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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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北方事変(どこにいたって)14

 崖は森から突き出した矛先のようだった。海水に浸食されて残った岩盤が地面から斜めに生えていて、そこがワイバーンの溜まり場になっていた。

 ワイバーンの激突で矛の先端がポキリと折れている。

 そしてもう一度、もっと短くなってくれないかと魔法で作った大岩を落としたのだが。

「あら?」

 今度は岩場に弾かれた。

 さっきはたまたま当たり所がよかったのか。

 僕の落とした岩はそのまま傾斜を転がって下まで落っこちた。

 ワイバーンが崖の上からこちらをしきりに牽制している。

 よくよく考えると、飛び立つ順番待ちをして崖の峰に列を作ってるわけだから、滑稽と言えば滑稽な情景ではある。

 一番上にいる奴が、僕たちを警戒してなかなか飛び立たないものだから、下から突き上げられていたり、辛抱のない連中が列の途中から飛び立っては、手ぶらで最後尾に並び直したり。ただの小鳥の戯言なら笑って見ていられるのだが。

 肉食の彼らに飛来されてはたまらない。

 大岩のなかを寝床にしていた昨日までならそれでもよかったろうが、今となってはそれでは困る。

 飛来するなら大岩の向こう側にお願いしたいところである。これから防壁を築くならその更に向こうに。

 どうやって足場を崩したものか。

「ナー」

「うー」

 ヘモジとオクタヴィアも考えている。

「やっぱりワイバーンは食べられない」

 そっちか!

「あの崖を崩す方法ない?」

「ナーナ」

 いい考えがある?

「ほんとか?」

「ナーナ」

 僕の剣を貸せって?

「何をする気だ? 僕の剣を使って、あれを斬るつもりか?」

「ナーナ」

「違う? ミョルニルも持って行く?」

「ナーナ」

「援護しろって? 大丈夫か? 変な使い方するなよ」

「ナーナ、ナーナ!」

「ヘモジ流、岩石破壊術!」

 オクタヴィアがリュックから飛び出してきて、目を輝かした。

「壊すなよ」

 僕は剣をヘモジに持たせた。

 ヘモジは剣が重くて空中でバランスを崩した。

「チョー」

「あ」

 ヘモジは僕の助けも無視して、バランスを崩したままダイブした。

 下でワイバーンが口を大きく開けて、獲物が勝手に入ってくるのを待っている。

 が、ロメオ君の攻撃が横槍を入れた。

 その隙にヘモジは巨大化して、ワイバーンの上に飛び降りた。

「ナーナナー」

 首をへし折り、ポージングを決めた。

「ナ、ナーナ」

「今必殺の!」

 オクタヴィアが通訳する。

「奥義!」

「ナ・ナ・ナーッ」

(くさび)撃ちッ!」

「ああッ! こら、ヘモジ!」

 ヘモジは岩場に僕の剣を突き立てた。そして、その上からミョルニルで!

「あああああっ!」

 まさに石工が石を切り出す折、楔をハンマーで打ち付ける要領で、ヘモジは巨大化した僕の剣の柄尻を更に大きな神鎚ミョルニルでぶっ叩いた。

 剣の刃が地面に食い込んだ。

 あっという間のできごとでだった。

「ヘモジ……」

 岩場が崩壊した。

 上の方に陣取っていたワイバーンは崩落してくる岩と一緒に落ちていった。

 飛び立とうとして飛び立てた器用なワイバーンはいない。皆落ちた。

「刃こぼれしてたらどうしてくれる」

 今や頂点となった岩場の先端でワイバーンに囲まれているヘモジを再召喚して、回収すると、すぐさま僕の剣を取り上げた。

「よかった、刃こぼれないみたいだ」

「魔法攻撃付与のおかげ、簡単に切れると思ってた」

 オクタヴィアがヘモジの言葉を通訳する。

「剣をああいう使い方しちゃ、駄目だろ、ヘモジ!」

 猫パンチされた。

「ヘモジよく分かってる。信用第一」

 お前が言うか。

 ロメオ君も呆れながら併走している。

「取り敢えずワイバーンは片づいた。飯だ、飯」

「そうだった」

 猫の目が輝いた。

 ヘモジは少し落ち込んでいる。

「ヘモジ、よくやった。でも次からは他の奴の剣で頼む」

「ナーナ」

「それをやったら死ぬ!」

 オクタヴィアが両手をクロスしてバッテンを作った。

「ナーナ」

 ヘモジはアイシャさんの剣を使うと冗談を言ったのである。

「発見! 肉!」

 オクタヴィアが言った。

「ああっ!」

 ウルスラグナだ…… 伝説の猪…… 鉄の皮膚を持つと言う。なんでここに?

 僕はライフルを構えた。そして一撃必中。


「重い……」

 一匹、丸々担ぐには相変わらず重すぎた。前回はチョビに担いで貰ったんだが、今回は間を端折って、『無刃剣』でブロックに切り分け、余分を『楽園』に放り込んだ。

「帰って焼き肉するぞーッ!」

「おー」

「ナー」

「ほんとにウルスラグナだ……」

 ロメオ君が放心している。

「初めてじゃないだろ?」

「そうだけど」

「ギルドも調査が足りないな」


 僕たちは三階建ての安普請の家に戻ってきた。

「お帰りなさい」

 トビアの妹が出迎えた。チコよりまだ幼い。

「お腹空いたか?」

「うん」と頷いた。

「お兄ちゃんは?」

「釣りに行った」

 お、ちゃんと働いてるな。

 奥からお母さんが出てきた。深々と頭を下げられた。

 ヘモジとオクタヴィアがトビアを呼びに行っている間に僕たちは焼き肉を焼くための道具を揃えた。

 手頃な石を見つけてきて僕はそれを輪切りにして皿にした。

 そして別の大きな丸い石を用意する。

 味付けは塩しかないが、まあいいだろう。後は飲み水だが、それはいつでも用意できる。

「お、何するんだ?」

 妖精さんチームのサボり魔ソーヤが三階の窓から顔を出した。

「獲物を狩ってきたから、食事にするよ」

 トビアが戻ってきた。友達らしき獣人の子供も一緒だった。

「他の友達も呼んでおいで」

 備蓄を金で買った連中は既に煮炊きを始めていたが、そうではない非力な者たちはトビアのように釣れるまで海に糸を垂らすしかない。

  僕は早速、大きな丸い石を転がしてきて、半分に切り分け、断面の平らな面を上にして設置した。

 そして魔法で熱し始めた。真っ赤に焼けると後は保温のために火の魔石を下にくべた。

 それだけでも周囲の者たちは驚いた。

 火の魔石で石を温めるなんておかしな真似は普通しないからだが、生憎、僕たちは普通にする。暖も取れるし、異世界で言うところの遠赤効果で肉もばっちり、うまく焼けるのだ。

 妖精さんたちも戻って来た。兎の肉や木の実やらをどっさり持ち帰ってきた。

 近所の女たちは木の実をすり潰して水を混ぜてパン生地のようなものをこしらえた。それを僕が焼いた石の上に貼り付けていった。するとあっという間にふっくらしたパンができあがった。

「なるほど、そうやって使うのか」と皆、感心した。

 石をスライスした皿を全員に配った。

「これ、お前がやったのか?」

 ソーヤが聞いてきたので、目の前で石をスライスしてやった。

「肉を焼くぞ」

 子供たちが飛び跳ねた。


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