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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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北方事変(新天地)12

「またあったわね、坊や」

 目立ちたいけど地味な寒冷地装備でどっちつかずのお姉さんが言った。

「どうやって?」

 僕は海面に浮かんでいる氷の塊を見下ろした。

「これくらいの段差、でかい魔物とやり合ってんだから飛び越えられて当然でしょ?」

 だったら弓を壊される前に逃げなよ。

「段差……」

 海面からここまでの高さを再確認して、ロメオ君が感心している。

「でも他の人は梯子使って上がってくる」

 オクタヴィアが突っ込んだ。

 お姉さんは固まった。

「猫がしゃべった!」

 突っ込みは無視ですか?

「尻尾が二本ある! なんで? これあんたの飼い猫でしょ? どうなってんの? よーし、よし、よし。こっちおいでー」

 オクタヴィアに注意が向いてる……

「今のうちに」

 逃げようとしたが、背中にピタリと貼り付かれた。

「実はね、坊や。これのことなんだけど」

 僕がぶった切った弓を僕に巻き付いたまま、ちらつかせて見せた。

「一応補修したんだ?」

「他に言うことあるでしょ?」

「ごめんなさい。弁償します」

「まあ、嬉しい! やっぱり美人は得なのかしら? お姉さんに惚れちゃった?」

 僕の周りにはいないタイプだ。

 でもこの人が脚力ではなく、風魔法を操って、高速移動したことは分かった。意外に魔法も達者なようだ。魔法の矢を自作する口かな?

「そう言えば、君、剣士じゃなかったの?」

 杖に持ち替えたままだった。

「剣士のような、魔法使いのような……」

「どっちつかずは駄目よ。ていうか、こんな子供に手玉に取られちゃって、恥ずかしくないのホーキー?」

「弓を折られたのはお前だろ、ソーヤ」

 うはっ、アサシンのお兄さんだ。

 続々と遭難者とメンバーが甲板に上がってくる。

「申し訳ありません」

「いいってことよ。まさかこんな事態になるとは思ってなかったからな」

「話を聞かせてくれ。納得できたら、謝罪はいらん。ソーヤの弓も自腹を切らせる」

 剣士も甲板に上がってきた。どうやら彼がリーダーのようだ。

「なんでよ!」

「子供にたかる気か!」

「わたしたち全員を手玉に取るような子なんだから、いいでしょ? きっとお金持ってるわよ?」

「そういう問題じゃない!」

「取り敢えず何か食べ物ない? お腹と背中がくっつきそうなのよ」

 お姉さん、あんたマイペースだな。寒いんだから胸隠そうよ。

「クッキーでよければ。後は釣りたての魚しかありませんが」

 ロメオ君がバケツを見せた。

「あら、しけてるわね」

「この船には大勢の避難民がいるんです。水は魔法でなんとかできますけど、食料だけはなんともならないんで」

「何もかも沈んじまったからな」

「とりあえず、ここではなんなので」

 折角船のなかが暖かいのだから、こんな冷えた甲板で話をしなくてもいいだろう。

 本来物資をしこたま貯蔵しておかなければならなかった空の船倉の一室に僕たちは場所を取っていた。

 上が手狭にならない限り、ドワーフ以外、ここには入ってこない。

 その前に僕はひとり、別の船倉の一室に立ち寄り、食料をぶちまけてジグロに告げた。

「取り敢えずこれを。みんなに配って、今日のところはこれで凌いでよ」

 ジグロとその仲間は驚いた。

「何も聞かないでよね。それともう次はないから。釣り糸を垂れるしかないよ」

 僕はあからさまに杖を掲げて、魔法使いをアピールした。


 間借りしてる船倉に戻るとロメオ君が、彼らと敵対する羽目になった理由を説明していた。

 弓使いのお姉さんは話そっちのけでオクタヴィアとヘモジとじゃれ合っていた。

 僕は人数分の菓子パンを提供した。

「こんな物しかないんですけど」

「随分しゃれたものを備蓄しているな」

「いえ、たまたま僕らが持ち込んだ物で、在庫はありません」

「釣り糸を垂れるしかないわけか」

「俺たちの備蓄も助けた連中に振る舞っちまったからな」

 お湯だけはいくらでも用意できるので、お茶にした。


 話が一通り済み、弁償を免れた僕たちは、代わりに彼らの素性を教えて貰った。

 僕たちのいた大陸の、ファーレーンを挟んだ反対側に、僕たちの知らない大陸があるらしく、彼らはそこで活動しているファーレーン出身の正真正銘のS級冒険者らしかった。パーティーの登録名は『グラキエース・スピーリトゥス』意味は『氷の精霊』だそうだ。

