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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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北方事変(新天地)13

『こちらは全員無事。帰り遅れる。心配無用』


 通信文を提出しようとしたら、僕の名前を確認した窓口の職員に「連絡が入っています」と言われた。

 手渡された通信欄には『リオナたちが飛空艇で迎えに行った。無駄に動くな』という旨が姉の名で記されていた。

「動くなって言われても、ここにいること分かるのかな?」

「分かると思いますよ」

 出たな、怪しい店員!

「この場所のことは王国も気付いていますし、事前情報も送ってありますから」

 にこりと笑われた。

「もしかして身内?」

「昔、お兄さんと同じ部署にいました。嫁がこっちの出でしてね、たまに割のいいバイトをしてるんですよ。彼の弟さんでしたか?」

 兄さんって、エルマン兄さんのこと? 同じ部署ってことは諜報関係……

 僕の署名を見て気付いたようだ。

 そういや名乗ってなかったな。

 遅ればせながら挨拶を交わした。

 店員は笑顔でジョンと名乗った。絶対嘘だろ。

 彼が言うには崩壊前日に大陸と通信ができたようで、既にこちらの状況や移住計画案などの情報は送信済みとのことだった。

 リオナたちが慌てて飛びだしたのでなければ、すぐに合流できるだろうとのことだった。


 時間ができた僕たちはまず避難民たちの住居を造る手伝いをした。

「どうせならもっとゆったりすればいいのに」

 場所が狭いんだから仕方がないと他の魔法使いに言われたので、階層構造にすればいいだろうと、試しに三階建ての家を造った。

「トビア、家族は母ちゃんと妹だけか?」

 遠巻きに見学していたトビアを呼んだ。

「あと叔母さんと連れ子がいる」

「連れ子は小さいのか?」

「僕より一つ下」

「そっか。じゃ夜泣きとかはないな。だったら、五人で好きな階に入れ。あとで好きなように仕切りを入れてやる」

「残った階の一室には僕とロメオ君が入る。残りの一室は…… トビア知り合いいるか?」

「いいの勝手に選んで?」

「日暮れまでに、全員分、造れるから気にするな」

「俺たちが入る!」

『グラキエース・スピーリトゥス』のいかつい精霊さんたちがやって来た。

「獣人同士で固まった方がいいわよ。馬鹿な連中が全滅したわけじゃないからね」

 ソーヤが言った。

「それもそうだな。上級冒険者が一緒ならそうそう文句は言ってこないだろう。他の知り合いの冒険者にも声を掛けてこよう。とても即席とは思えない上等なできだ」

 リーダーが言った。

「このまま定住してもいいくらいだ」

 一番身体の大きな盾持ちが言った。あんたじゃ床が抜けそうだよ。

「こっちも取り敢えず箱だけ造っておいたよ」

 ロメオ君がヘモジと一緒に戻ってきた。

「薬なしでいけそう?」

「この程度なら、大丈夫かな」

 万能薬の使用を控えるために、僕とロメオ君は使用する魔力を回復量相当に絞ることにした。

 僕の場合、魔力消費の大きい『転移』や『楽園』のために、元々回復量を多く設定している。だからこの程度の消費なら付与効果分だけで使い放題なのだが、ロメオ君の場合、装備を一新したとは言え、消費と回復のバランスが実際どうなっているのか心配だった。どうやらこの程度の魔力消費なら問題ないらしい。

 他の魔法使いが、躍起になって一軒の家を建てている前で、僕とロメオ君は三階建ての家を次々建てていった。

 妖精さんたちの知り合いの魔法使いたちは早々に住宅の建設を僕たちに丸投げして、自分たちは魔物対策を家々に施していった。

 おかげさまで、人気殺到のようで、避難民が次から次へと入居を希望してくる。

 そのうち貴族の仕切りたがりが現れるが、上級冒険者たちの集まりが管理していると知ってすごすご引き下がっていった。

「何が貴族だ。治める土地も国ももうないというのに」

「誰のせいでこうなったと思っていやがる」

 実情を知る冒険者たちは相当腹に据えかねているようだった。彼らの多くはファーレーン出身で、当然身内がいたのだろうから。


 住む場所ができたら、今度は食事である。

 まず冒険者ギルドに向かい、地域情報を手に入れる。

「この辺りで食える奴は……」

 ロメオ君は据え付けの『魔物図鑑』を開いた。

「うはっ、サンドロックトードがいる」

 接着剤の原料になる粘液を出す巨大蛙の亜種がこの先の森のなかにいるようだ。

「あれはやばい」

 僕は実感を込めて言った。

「他には?」

「食えないのばっかり。いいのいないね。ライノスぐらいだ」

「手頃に野牛とかいないかな。この際ドラゴンでも我慢す……」

「ワイバーンだ!」

 突然、見張りの兵士が叫んだ。

 大きな影が頭上を通り過ぎた。

「戦闘準備ッ!」

「はずれだよ。せめてここは火竜じゃなきゃ。倒しても食えないんじゃ、無駄骨だよ」

「何暢気なことを言ってるの! 避難民が狙われてるのよ!」

 ソーヤが真面目だ。酒でも飲んだか?

「近くにワイバーンの巣があるってことだね」

 あの大岩の先に手頃な山か高台でもあるのだろう。

 旋回したワイバーンが避難民が屯する海岸に降下した。餌がよりどりみどりで、気をよくして羽をばたつかせている。

 僕とロメオ君は急いで三階の部屋に上がり込み、窓から覗いた。

 僕はライフルを取りだした。

『一撃必殺』を使って、狙いを定める。

 頭が吹き飛んで、首から下の胴体が岸辺に転がった。

 避難民がワラワラと散らばった。

「ヘモジ、オクタヴィア行くぞ」

 僕たちはボードを使って舞い上がると、大岩の上に降り立った。

 後続が既に空を旋回し始めている。

 開拓が遅れていた理由はどうやらワイバーンのようだ。巣が近すぎるのだ。

 西の未開の地の火竜に比べたら楽なものだが、巣のある高台に上がるには目の前の絶壁を登らなければならないようだった。

 取り敢えず今飛んでる奴だけでも処分しておくか。

 周囲を警戒しつつ、僕は転移して敵のど真ん中に出た。

 ロメオ君も僕の開けたゲートを潜って現れた。

「上!」

 オクタヴィアの警告に反応して、僕は上から接近するワイバーンを撃ち抜いた。

 ロメオ君も火の玉の連射をお見舞いした。

 ワイバーンはあっという間に燃え上がり、頭上を通過して、錐揉みしながら地面に落ちていった。

「左!」

「ナーナ」

 あっち? どっちだ?

「下!」

「じゃなかった、後ろ!」

 ことごとく仕留めていった。

 そのなかの一体がたまたま崖に衝突した。

 崖が大きく崩れ、頂が大きく滑落した。

 随分脆かった。崖の高さが明らかに目減りした。

「なるほど」

 飛び立つ足場の高さを低くできれば、航続距離を短く制限できる。キャンプが直接襲われることもなくなるか。

 僕は巨大な岩を作り上げた。そして崖目掛けて落下させた。


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