なものだった。触ると木製品と遜色なかったが、どれも素の材質そのままに歪だった。

 余程喉が渇いていたのだろう。子供たちはなみなみ注がれた水を一気に飲み干してしまった。 そして空になった器を悲しそうに見つめた。近くにあった雪を放り込もうとする子もいた。

 でもその前にロメオ君が「飲みすぎるとお腹壊すぞ」と言いながら水をつぎ足していった。

 子供たちは驚いて、ロメオ君の顔をまじまじと見つめた。

 お代わりのない世界にいたら、こんなことにも驚くものなのか? それとも人族が自分たちの給仕をしているからか?

 そんな目をされたら、もっと驚かせたくなるじゃないか。

 肉が焼ける頃には子供たちはみんな用意万端。口を半開きにして、涎を溜めていた。

 どこの子供も変わらない。

 焼き上がったステーキをナイフで切り分け、子供たちの皿にどっさりと載せていく。

「どんどん食いな。まだまだいっぱい焼くからな」

「足りる?」

「さっきの塊は肩のこの辺りの肉だ。他の部位もまだまだいっぱいある」

「どこに?」

 肝心の現物が見当たらないことに子供たちは首を捻った。

「魔法使いには内緒が多い」

 オクタヴィアが答えた。

 ファーレーン程ではないが、やはり外気が冷えているので石も冷め易い。

 その都度、魔法で熱を加えるパフォーマンスをしていたら、ギャラリーがどんどん増えていった。

「この肉、おいしいね」

 トビア妹が言った。

 鼻のいい獣人たちがこの匂いを無視できるはずがない。

 石を輪切りにした皿ならまだまだある。

 僕もロメオ君も彼らを歓迎した。

 冒険者たちはさすがに手ぶらで来ることはなく、必ず獲物を持参した。却って食材が溜まっていく。

 益々大盤振る舞いに拍車が掛かる。

「なんか、いつもの景色」

 オクタヴィアが呟き、ヘモジが頷いた。

 ヘモジは木の実で作ったパンを美味しそうに摘まんだ。

 ほとんどの避難民を巻き込んでわいわいと騒ぎ始めたら、面白くない連中も現れた。

「貴様ら、騒ぐのは勝手だが、税は納めたのか? この土地はただではないぞ。納める物がないなら食材を没収する! それらは我々の検閲を通らなかった物だ。持ち込む際にはちゃんと納める義務がある!」と宣った。

 どうやら、別の船に救われた馬鹿な貴族たちだった。滅びた国のルールをひけらかして、獣人たちを相変わらず下に見ている、ここのルールを知らない輩だ。そもそもここは冒険者ギルドとサンセベロの領主たち移住推進派が私財を持ち寄って、開拓したキャンプだ。

 いかつい私兵を五、六人連れてやって来ても、見るからに身分がありそうだったとしても、他人の開拓地で好き勝手やっていいわけがない。

「貴族というなら、まず名乗られよ。あなたの諸領は何処か?」

 冒険者のひとりが言った。

 貴族は言葉を詰まらせた。何せ、すべてが海の底だからだ。

「黙れ! 冒険者の分際で奴隷共に与する気か!」

 私兵が武器に手を掛けた。

「ここは冒険者ギルドのキャンプ地だ! 貴様ら、祖国を見殺しにした貴族の道理が通ると思うかッ!」

 恐らく、このキャンプの顔役の上級冒険者なのだろう。ドラゴンでさえ屈服させるような怒声で貴族を罵倒した。

 冒険者たちが私兵たちを取り囲んだ。

「ここには貴族なんていない。使われる奴隷もいない。いるのは国を追われた難民だけだ」

 楽しい雰囲気はなくなり、子供たちもその親も今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 なんでなんだよ。みんなやっと助かったっていうのに…… 少しぐらい楽しい気分に浸って何が悪いんだよ!

 僕の拳を誰かが握り締めた。

 ソーヤだった。

「任せておきな」

 彼女は僕に耳打ちして、一言、尋ねてきた。この肉はあれかと。

 僕は彼女の予想した答えに黙って頷いた。

「まあまあ、皆さん。こちらの方々は肉を分けて欲しいとおっしゃっているだけですよ」

「黙れ、ソーヤ」

「黙りません! この肉を提供してくれたのはそこの少年ですよ。狩りの獲物を惜しげもなく皆のためにと振る舞っているところに、わたしたちがご相伴に与っているだけじゃないですか。彼が肉を分けてもいいというのですから、構わないでしょ? 勿論、税金なんてふざけた主張を繰り返すなら全体会議に掛けて、このキャンプから放逐するだけですが」

 ソーヤが僕の用意した肉のブロックを貴族たちに見えるようにちらつかせた。

「よかろう。十人分だ」

 そう言って貴族が金を出した。

「足りません」

「なんだと!」

 収まり掛けたところに、動揺が走る。

「その金額では一人前も買えないと言っているのよ」

「どういうつもりだ?」

 貴族が顔を真っ赤にした。が、ソーヤは動じない。

「愚弄したいだけか? 売る気がないならそう言ったらどうだ!」

 声が震えている。

「相場の話をしているんです。この肉はただの肉ではないんですよ。ドラゴンの肉に匹敵する希少品なんですよ」

 周りの人間が全員沈黙した。

「おいしいの当然。その肉、ウルスラグナ」

 オクタヴィアがサイコロ状にカットした肉を無造作に口に放り込みながら言った。

 獣人たちはそもそも縁のない話であるが、冒険者でその名を知らない奴はかつての僕ぐらいである。

「ウルスラグナだって!」

「重さと同等の金と交換されるという伝説の?」

 獣人たちの手まで止まった。

「さっき偶然、森で見かけたので、狩ってきたんですよ。どうせ僕たちだけじゃ食べ切れないから。みんな、遠慮しなくていいですからね」

「狩ってきたって…… 固くて弓は通らないし、警戒心が強くて、逃げ足も早い。ここに来てまだ半日だろ? 軽い気持ちで狩れる奴じゃないぞ」

「そうですか? 狩ったのは二回目ですけど、特に倒すのに苦労はしなかったですよ。どちらかと言うと運ぶのに苦労したぐらいで」

 周りがポカンと見ている。

「トビアもみんなも遠慮するな。お前たちのために獲ってきたんだからな」

「でも……」

「遠慮しなくて平気。若様はいつも肉祭りしてるから」

 オクタヴィアが肉を頬張った。

「肉祭り?」

「狩りで獲ってきた獲物で、住人たちとどんちゃん騒ぎするお祭り」

「もう少しで遅刻するところだったです」

「人の施しを金で買おうとするからおかしなことに……」

「え? リオナ?」

「迎えに来たです」


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