 はっきり言って似合わない。『エルリンチーム』よりは遙かに増しだが。


 彼らの狩り場は間違いなく未開の地であるらしく、王国が攻略している西方の未開の地の果てにある海を、さらに跨いだ先にあるらしい。

 そこにはファーレーンから多くの冒険者が集まり、新天地として開拓を進めている真っ最中の場所だったらしい。

 彼らのパーティーはたまたまメンバーの一人が傷付き、里帰りしていて今回の事件に巻き込まれたらしい。

「皆さんの家族は?」

「俺たちはファーレーンの移住計画推進派に雇われて行動していたんだ。ドワーフがもたらした情報も以前から聞いて知っている」

「たぶんお前たちの警告を聞いた段階で、仲間と一緒に行動に移してるはずだ」

 アサシンのホーキーが言った。

「じゃあ、この船に?」

「いや、自前の船があるんだ。俺たちが仕事のために使ってる船がな。そいつで脱出しているはずだ」

「へー、船を所有してるんだ。いいなぁ」

「推進派って?」

 ロメオ君が聞き返した。

「真面目にこの国の未来を考えていた連中さ。島の住人を俺たちが開拓してる大陸に移住させる計画だったんだが、間に合わなかったな……」

 ちゃんと考えていた連中もいたんだ。

「じゃあ、この船が向かってる先って、もしかして」

「サンセベロの領主は推進派のパトロンの一人だったはずだ。恐らく」

「…… 僕たち、トゥーストゥルクに帰れます?」

「今すぐってわけにはいかんだろうな」

 ロメオ君と顔を見合わせた。

「ですよねー」

「向こうにも冒険者ギルドがある。ギルド通信が使えるから家族と連絡を取るといいだろう」



 翌々日の夜明け前に目的の港に着いた。が、まだ暗かったので、安全を考え、日が昇ってからの上陸となった。

 港に桟橋はあったが、さすがにこの船が接岸できる水深はなかった。

 港の船に迎えに来て貰って、乗り換えながらの上陸作業となった。

 僕たちは面倒なので、海を凍らせながら歩いて上陸した。

 上陸は滞りなく行なわれ、開拓地の推進派側にも悲報が告げられた。力及ばなかったことに冒険者たちは皆、うなだれた。

 キャンプ地は大岩と絶壁で外界と隔絶された絶好の場所にあった。

 内地との行き来は、大岩を掘り抜いて開けた通路から行なっているらしい。

 ドワーフじゃあるまいに、冒険者たちはその大岩のなかに居住空間(スペース)を築いていた。

 さすがに船の住人をすべて収容するには手狭だった。

 船は再び救助のためファーレーンに引き返すことになっている。東の地が崩落を免れているなら、まだ助けを待っている人たちがいるはずだから。

 そのためにも積んできた避難民はここに降ろしていかなければならない。

 彼らの収容のため、計画では既にキャンプ地を拡大していなければならなかったが、大岩の向こうに城壁を築く作業は遅々として進んでいなかった。

 魔物の襲来が後を絶たず、一進一退を繰り返していた。

 次に船が戻ってきたときに、果たして上陸できる場所を確保できているのだろうか。

 怖いのはやはり空からの襲来だろうが、ここには障壁すらない。それを築くための専門家も資材もないのだ。つくづくファーレーン王室の怠慢が恨めしい。


 大岩のなかに全員収容できないとなれば危なかろうと外に築くしかない。

 魔法使いたちが砂浜に土の家を急ピッチでこしらえ始めた。

 さすが上級者ともなれば作業は手慣れたものだが、やはり魔力量がネックのようだ。回復薬などの物資も滞っているのだろう。家を一軒造るにも一人の魔法使いが付きっきりだ。

「用事が済んだら、僕たちも手を貸そう」


 僕たちは通信をお願いしようと冒険者ギルドの出張所に向かったが、みな考えていることは同じようで、既に長蛇の列ができていた。

 僕たちが窓口に辿り着いた頃には、もうすっかり昼になっていた。腹減った。


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